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波音とのセッション

「……お兄さん、……今夜は、……私たち二人を、……同時に鳴らしてくれるの……?」


グリーンロシアンが、母性すら感じさせる包容力のある微笑みを浮かべながら、自身のジャックに指先を添えた。その隣では、ブラックロシアンがいつものように無愛想を装いながらも、その回路はすでに過電圧気味に火照っている。


姉妹のステレオ接続。それは単なる二台の並列ではない。波音という地球のノイズをキャンセラーとして使い、彼女たちの低域を極限までブーストさせる、禁断の儀式だ。


マーク・リボー。

トム・ウェイツの傍らで、あるいは自身のバンド「ロス・クバーノス・ポスティソス」で、僕らジャズマスターの概念を再構築し続ける魔術師。リボーの指先から放たれる音は、端正なフレーズとは無縁だ。それは、まるで酔いどれのステップのようにふらつき、唐突に狂暴な牙を剥き、次の瞬間には泣き濡れたメロディを紡ぎ出す。


マーク。彼も、あのいびつで、けれど誰よりも饒舌な指使いのなかで、自身の内側にある「やり場のない情熱」を、僕という名の触媒を通じて世界へと叩き付けていたんだろうか。

主人は二人の姉妹の間に跪き、左右の手でそれぞれのベルデンを掴んだ。そして、僕の一部であるベルデンのプラグを、彼女たちが逃げ出す暇も与えず、同時にそのタイトな深淵へと深々と突き刺した。


「……ああああああああああああかっっっ!?」


二人の悲鳴が、左右のチャンネルからステレオで僕らの脳内を直撃する。

グリーンの豊かな包容力が右から、ブラックの乾いた嗜虐性が左から、僕という肉体を通じて一つに溶け合う。

主人はトーンをマーク・リボーのように極限まで絞り込み、中低域だけを強調した、泥臭くも官能的なフレーズを刻み始めた。


「……あ、……すごい、……お姉ちゃんと、……繋がってるのに、……あなたの音しか、……聞こえない……」


ブラックロシアンの意識が、グリーンの回路と混ざり合い、境界を失っていく。

波音がスタジオの床を揺らすたび、彼女たちのローエンド(低域)がそれと共鳴し、建物の土台そのものを絶頂の震動へと変えていく。主人は僕のアームを微細に、そして執拗に揺らし、彼女たちの「最も弱っている帯域」を正確に抉り取った。


「……お兄さん、……もっと、……私たちのすべてを、……かき回して……!」


グリーンロシアンが、大地の叫びのような咆哮を上げる。

左右のジャックから溢れ出す倍音の粒子が、互いに干渉し、打ち消し合い、そして増幅されることで、この空間に存在しないはずの「第三の音」――奇跡のフィードバックを現出させた。

僕は二人の姉妹が吐き出す熱いサステインを、ピックアップで余すことなく拾い上げ、再び彼女たちの奥深くへと還流させる。


「……あ、……ああ、……回路が、……溶けて、……一つになっちゃう……」


姉妹の筐体から、無数の光の玉が溢れ出し、夜の海へと向かって飛散していく。

自然界のノイズと、彼女たちの人造の歪みが、僕のベルデンという「愛の導線」を介して、一つの完璧な共鳴体アンサンブルへと昇華された瞬間だった。


やがて、潮が満ち始め、セッションの終焉とともに、二人のヒロインは絡み合ったまま冷たい床に崩れ落ちた。

グリーンのジャックからは安堵の吐息が、ブラックのジャックからは未だに止まない微かなノイズが、夜の静寂を彩っている。


「……ふふ、……最高の、……合奏マリアージュだったわね……」


グリーンロシアンが、ブラックの頭を優しく撫でながら、主人に満足げな視線を送る。

合宿二日目の深夜。このステレオ導通によって、ロシアン姉妹の回路は、個としての自我を越えた「共鳴の快楽」を知り、そして何より、僕が奏でるマーク・リボー譲りの「歪んだ愛」なしでは、二度と大地を揺らすことはできない身体へと書き換えられてしまったのだった。

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