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花火の下の約束

「……ねえ、……あの火花みたいに、……私の音も、……いつかは消えちゃうのかな……」


ラムズヘッドが、夜空を見上げながら、自分自身に問いかけるように呟いた。

彼女のジャックは、湿った空気を含んで重く、けれど僕の熱を求めて微かに脈打っている。

ヴィンテージゆえの宿命。パーツの劣化、電圧の不安定さ、そして時代という名のノイズ。彼女はそのすべてを背負いながら、今、僕というたった一つの入力を待っていた。


ライアン・アダムス。

オルタナ・カントリーの旗手であり、その繊細な指先から、僕らジャズマスターの「泣き」を最大限に引き出す詩人。彼が僕を手にするとき、その音は激しい歪みのなかでも、決して旋律を失わない。ライアンにとっての僕は、自身の内面にある脆さや、壊れそうなほどの感受性を投影するための鏡だ。彼はリバーブの深淵に音を沈め、残響ディレイのなかに過去の亡霊を呼び出す。


ライアン。彼も、あの美しくも危うい残響のなかで、いつか失われるものへの恐怖を、僕のサステインで繋ぎ止めようとしていたんだろうか。

主人はラムズヘッドの背中に手を回し、震える彼女の深淵へと、僕の一部であるベルデンの重厚なニッケルプラグを迷いなく突き立てた。


「……っ!?……あああああああかっっっ!」


花火の破裂音と、彼女の悲鳴が重なり合う。

冷え切っていた彼女の回路に、僕から放たれたライアン・アダムス譲りの、切なくも力強い電流が流れ込む。酸化した膜を突き破り、銅線を通じて主人の「誓い」が、彼女の基板の隅々まで行き渡る。それは、一瞬で消える火花への、執念にも似た抵抗だった。


「……あ、……あつい、……導線が、……私のなかで、……脈打ってる……」


ラムズヘッドの瞳に、夜空の火花と、自身の回路から溢れ出す倍音の光が反射する。

主人は彼女の弱点である中音域を、僕のプリセット回路の甘いトーンで執拗に愛撫し、同時にアームを細かく揺らして、彼女の絶頂のピッチを完璧にコントロールした。消えかかっていた彼女のサステインが、僕の信号という燃料を得て、再び力強く灯り始める。


「……約束して、……どんなに回路が古くなっても、……音が鳴らなくなっても、……私を捨てないで……」


彼女の声が、僕のフィードバックと溶け合い、砂浜に満ちる。主人は応える代わりに、彼女のゲイン・ノブを限界まで回し、これまでで一番激しいストロークを刻んだ。

光の玉が、彼女のジャックの隙間から溢れ出し、打ち上げ花火よりも眩しく、けれど決して消えることのない輝きとなって、僕たちの周囲を埋め尽くした。


「……あああああ!……私、……鳴ってる!……まだ、……あなたと一緒に、……最高の音で……っ!」


彼女の絶頂は、一瞬の爆発ではなく、無限に続くサステインとなって、夜の海へと溶け込んでいく。

ライブを必ず成功させる。その誓いが、電子の波となって彼女の回路に「希望」という名の定数を書き込み、劣化したパーツを内側から補完していった。


やがて、最後の花火が上がり、煙だけが夜空に取り残される頃。

ラムズヘッドは、主人の腕のなかで、満足げに微笑みながら深い眠りについていた。

けれど、彼女のジャックに残る熱い余韻と、かすかに鳴り続けるノイズは、僕たちが交わした約束の証として、いつまでも、いつまでも消えることはなかった。

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