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第12話 知らないこと、ばっかり

夢の中で、何か光が跳ねていた。


(…お前、なんだ)


何か喜んでいるらしいのだけはなぜかわかった。

光は、ぴよぴよはねながらどこかへいく。


イクスは目を覚ました。


「…俺……」


体が軽い。

バフとかそういうのではなく、久しぶりによく眠れた。

そんな感覚。


「…そっか、俺、レオンさんのバフで……」


優しく染み入ってくる感覚だった。

慈しむように触れたのはレオンだったのか精霊だったのか。

わからないが、すごく安らいだ。


「!そうだ、レオンさん!!」


同じベッドで寝ないといけなかったやつだ。

規約違反したら、隠れ陸に行くのを楽しみにしている彼の足かせになってしまう。

毛布をめくったが、いない。


そしてー


「!?」


レオンはベッドから少し離れた位置で、宙で眠っていた。


(いや、そんなバフが存在するわけー)


一瞬動揺したが、すぐにイクスは理解した。


「あー、ベッドから投げ出されない結界が張ってあるっていってたな・・・」


その結界のおかげで、奇跡的なアクロバティックな寝方をしているのだ。

思わずイクスは笑ってしまった。


「どんだけずれてんの、この人」


その時。イクスの笑いにつられたかのように、


「…あ、おはよう、イクス」


レオンが目を覚ました。


「よく眠れた?」

「はい。なんかすっきりしてます」

「そっか」


笑って、レオンが身体を起こそうとしー


「あ」


落下した。


「いったあああああ!?何で!?何で俺落ちた!?」

「…体起こしたことで『寝てない』とか『ベッドの外』判定になったんですかね」

「え、ちょ、なにそれ」


イクスは苦笑いしながら、ベッドから降りて手をさしのべた。


「ほら、立ってください。ご飯たべにいきましょ」

「…うん」

(なんか見てらんないなあ。すごいのかダメなのかわかんない人だ)


◆◆◆


「腰が痛い」


とかぶつぶつ言いながらレオンが食堂の席に着いた。

たった2人の客には広すぎる食堂を、代わりに朝食タイムらしい船員たちが埋めていた。

割とフリーダムだ。


「まあ。外、綺麗ですよ。ほら」


ちょっと拗ねているレオンにイクスは声をかけた。

食堂は、大きなガラス窓から、外を眺めることができる。

青い空に青い海。

なかなか贅沢な光景だ。


あの大柄船員がやって来た。

両手に銀のクローシュが被せられた大きなお皿。

何となくいたずらっぽい顔をしているのは何故なのか。


(というかこの人、何のポジションなんだろう)


ちょっとよくわからない。


「おはようござます。お二方」


気取った調子でいいながら、大柄船員はやけに恭しい仕草でテーブルに皿を置いた。


「昨夜は我が船の設備の破損でご迷惑をおかけいたしました。ささやかながら、お詫びとしてちょっとレアなものをご用意させていただきました」


何故か、イクスは嫌な予感がした。

レオンの顔が輝いた。


クローシュが外される。

中からのぞいたのはー、


やたら逞しい筋肉に包まれているとしか言えないたまご。


「ひっ」


あまりにも生々しさに圧倒されて、イクスは思わず体を引いて悲鳴をもらした。


「こ、これは!」


逆にレオンは食いついた。


「ムンベルベルの…」


大柄船員が、胸に手を当てて頷く。


「ムンベルベルの卵裏返し蒸しです」

「ムンベルベル!食べてみたかったムンベルベル!夢にまで見たむん…!」

「はい。隠れ陸の現地民からの差し入れでいただいたやつです。本当は私が夜食に食べたかったんですが、大変昨日はご迷惑をおかけしたので」

「いいんですか?」

「いいんですよ」


そういえば、乗船する前にもレオンがムンベルベルは食べれますか?とか言っていたのを、イクスは思い出した。


「あの、ムンベルベルってなんですか?」


肉々しい筋肉卵を前にして、イクスは恐る恐る尋ねた。


(なんか、この卵、震えていないか?)


大柄船員がにやりとした。

レオンが何故か不敵に笑った。

この2人は時々謎の共鳴をする。


大柄船員が、テーブルの上の箱からフォークを取り出して、レオンに渡した。


レオンがワクワク顔で卵のある部分をつつくとー


べみょんっ。


卵が腹筋ーいや、背筋でもするかのように跳ねて、裏返った。


「!?」


ぶわ、と同時に香ばしい香りが広がる。


「おおっ」


レオンが感嘆の声を漏らした。


「ちょ、あの、これなんですか」

「裏返った」

「仕組みを説明してください!」

「仕方ない…そんなに聞きたいか」


レオンがもったいぶったように笑う。

そしてフォークで裏返った中身をつついた。


「ムンベルベルは卵を裏返してかえるんだよ。肉殻は内膜なんだ。ほら、容器に圧かけると押し出すとぷりんって出てくるスライムプリンってお菓子あるだろ。出てきたスライムプリンが、容器を包む。そんなイメージだ」

「あの…これ、食べられるんですよね」

「食べられますよ、もちろん」

「生きてるんですか?」

「安心してください。裏返るのはただの神経反応ですよ。ほら、そこの色が変わってる肉…孵化点をつついてみてください」


イクスは恐る恐るフォークでつついてみた。


べみょんっ。


「ひっ」


卵はちゃんと裏返り、中身が出てきた。

香ばしい香り。

香辛料が練り込まれているらしい。


(いや、そもそもどうやってねりこんだ?)


「程よく半熟のところをね、蒸すんですよ。もーおいしくてほっぺが落下間違いなし」

「いただきまーす」


レオンがなんの躊躇もなく半熟肉片を口に含んだ。


「え…夢でみたよりめっちゃおいしい…っ」


レオンはとろけるような笑みを浮かべていた。

でも目の前の物体の不気味さはどうしても変わらない、がー


(…これから隠れ陸にいくんだ。これくらい食べれなきゃー)


イクスも勇気を出して肉片を口に運んだ。

じゅわり。

獣的な臭みとは違う、だが全く知らない風味のようなものが口の中を満たす。


「うっ」


そして、一拍遅れてー


「!?」


『何か』に、舌が触れた。


「…これ、は」


慎重に、舌の上で肉を転がす。

香辛料と、知らない味が、ゆっくりと融合していきー


「…おいしい、です」


レオンがみるみるうちに笑顔になった。


「おいしいよな!」

「…ゲテモノかと思ったけど、案外いけました」


一度食べてしまうと、怖くなくなった。

もう一度フォークで肉を刺す。

肉が震えた。


「っ」


やっぱり、まだ慣れなかった。

だがー


(…知らないこと、ばっかりだ)


知らず知らずのうちに、心が躍り始めていた。

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