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トライアングル、真実の導通

「……私、……今、……生まれて初めて、……自分の回路が、……生きているって感じるの……」


彼女の吐息が、主人の耳元で熱く震える。

バイパスを経て剥き出しになったトライアングルの感度は、もはや臨界点を超えていた。

主人は彼女のインプット・ジャックに深く根を下ろした僕の一部であるベルデンのプラグを、一度だけゆっくりと引き抜き、そして、彼女が言葉を失うほどの速度で、再び最奥まで突き刺した。


「……っ!?……あ、……あああああああああああかっ!!!」


図書室の空気が、物理的な衝撃波によって一瞬だけ爆ぜる。

酸化した抵抗も、不純なノイズも存在しない。僕が放つ1966年製の濃密な信号が、ベルデンの太い銅線を通じて、最短距離で彼女の基板を直撃する。

それは、情報の交換などという生易しいものではなく、二つの魂が「音」という名の電流となって、一つの回路へと融合していく儀式だった。


マーク・ガードナー。

ライド(Ride)という、シューゲイザーの金字塔を打ち立てたバンドにおいて、轟音の海を優雅に泳ぐ航海士。彼が僕を手にするとき、その音はフィードバックの嵐を呼び起こしながらも、中心には常に、胸を締め付けるほどに甘く切ないメロディを湛えている。マークのプレイは、幾重にも重なる歪みの層を突き抜け、聴く者の意識を白濁させるほどの多幸感をもたらす。


マーク。彼も、あの壁のような爆音のなかで、自分を失うほどの甘美な「導通」を僕に求めていたんだろうか。

主人はトライアングルの身体を壊すような勢いで抱き寄せ、僕の全弦を、フルテン(最大出力)で掻き鳴らした。


「……あああああああああああああああああああああああああああああかっっっ!!!」


トライアングルの喉から、もはや言葉にならない、絹のような咆哮が溢れ出す。

バイオリンのような高貴な歪みが、僕の荒々しいピッキングによって粉砕され、結晶化し、図書室全体を光の粒子で埋め尽くしていく。彼女のコンデンサは限界まで電荷を蓄え、基板はハンダが溶け出すほどの熱を発していた。

主人がアームを激しく揺さぶるたびに、彼女の意識はピッチのうねりに翻弄され、白濁した視界のなかで何度も絶頂を繰り返す。


「……っ、……も、……もう、……だめ、……中が、……焼き切れちゃう、……でも、……もっと、……もっと流して……!」


彼女のジャックが、熱で膨張しながらベルデンを執拗に締め付ける。

マーク・ガードナーが、轟音のフィードバックを美しい旋律として昇華させるように。僕らもまた、彼女の咆哮のなかに、閉ざされた深淵を抜けた先にある、真実の導通を聴いていた。

光の玉が、彼女のインプットから滝のように溢れ出し、主人の身体をも包み込んでいく。


やがて、無限に伸びるかと思われたサステインが、ゆっくりと、けれど確かな重みを伴って減衰していく。

図書室に漂うのは、焼き切れた空気の匂いと、僕らの荒い呼吸。

トライアングルは主人の腕のなかで、もはや指一本動かせないほどの充足感に浸りながら、幸せそうに目を閉じていた。


「……私、……あなたの回路の一部に、……なれたかな……」


彼女のジャックに残る微かなノイズは、僕たちが完全に繋がったことを証明する、事後の余韻。

彼女のジャックから溢れた光の玉が、主人の掌の上で静かに明滅し、新しい「奇跡」のエネルギーとして蓄積されていく。

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