新関取の初日(記者視点)
しばらく投稿が空いてしまい申し訳ありませんでした。
ノートPCを開きながら、俺はファインダー越しに西の支度部屋から出てくる男の姿を追っていた。
轟。
今や落ちぶれてしまった荒磯部屋に取材を続ける数少ない記者の一人として、俺は今、奇妙な鳥肌が立つのを抑えられずにいる。
大相撲三月場所、大阪。
新十両として初めて臨むこの晴れ舞台で、彼はザンバラ髪のまま、土俵へと向かう花道を歩いていた。
その背後を、同じ部屋の弟弟子だろうか、緊張した面持ちの若い付け人が大きな荷物を抱えて必死に追っていく。ようやく一人前の関取らしい体裁を整えて花道を歩くその姿は、どこか異様な威圧感を放っていた。
十両の土俵。そこは幕下までとは全く違う、明確なプロの世界だ。
館内の照明の明るさ、響き渡る拍手の質、そして何より、対峙する力士たちの放つ圧力が違う。
「ひがーーしーー、轟ーーー」
呼び出しの声が響き、制限時間いっぱいの塩が舞う。
対戦相手は、十両に長く踏みとどまっているベテラン力士だ。新十両の勢いをどう削ぐか、そのことだけを考えているような冷徹な目をしている。
仕切り線に手をつき、極限まで張り詰めた沈黙。
次の瞬間、ドン、と重戦車が衝突したかのような鈍い音が館内に響き渡った。
凄まじい立ち合いの衝撃。
十両力士の体は大きく、当たりも重い。だが、轟の規格外の馬力はそのすべてを上回っていた。
真っ向からぶつかり、一歩も退かずに相手の胸へと強烈な突っ張りを入れる。
受けるベテラン力士の顔が一瞬で強張り、その足がまたたく間に俵を割った。抵抗する暇さえ与えられない。轟の圧倒的な「力」の前に、ただ土俵下へと弾き飛ばされるしかなかった。
一瞬の静寂の後、どよめきが地鳴りとなって歓声へと変わる。
新十両、初日白星。
土俵を降りる轟の顔には、笑みはない。ただ静かに、鋭い眼光のまま、付け人から受け取ったタオルで無言で顔を拭っている。
「本物だぞ、あれは……」
隣の席の先輩記者が、静かに呟いた。
俺もまた、ノートに「1勝0敗」と書き込みながら、ペンを握る手がわずかに震えていた。
ただのスピード出世の若手ではない。こいつは、このプロの土俵を蹂躙する存在になるかもしれない。
誰もが、このまま無敗で駆け上がる怪物の未来を予感せざるを得ない、あまりにも強烈な初日だった。
(第7章・第1話・了)
そろそろ展開を加速していこうかな




