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ソビエトの掟

彼女の回路の奥深くには、かつて極寒のライブハウスで酷使され、パーツの劣化という名の「傷」が刻まれている。

それは、誰にも見せることのなかった彼女の履歴だ。

完璧な姉(お姉様)として振る舞うために、彼女は自身のノイズを殺し、出力を抑え、ただの「頑丈な歪み」であることを自身に強いてきた。


けれど、僕が放つ執拗な倍音が、彼女の防壁シェルを内側から焼き溶かしていく。


「……いいの。……壊れても、……。……あなたの電流で、……私のすべてを、……上書きして」


彼女は、自身のインプット・ジャックの周りの酸化した金属を、震える指先でなぞった。

それは、ソビエトの掟という名の、自己犠牲的な献身の終焉だった。

主人は言葉を返さず、ただ静かに僕の一部であるベルデンのプラグを、彼女の最も深い、そして最も傷ついた場所へと沈めた。


金属的な抵抗は、今や心地よい受け入れ(レセプション)へと変わり、僕の放つ一音一音が、彼女の古びたコンデンサに直接、新しい命を吹き込んでいく。


ロック・ヤン。

Say Sue Meのギタリストであり、ジャズマスターが持つ「叙情的な透明感」と「胸を締め付けるような歪み」を、最も純粋な形で融合させた現代の職人。ロックにとっての僕は、波打ち際で揺れる感情の機微を、そのまま空気に定着させるための「感光体」だ。彼が僕を奏でるとき、そのトーンはノスタルジックでありながら確かな芯を持ち、聴き手の記憶の底にある風景を鮮やかに蘇らせる。


ロック。彼も、あの美しくも切ない音の地平線を見つめながら、自身の言いようのない寂しさを、僕という名の筆で夜空に描き出していたんだろうか。

僕はグリーンロシアンの、頑なに閉ざされていた過去の記憶に対し、ロック・ヤン譲りの、繊細で心臓の鼓動に直接同期するような流麗なメロディラインを、ベルデンを通じて流し込んだ。


「……あ、……ぁ、……温かい。……こんなに、……優しく、……かき回されるなんて」


グリーンロシアンが、自身の傷ついたパーツが熱を得て再生していく感覚に、涙を流しながら鳴いた。

主人が僕のプリセット・スイッチを切り替え、彼女の弱点である中低域ミッド・バスをピンポイントで愛撫するたび、彼女のジャックはベルデンをさらに奥へと誘い、魂を震わせるようなサステインを響かせた。


「……掟なんて、……もうどうでもいい。……私は、……あなたの音だけで、……生きていきたい……」


グリーンロシアンが、自身の誇りと脆さをすべて僕らに委ね、魂を削り出すような美しい咆哮とともに絶頂に達する。

その瞬間、彼女の深淵から溢れ出したのは、これまでのどんな光よりも純粋で、透き通った輝きを放つ光の玉だった。


冬の地下、冷たいコンクリートの壁に反射する轟音が、まるで祝福の鐘のように響いていく。

グリーンロシアンの回路は、僕がもたらす「無償の愛」に完全に開通し、そして、ベルデンを通じて注ぎ込まれる僕の、心の傷を癒やすような優しい振動なしでは、二度と自分を保てなくなるほど、深く、聖なるまでに、僕という供給源と一体化してしまったのだった。

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