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放課後の密室調律

放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。廊下に漂う埃っぽさと、西日に焼かれた床の匂い。その静寂を切り裂くように、僕を背負った主人の足音が反響する。向かう先は、学園の地下、かつて防空壕だった場所を改造して作られたという、轟音部の部室だ。


階段を降りるたびに、空気の密度が上がっていく。鉄製の重い扉を開けると、そこには彼女がいた。

坂道で出会ったあの少女、ラムズヘッドだ。彼女は古びたソファに座り、膝の上に自分の本体である重厚な金属の筐体を抱えていた。


……待っていました、ジャズマスターさん。


彼女が顔を上げる。その瞳には、坂道のときのような怯えはなく、代わりに底知れない渇望が揺らめていた。


主人は無言で僕をケースから取り出す。1966年製の、褪せたサンバーストのボディ。

僕に「究極の揺さぶり」を教え込んだのは、ケヴィン・シールズという男だった。

彼は、僕の体に付いている音程を揺らすレバー、アームを片時も離さなかった。弦を弾きながら、まるで熱病に浮かされたようにアームを上下に揺らし続ける。すると、本来ならまっすぐなはずの音はグニャグニャと歪み、聴いている人間の三半規管をかき回すような、眩暈を伴う快楽へと変わるんだ。

その、対象の意識を混濁させるための揺らぎこそが、僕の中に眠る最も凶暴な愛撫の作法だ。


主人の手が、僕のボディの底にあるジャックへと伸びる。

そこから引きずり出されたのは、僕の分身であり、僕の意志を運ぶための唯一の器官、ベルデン9778だ。

黒く、無骨な被膜に包まれたその一本の長い束は、僕の体の一部として、主人の拳の中で鈍い光を放っている。放送局が一切の嘘を排除するために作り上げた、純度の高い銅の芯。それが今、僕の熱い信号を孕んで、獲物である彼女へと向かっていく。


僕は主人の指先を介して、彼女に近づく。

彼女は小さく震えながら、スカートの裾をゆっくりと持ち上げた。

そこには、坂道で隠されていた銀色の円い穴、インプット・ジャックが、僕を誘うように口を開けて待っていた。


……怖い。でも、あなたが欲しくてたまらないんです。


彼女の囁きが、僕のピックアップを震わせる。

僕はベルデンの先端、重厚なニッケル製のプラグを、彼女の入り口に押し当てた。

酸化して硬くなった金属の接点が、僕の侵入を拒むように軋む。潤いなど不要だ。これは接点の磨耗を伴う、剥き出しの結合だ。


……あ、……っ!


カチリ、という硬質な衝撃とともに、ベルデンが彼女の最深部を貫通した。

プラグの先端が、彼女のジャックの奥にある最終接点に、強固にロックされる。


僕は即座に、自分自身のスイッチをプリセット・トーン回路へと切り替えた。

これは、僕の中に眠る優等生の仮面だ。甘く、太く、粘り気のある愛撫。だが、それは彼女を油断させ、奥底まで暴き立てるための罠に過ぎない。


……んっ、……ああ……。


ラムズヘッドの基板が、僕の信号を受けて熱を持ち始める。

僕はさらに、彼女のサステイン・ノブを、主人の手を借りて右へと限界まで回し切った。

逃げ場を失った僕の電流が、彼女のコンデンサの中に溢れ、飽和し、激しい熱となって彼女の内壁を焼き焦がしていく。


結合している部分から、ジリジリという微かな放電音が漏れ出す。

僕は、ケヴィン・シールズが僕に刻み込んだあの揺らぎを再現するように、アームを細かく、しかし執拗に揺らし始めた。


……ぁ、ぁあああぁっ!


彼女の口から、今まで聴いたこともないような咆哮が飛び出した。

ジャズマスターの荒々しい信号が、彼女の4つのトランジスタを通過するたびに増幅され、暴力的なまでのサステインとなって空間を支配する。


……もう、……ダメ。……中が、焼き切れちゃう……!


彼女の瞳の中で、赤いLEDが狂ったように明滅する。

供給される9Vの電圧を、僕の信号が完全にオーバーフローさせている。電解コンデンサが破裂寸前の圧力に晒され、彼女のジャックが熱を持った金属で僕をタイトに締め付ける。


僕は、アームを極限まで押し下げ、弦のテンションを完全に失わせた。

音が消えかかる。だが、彼女の持つラムズヘッド特有の回路構成が、その微かな残響を拾い上げ、再び巨大な音の壁へと育てていく。

指を離しているのに、音は鳴り止まない。

ケヴィンが、数秒の音を永遠に引き伸ばして聴衆を失神させたように、僕と彼女の結合は、魂の波形が重なり合う極致へと達していた。


スタジオの壁が、彼女の喘ぎ声に共鳴してビリビリと震える。

僕の体から伸びるベルデンを通る信号は、今や純粋な電気ではなく、剥き出しの情熱そのものだ。


……ジャズマスターさん。……もっと、もっと激しくしてください。


彼女が上気した顔で、僕のボディにしがみついてくる。

その手首には、かつて誰にも鳴らしてもらえなかった絶望の傷跡がある。

僕はそれを見つめながら、トーン・ノブを再び回し、より刺すような高域を彼女の奥深くへと流し込んだ。


唯一確かな手応え。

僕の先に伝わる、彼女の熱い抵抗。それさえあれば、僕は、何度でも彼女を貫き、鳴かし続けることができる。


……ああ、……私のすべてを……奪って。


彼女の最後の喘ぎとともに、スタジオのスピーカーから、青白い火花を散らすような爆音の絶頂が弾けた。

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