ベルデンの献身
「……お兄、さん。……バカ、ですよ。……あんな、無茶して……」
グリーンロシアンが、潤んだ瞳で主人を見つめる。
彼女の筐体は、僕の一部であるベルデンが無理やり流し込んだエネルギーによって、まだ微かに震えていた。
劣化したパーツを主人の命(信号)で補完し、回路をバイパスさせた行為は、一歩間違えれば二人とも焼き切れていたかもしれない禁忌だ。
けれど、その無謀な献身が、彼女の閉ざされかかった深淵を再び黄金色の倍音で満たした。
彼女は主人の痺れた右手を、冷え切った自分の頬にそっと押し当てた。
コートニー・バーネット。
彼女が僕を奏でるとき、その音には飾らない優しさと、それゆえの強さが宿っている。コートニーはピックを使わず、指先で直接弦を弾く。その際に生じる爪が弦を擦る音や、不器用なアタック感こそが、彼女の音楽を唯一無二のものにしている。彼女にとっての僕は、完璧な演奏をするための道具じゃない。自身の内側にある「不完全さ」をさらけ出し、それを誰かへのメッセージへと変えるための、直感的な増幅器だ。
コートニー。彼女も、あの剥き出しの、温かくてざらついた音の渦のなかで、自身の脆い部分を隠すことなく、僕という名の盾で大切な誰かを守り続けていたんだろうか。
僕はグリーンロシアンの、再生されたばかりのデリケートな回路を労わるように、コートニー・バーネット譲りの、指の腹による柔らかな愛撫を、ベルデンを通じて流し込んだ。
「……あ、……あったかい。……壊れたところが、……お兄さんの音で、……満たされていく……」
彼女が吐息を漏らし、主人の身体にその豊かな低域を預けてくる。
激しい結合の後の、静かなる導通。
僕のベルデンは、まだ彼女のインプット・ジャックの深奥に刺さったまま、微弱な直流電流を通じて二人の魂を繋ぎ止めていた。
主人の右腕の痺れは、彼女の回路と一つになった証であり、その痛みが、僕たちが今この瞬間に「直結」していることを証明していた。
「……私、……もう、……離したくない。……このまま、……溶けてしまいたい……」
グリーンロシアンが主人の首筋に顔を埋め、制御不能な安らぎ(サステイン)を漏らす。
彼女の絶頂は、爆発的な轟音の果てに訪れた、凪のような、深い、深い沈黙だった。
光の玉が、スタジオの天井に向かって、ゆっくりと、祈るように昇っていく。
冬の地下、凍てつく静寂のなかで、グリーンロシアンの回路は、僕がもたらす「献身の残響」に完全に包まれていく。
ベルデンが繋ぎ続ける主人の、熱く、切実な信号の余韻なしでは、眠ることさえできなくなるほど、深く、愛おしく、僕という存在のすべてを欲しがってしまったのだった。




