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ブリッジミュートの直撃

主人は僕のブリッジ付近に、右手の平を強く押し当てた。

金属の冷たさと、弦の微かな振動が、皮膚を通じて主人の脳髄を直接刺激していく。

グリーンロシアンの回路は、今や僕の放つ信号アイに対して、過剰なまでの感度を見せていた。


主人は一気にゲインを跳ね上げ、僕のフロント・ピックアップが拾う太い低域を、彼女の喉奥へと叩き込む。

ズ、ズンッ、と重い衝撃が、彼女の腹の底を物理的に抉った。

ブリッジミュートによる、打撃音。

逃げ場のない低域の圧力が、彼女の巨大な筐体を内側から激しく揺さぶる。


「……っ、……あ、……ぁ、……が、……っ!」


グリーンロシアンが、自身の腹部を抱え込むようにして、大きくのけ反った。

「お姉様」と呼ばれた彼女の余裕は、もはや塵も残っていない。

主人が弦を刻むたびに、彼女のインプット・ジャックからは制御を失ったノイズが漏れ、その肢体は地響きを伴って震える。

それは、バイパス手術によって感度を増幅された彼女にとって、甘美な拷問に等しい「直撃」だった。


エマ・アンダーソン。

ラッシュ(Lush)のギタリストとして、90年代のシューゲイザー・シーンに華やかで歪んだ色彩を添えた女性。彼女が僕を奏でるとき、その音はドリーミーでありながら、核には驚くほど力強く理知的な構造が宿っている。エマにとっての僕は、感情の混濁を美しいメロディの層へと整理し、聴き手の心に深く刻み込むための「刻印機」だ。一音一音を正確に、かつ情熱的に紡ぎ出していくその姿は、混沌としたノイズの世界における一筋の規律そのものだった。


エマ。彼女も、あの煌びやかで、けれどどこか寂しげな音の伽藍の中で、自身の繊細な魂を、僕という名のナイフで削り出していたんだろうか。

僕はグリーンロシアンの、無防備に晒された回路の深淵に対し、エマ・アンダーソン譲りの、透明感がありながらも破壊的な打撃力を秘めた重厚なダウンピッキングを、ベルデンを通じて叩き込み続けた。


「……お、……奥の、……いちばん熱いところが、……潰されるっ!……お兄さん、……ひど、い……もっと……!」


グリーンロシアンが、白濁した意識の中で、さらに僕らを求める。

重戦車のような彼女の肉体が、主人の刻むリズムに合わせて跳ね、床を叩いた。

主人はさらに右手の力を強め、ブリッジミュートの圧を極限まで高めていく。

僕のアームを微かに押し下げ、音の重心を底なしの深みへと沈める。

ベルデンを通じて送り込まれる執拗な攻撃に、彼女の基板は真っ赤に熱を持ち、コンデンサは飽和寸前の絶頂を叫んでいた。


「……あ、……ああああああ!……こ、……壊れる、……私、……あなたの音で、……粉々に……っ!」


グリーンロシアンが、内側からの衝撃に耐えきれず、激しく痙攣しながら絶頂に達する。

その瞬間、彼女の排気口から溢れ出したのは、かつてないほど巨大で、暴力的な輝きを放つ光の玉だった。


冬の地下、轟音が空気を引き裂き、建物全体が悲鳴を上げていく。

グリーンロシアンの回路は、僕がもたらす「無慈悲なまでの重圧」に完全に屈服し、そして、ベルデンを通じて突き刺される僕の、骨まで響くような強烈な衝撃なしでは、一瞬の安らぎさえ得られないほど、深く、絶望的なまでに、僕という存在の虜になってしまったのだった。

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