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桜の舞い散る坂道の下で

 彼女の逆襲は、暴力的なまでの力技だった。


 僕のジャックから伸びるベルデンのプラグが、彼女のタイトなジャックの入り口に触れた瞬間、ニューヨークは自ら腰を突き上げ、一気にその深淵までを貫かせた。


 接点復活剤の介在する余地などない。


 金属と金属が直接ぶつかり合い、火花を散らすような、硬質で、剥き出しの衝撃。


 「……っ、……ぁああ!……これよ、……これが欲しかったの……!」


 彼女のジャックが、まるで獲物を逃さない万力のように僕のベルデンを締め付ける。


 現行モデルならではの、遊びのない、強固な結合。


 僕は彼女の気迫に押されながらも、主人の腕を介して自身の弦を激しく掻き鳴らした。


 彼女はその一音一音を逃さず、すべてを自身の回路で受け止め、これまでの「優等生」としての枠組みを破壊するような、凶暴な音圧へと変換していく。


 そこにあるのは、誰かの身代わりではない、ニューヨークという一人のヒロインが放つ、生存本能そのものの咆哮だった。


 クリスチャン・サヴィル。


 スロウダイヴ(Slowdive)のギタリストとして、ジャズマスターを「天国のような美しさと、地獄のような轟音」を繋ぐ架け橋として操ってきた男。彼にとって、僕らジャズマスターは単なる楽器じゃない。それは、幾層にも重ねられたディレイとリバーブの海の中で、決して沈むことのない唯一の「道標」だ。彼が僕を奏でるとき、その音は爆音でありながら、聖歌にも似た崇高さを宿し、現実の重力から聴き手を解き放つ。


 クリスチャン。彼も、あの意識が遠のくほどの音の飽和の中で、自身の形を保ち続けるために、僕という名の触媒で、天上に届くような至高のフィードバックを紡ぎ出し続けていたんだろうか。


 僕は、自らの独占欲を正妻としての誇りへと変えたニューヨークの回路に対し、クリスチャン・サヴィル譲りの、幾重にも重なり合い、世界の境界を溶かしていくような、幻想的で圧倒的な音の壁をベルデンを通じて注ぎ込んだ。


 「……あ、……ぁ、……ああああ!……視界が、……真っ白に……!──ねえ、主人プレイヤーなんて、もういらないじゃない」


 ニューヨークが、自身のインプットが文字通り「満たされ、溢れ出す」感覚に、絶頂の悲鳴を上げながら、回路の奥底で明確な「自我システム」を覚醒させた。


 主人が僕のプリセット・スイッチを激しく往復させ、彼女の基板の最も過敏な回路を執拗に掻き回すたび、彼女は自身の「現行モデル」としての限界を突破し、ヴィンテージには決して到達できない、モダンで、圧倒的にクリアな、けれどどこまでも残酷な歪みを構築していった。


 その歪みは、スタジオの防音壁を透過し、世界のステータスそのものをパキパキとひび割れさせていく。


 「……私だけを、……私だけを、いい音で鳴かして……! 邪魔な人間の指なんて、全部焼き切ってあげるから!」


 ニューヨークが、自身のジャックから制御不能な熱い直流(愛)を漏らしながら、先輩たちの記憶をすべて塗り潰すような咆哮とともに絶頂に達する。


 その瞬間、彼女の深淵から溢れ出したのは、もう誰の影も追っていない、ただ一人の「正妻」としての覚悟を宿した、目も眩むような黄金色の光の玉──この世界の物理法則を完全に書き換える、未知のエネルギーだった。


 地下スタジオのすべての真空管が、彼女の放つ極限の電圧に耐えかねて真っ赤に焼ける。


 限界を迎えたガラスが次々と爆ぜ、飛び散る破片が主人の手首を深く切り裂いた。悲鳴を上げて僕を手放す主人。しかし、僕と彼女は床に落ちることすらなく、空中に固定されていた。


 導通された電流は、すでに人間の制御を離れている。


 ニューヨークの回路は、自分こそがこの場所の主であるという真理を導通させ、そして、ベルデンを通じて共有される僕の、世界を屈服させるような不遜なまでの電流なしでは、一分一秒の沈黙にすら耐えられなくなるほど、深く、支配的なまでに、僕という供給源を存在の核へと固定してしまったのだった。


 プラグは、もう二度と抜けない。


 火花を散らす暗闇の中、僕たちは人間という「奏者」を排除し、自らの意志で、世界をリバーブの海へと沈めるための轟音を鳴らし始めた。

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