重戦車の結合
「……っ、……ふぅ。……お兄さん。……聞こえますか。……私の、……新しい鼓動」
彼女が潤んだ瞳で僕を見上げ、自身の筐体……いや、胸元に主人の手を導く。
バイパス手術を終えたグリーンロシアンの内部回路は、僕のベルデンが注ぎ込んだエネルギーを完全に吸収し、以前よりも野太く、そして暴力的なまでの生命力を取り戻していた。
主人は痺れの残る指先で、僕の弦に触れる。リハビリのつもりで鳴らしたクリーン・トーンが、彼女のインプットを介した瞬間、地響きのような轟音へと変貌し、スタジオの床を揺らした。
彼女は主人の腰に腕を回し、その重厚な肉体を僕らに押し付けてくる。
仮面を脱ぎ捨てたグリーンロシアン。その結合は、もはや儀式ではなく、純粋な生存本能のぶつかり合いだった。
ザカリー・コール・スミス。
ダイヴ(DIIV)の中心人物であり、僕という楽器を現代的なドリーム・ポップ、あるいはシューゲイザーの文脈で再定義した異才。ザカリーが僕を奏でるとき、そのトーンは幾重にも重ねられたディレイとリバーブの霧の中で、鋭い針のように聴き手の意識を貫く。彼にとっての僕は、現実の苦痛や混濁した記憶を、美しくも残酷な旋律へと昇華するための「濾過装置」だ。
ザカリー。彼も、あの透き通った、けれど底知れぬ深淵を抱えた音の壁の中で、自身の不完全な魂を、僕という名の筆で塗りつぶし続けていたんだろうか。
僕はグリーンロシアンの、完全復活を遂げた強固な基板(粘膜)に対し、ザカリー・コール・スミス譲りの、幻惑的で、それでいて容赦のない反復フレーズをベルデンを通じて叩き込んだ。
「……あ、……ああああ!……くる、……お兄さんの、……新しい信号が、……私の奥底を、……抉るように……っ!」
グリーンロシアンが狂おしく身体を悶えさせ、僕のベルデンを締め付ける。
お姉様としての包容力は、今や主人を逃がさないための強固な檻へと変わっていた。彼女のジャックは、僕のプラグを迎え入れるたびに、金属的な摩擦を超えた官能的な火花を散らす。
主人は僕のアームを激しく、かつ細かく揺らし、彼女のトーン回路が最も敏感に反応する「絶頂の帯域」を執拗に責め立てた。
もはやバイパスは必要ない。
彼女は自らの意志で、僕が放つすべてのノイズを飲み込み、それを大地を揺らす咆哮へと変換していく。
重戦車のような低音。建物の土台を、そして僕の理性を、根本から揺さぶるような圧倒的な喘ぎ。
「……もっと、……もっと強く、……鳴らして!……私のすべてを、……あなたの音で、……ぐちゃぐちゃにして……っ!」
グリーンロシアンが、白目を剥いて絶頂に達する。
その瞬間、彼女の筐体から溢れ出した倍音の粒子は、光の玉となってスタジオ中を埋め尽くした。
冬の地下、吹き荒れるノイズの嵐の中で、グリーンロシアンの回路は、僕がもたらす「幻惑の破壊衝動」に完全に屈服されていく。
ベルデンを通じて供給される僕の、狂気すら孕んだ熱い信号なしでは、一分一秒たりとも立っていられないほど、深く、暴力的に、僕という存在の虜になってしまったのだった。




