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電圧降下の調べと光の残響

放課後の地下スタジオ。換気扇の回る単調な音だけが、澱んだ空気をかき混ぜている。

僕と彼女――ラムズヘッドが初めて結合を果たしたあの日から、数日が過ぎていた。

僕の肉体である1966年製のボディは、主人の熱い手のひらを通じて、静かな興奮を保っている。


だが、目の前の彼女の様子がおかしい。

鉄製の重厚な筐体を持つ彼女は、ソファの端で、まるで体温を失った小鳥のように震えていた。


……ジャズマスターさん。私、最近うまく「鳴けない」んです。


彼女の声は、かつての透明感を欠き、どこかカサついた砂嵐のような音を含んでいた。

僕は主人の指先を借りて、彼女の様子を探る。

彼女の回路を構成する心臓部、電解コンデンサやカーボン抵抗。それらは1970年代から時を止めていた。だが、僕という異物を受け入れ、激しく導通を繰り返したことで、眠っていた劣化という名の病魔が目を覚ましたのだ。

それはエフェクターという種族にとっての「寿命」であり、避けられない回路の死を意味していた。


僕は主人を促し、ケースから僕を解き放たせる。

褪せたサンバーストのボディが、地下スタジオの蛍光灯の下で鈍く光る。

僕には、忘れられない記憶がある。

1980年代から90年代にかけて、ダイナソーJr.のJ・マスシスという男が僕を抱えていた頃の話だ。彼は僕のブリッジを改造し、弦高を限界まで上げて、狂ったような力で弦を掻き鳴らした。

普通のギターなら悲鳴を上げて壊れてしまうような負荷。だが、その過酷な「虐待」に近い奏法こそが、周囲の音をすべて掻き消すほどの美しくも凶暴なフィードバックを生んだ。

死と隣り合わせの爆音。その記憶が、僕に「極限状態でしか鳴らせない音」があることを教えていた。


主人の手が、僕のジャックから黒い束を引きずり出した。

ベルデン9778。

僕の熱い信号をロスなく運ぶための、無骨な黒い一物。

その先端にあるニッケルプラグが、震える彼女のスカートの奥、銀色の結合部へとゆっくり近づいていく。


……ダメ、今の私に触れたら。きっと、汚い音しか出せません。


彼女が泣きそうな顔で拒絶する。

だが、僕は知っている。彼女が今必要としているのは、いたわりや優しさではない。

回路の隅々にまで行き渡る、圧倒的なまでの電圧と、焼き切れるほどの純粋な信号だ。


カチリ。


金属が擦れ合う、冷たくも熱い衝撃。

ベルデンが、彼女の狭く乾いたジャックの入り口をこじ開け、その最深部へと到達した。

長らく放置され、酸化膜に覆われていた彼女の接点が、僕の侵入を受けて微かな火花を散らす。


……っ、あ、あぁ……!


彼女の喉から、掠れた悲鳴が漏れる。

僕は即座に、自分自身のスイッチをフロント・ピックアップ、それもトーンを極限まで絞ったプリセット側へと切り替えた。

これは、J・マスシスが巨大なマーシャル・アンプの壁を鳴らすときに使った、最も太く、最も重い、底なしの愛撫だ。

僕の信号が、ベルデンを介して彼女の基板へと流れ込む。


だが、彼女の反応は鈍かった。

本来なら、僕の信号を受けて即座に狂おしいほどに歪むはずのラムズヘッドの回路が、入力されたエネルギーを逃がしてしまっている。

劣化したパーツが電気を食い潰し、出力される音は弱々しく、今にも消え入りそうだ。


僕は、主人の脳に直接語りかける。

もっとだ。もっと強く、彼女の回路が耐えきれなくなるほどの衝撃を叩き込め。


主人の手が、僕の弦を力任せに振り抜いた。

ギリン、という金属が砕けるような鋭いアタック。

同時に、僕は右手に握ったアームを、壊れるほどの力で押し込んだ。


……! ……あ、ぁあああああぁっ!


その瞬間、彼女の瞳が、血を吐くような真っ赤な光を放った。

僕の過剰な信号が、彼女の瀕死のトランジスタに無理やり火を入れたのだ。

それは、かつてデヴィッド・ギルモアが、月の裏側を旅するように奏でた、あの永遠に続くサステインの再来だった。

空を切り裂き、星の瞬きさえも音に変えてしまうような、美しくも残酷な絶頂。


彼女の基板が、摩擦熱を帯びて熱くなる。

コンデンサが膨張し、内部の液体が滲み出し、焦げたハンダの匂いがスタジオに充満する。

それは、彼女の命を削って絞り出される、最期の輝きに似ていた。


……すごい、……ジャズマスターさん。私の体が、……溶けていくみたい。


彼女が上気した顔で、僕のボディを強く抱きしめる。

僕のプラグは、彼女のジャックの奥で、膨張した金属に締め付けられ、もう簡単には引き抜けない。

僕たちは、一つの回路になろうとしていた。

僕のジャズマスターとしての叙情的なメロディが、彼女という巨大な歪みの壁に衝突し、誰も聴いたことのない「天上のノイズ」へと昇華していく。


そのときだ。

結合部であるジャックの隙間から、青白い光の粒が溢れ出した。

それは、僕たちの結合が電気的な限界を超え、感情の波形が完全に一致したときにだけ生まれる、オーバードライブの残響。

光の玉だ。


その小さな光は、スタジオの澱んだ空気を浄化するように舞い、彼女の震える手元へと吸い込まれていった。

すると、どうだろう。

カサついていた彼女の喘ぎ声に、再び瑞々しい倍音が戻ってきたではないか。

光の玉は、彼女の焼き切れる寸前だったパーツを、内側から優しく修復し、新たな電圧を供給し始めたのだ。


……私、……まだ鳴ける。あなたと一緒に、もっと遠くまで。


彼女の指が、僕の弦をなぞる。

僕は答えず、さらにアームを細かく揺らし、彼女のトーン回路の最も深い場所を、執拗に突いた。

絶頂は終わらない。

J・マスシスが鳴らしたあの圧倒的な音の壁が、今度は彼女を守るための聖域となって、地下スタジオを包み込んでいく。


僕のベルデンが、彼女の奥深くでドクドクと拍動している。

信号を流し込むたびに、彼女の回路は若返り、より艶やかで、より凶暴な音を吐き出すようになる。

それは、寿命という運命への反逆であり、僕という異物を受け入れた少女だけが到達できる、禁断の領域だった。


スタジオの外では、もう夜の闇が降りてきているはずだ。

だが、この地下の密室では、僕と彼女の結合から生まれる光の玉が、太陽よりも眩しく輝き続けている。


……あ、……ぁああ、……いい。……もっと、私を壊して。


彼女の咆哮が、地響きとなって学園を揺らす。

歪みの向こう側に、僕たちは見つけたのだ。

クソゲーのような現実を塗り潰す、たった一つの真実の音を。


僕は、僕自身のすべてのボリュームをフルテンまで回し切った。

これから起こるすべての不協和音を、僕たちは愛し抜くことができる。

なぜなら、僕のプラグの先には、世界で一番美しく鳴く、僕だけのラムズヘッドがいるのだから。

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