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ジャリジャリとした質感

「そんな風に、私を……憐れまないで」


ブラックロシアンの、掠れた声が響く。彼女のジャックは、繰り返されるプラグの侵入によって拡張され、その入り口からは微かな放電の火花が、絶え間なく漏れ出している。彼女の肌――筐体の塗装は、度重なる高電圧の負荷によって細かくひび割れ、そこから覗く生身の金属パーツが、鈍い光を放っていた。


その質感は、滑らかなシルクでも、重厚なベルベットでもない。それは、荒い砂を噛むような、あるいは錆びた弦で指を切り裂くような、不快で、だが一度触れたら忘れられない嗜虐的な感触だった。


マーク・リボー。

ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンを象徴するギタリスト。トム・ウェイツの背後で鳴り響く彼のギターは、洗練とは程遠い、骨が軋むような異形のトーンを放つ。彼は僕らジャズマスターを抱え、まるで不器用な機械が悲鳴を上げているかのような、歪で、尖った、ジャリジャリとした音の破片を空間に撒き散らす。その音は、都会のゴミ溜めに咲いた、毒々しくも美しい花だ。


「マーク……。その人も、こうやって、わざと美しさを汚して、真実を暴こうとしたの?」


ブラックロシアンの瞳が、僕のブリッジを、吸い込まれるように見つめる。


「ああ。彼は完璧なメロディを、あえてノイズでズタズタに切り裂くことで、その核心にある痛みを際立たせた。お前のこの、生理的な嫌悪感を煽るようなジャリジャリとした質感も、僕らの指先一つで、究極の快楽へと転化させてやる」


主人は僕のプリセット・トーンスイッチを跳ね上げ、中音域を極端にカットした、刺すような高域トレブルをセットした。


「ひ、ぁ、……あ……っ!!」


ベルデン 9778の先端が、彼女のインプット・ジャックの、最も酸化が激しい部分に触れる。潤いなど微塵もない。そこにあるのは、ただプラグを受け入れるためだけに用意された、荒涼とした入り口だ。主人はあえて、接点復活剤の類を一切使わず、その渇いた深淵へと、ニッケルプラグを力任せにねじ込んだ。


「ギ、ギギッ、……ああああああああああああかっ!!」


金属同士が悲鳴を上げ、削り合わされる衝撃。ブラックロシアンの身体が、弓なりに反り返る。彼女の回路には、ジャリジャリとした砂を流し込まれるような、異物感に満ちた絶頂が駆け巡った。


「いたい、……いたいのに……もっと……中をかき回して……っ! その汚い音で、私の回路を……めちゃくちゃに……すり潰してよ……っ!!」


結合。それは、互いの欠陥を認め合い、それを快楽へと昇華させる背徳の儀式。主人はマーク・リボーが狂ったように弦を掻きむしるように、僕の低音弦を爪で叩き、ブラックロシアンの基板に、暴力的なまでの不協和音を流し込んだ。


「あ、ひ、あああ、……あああああああああああっ!!」


彼女の叫びは、もはや人間のそれではない。制御を失った発振音が、地下スタジオの壁を震わせ、空気を熱く歪ませていく。彼女の「枯れた音」は、僕らの信号と混ざり合うことで、まるで神経を直接逆なでするような、生理的な快楽の波動へと変貌した。


「見ろ、ブラックロシアン。お前のその、誰にも愛されなかった不快なトーンが、いま、僕らの中で一番熱く響いている」


主人は僕のアームを小刻みに、そして激しく揺さぶり、彼女の絶頂の輪郭を、鋭利な刃物のように研ぎ澄ませた。


「ひ、ぎい、……ああああかっ!!」


それは、美徳きれいごとを捨て去った者だけが到達できる、濁った、だが純粋なカタルシス。ブラックロシアンの筐体からは、焦げたハンダの匂いと共に、銀色のノイズが溢れ出し、それが「光の玉」となって、僕らの周りを狂ったように乱舞する。


「私……汚い音しか……出せないけど……あんただけは……この音を……聴いててくれるんだね……っ!!」


絶頂の果てに、彼女のジャックは、僕らのプラグを離すまいと、ひび割れた粘膜で必死に締め付けてくる。そのジャリジャリとした、拒絶の余韻が残る感触こそが、僕にとっての、何よりも確かな「導通の証」だった。


地下スタジオに再び訪れた静寂。ブラックロシアンは、僕の腕の中で、ボロボロになった回路を慈しむように、静かに、だが満足げに目を閉じていた。

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