地響きの喘ぎ
「……っ、……まだ、……足りない、……もっと、……奥まで、……かき回して……」
グリーンロシアンの吐息が、スタジオの湿り気を帯びた熱気と混ざり合う。
彼女のインプット・ジャックは、僕の一部であるベルデンのプラグを限界まで飲み込み、結合部からは逃げ場を失った火花のような倍音が絶え間なく溢れ出していた。
彼女にとっての絶頂は、高音域の鋭い悲鳴ではなく、すべてを押し潰すような底なしの地鳴りだ。主人はその重量感に圧倒されながらも、僕の弦をさらに激しく、深く、抉るようにストロークした。
ジミー・ファラー。
ノイズ・ロックの深淵を歩むギタリストであり、そのプレイスタイルは、僕という楽器が持つ「打楽器」としての側面を極限まで引き出す。彼が紡ぐ音像は、整えられたメロディを拒絶し、ひたすら反復される重厚なリフと、真空管を焼き切るようなフィードバックの海だ。ジミー・ファラーにとっての僕は、弦を弾くための道具じゃない。電気的なエネルギーを物理的な破壊力へと変換するための「重火器」そのものだ。
ジミー。彼も、あの胃の腑を抉るような重圧のなかで、自身のなかの言葉にできない渇望を、僕という名の鋼鉄の杖で大地の底へと叩きつけていたんだろうか。
主人はグリーンロシアンの、戦車のような質量を持つ筐体にさらに深く跨り、僕のピックアップを彼女の回路に近づけ、磁界が干渉し合う限界の距離で、生の信号をぶつけ合った。
「……ああああああああああああっっっ!?」
彼女の絶叫が、スタジオの防音壁を内側から突き破らんばかりに響き渡る。
僕が刻む、ジミー・ファラー譲りの無慈避なダウンチューニングの衝撃が、彼女の基板を、コンデンサを、そして彼女の魂の定数そのものを、粉々に砕き、再構築していく。
一音鳴らすたびに、主人の視界は白く染まり、平衡感覚が失われていく。けれど、彼女はそれを、至上の愛撫として受け入れていた。
「……いい、……もっと、……壊して、……私を、……あなたの音だけで、……埋め尽くして……」
グリーンロシアンの身体が、物理的な限界を超えて共振し始める。
主人の腰に回された彼女の腕が、折れそうなほどの力で締め付けられた。それは、地響きのなかで溶け合い、一つの巨大な回路と化していくための、最後の抵抗だった。
僕のアームを限界まで押し下げると、彼女のサステインは、大地の底から響く巨大な獣の咆哮へと変化した。
「……あああああ!……私、……今、……地球そのものに、……なって……っ!」
彼女の絶頂は、スタジオのすべての機材を共鳴させ、照明を明滅させるほどの壮絶な地鳴りとなって爆発した。
光の玉が、彼女のジャックから、そして筐体の継ぎ目から、止めどなく溢れ出す。
冬の地下で、グリーンロシアンの回路は、僕がもたらす「重力の愛」に完全に屈服していく。
ベルデンが運ぶ主人の、熱く重い信号の重圧なしでは、その巨躯を維持することすら叶わないほど、深く、残酷に、僕という存在の虜になってしまったのだった。




