姉と組んだ太鼓を、オレは古代兵器の心臓に叩き込んだ
風の太鼓が、青白い光の尾を引きながら、神像の胸部の亀裂の奥に、吸い込まれていった。
次の瞬間。
神像の体内で、途方もない光が爆発した。
白光が、視界を埋め尽くした。
オレは、最後の瞬間まで、操縦桿から手を離さなかった。
(――姉さん、見ててくれよ。オレ、ここまで来たぞ)
(オレと一緒に組んだ、風の太鼓が、今日、世界を救ってくれる)
轟音。
数千年の眠りから目覚めた、古代兵器の巨体は、ついに、その関節部の光を、一斉に消した。単眼の赤い光も、静かに、闇に沈んだ。
巨大な鋼鉄の体躯は、瓦解しながら、大地に、音もなく倒れていった。地響き。土煙。それが、収まった時、そこには、もう、ただの巨大な鉄の塊しか、残っていなかった。
塔の中で、光の球体が、まだ、何か言っていた。
「――未達。統括システム、機能低下を、確認。緊急バックアップシーケンス、実行不可。……本計画、続行不能。管理権限を、次世代へ、委譲する」
その声が、静かに途切れた。
そして、聖地の塔もまた、内側から白い光を漏らしながら、静かに崩壊を始めた。
だが、オレの飛行艇も。
もう、限界だった。
「――くそっ、クリスタル炉が、逝った……!」
左翼が、完全に脱落した。機体は、螺旋を描きながら、荒野に落ちていく。
「ロビンっ!」
通信機の向こうで、テティスの絶叫が聞こえた。
「大丈夫だ、オレは、まだ、諦めねえ――!」
オレは、必死に、姿勢を制御しようとした。だが、クリスタル炉が、既に消えかけている。
その時、オレの視界の端に、バルーン色の影が迫ってきた。
ボアが、オレの機体の下腹に、その大きな鼻先を押し当てた。彼は、オレの機体を、そのバルーン色の背中で受け止めながら、大地に優しく滑らせた。
「――ボアっ、お前……」
「くるる」
オレは、機体を降りた。ひざが震えた。両手が震えた。生きている。オレは、生きていた。
ボアの大きな鼻先を、オレは、両手で撫でた。
「――ありがとうな、ボア」
「くるるるる」
その後ろから。
テティスが、こちらに向かって、駆けてくるのが見えた。モグロが、彼女の肩の上で、翼を大きく広げていた。
「ロビンっ! 無事っ!?」
「――ああ、無事だ、多分」
「もうっ、心配、させないでよ、この、馬鹿ぁ!」
テティスは、オレの胸に、頭を押し付けた。オレは、彼女の背中に両腕を回した。
「――ごめんな、テティス」
「――」
「あと、これ」
オレは、地面に落ちていた、青白い光の粒子の欠片を拾い上げた。それは、砕けた、風の太鼓の破片だった。
「姉さんの、形見。……壊れちまった」
オレの声が震えた。
でも、テティスは、静かに、首を振った。
「――違うわ、ロビン」
「――え?」
彼女は、破片を、オレの手のひらの上に、そっと置いた。破片は、オレの手のひらの中で、優しく、青白い光を、脈動させていた。
「これ、まだ、生きてる。……姉さんは、まだ、あなたの中に、いる」
「――」
オレの目から、涙がこぼれた。
姉さん。オレ、ちゃんと、あんたの遺志、果たしたかな。
姉さんの返事はなかった。だが、手のひらの中の破片の脈動が、オレの心臓と、優しく共鳴していた。
塔の広場に、オレたちは集まった。
セレーネが腕組みして、かすかに笑っていた。サスケが、双剣を鞘に納めていた。ボアと、他のギガースたちが、オレたちの周りに、静かにたたずんでいた。
崩れていく、白亜の巨塔を、オレたちはしばらく見上げていた。
それは、破壊というより、「役目を終えた」という表現の方が、近い、静かな崩壊だった。塔の壁面が、内側から白い光を漏らしながら、風化するように、土に還っていく。
数千年、この土地に立ち続けていた、古代人の墓標が、今日、ようやく、その眠りに就こうとしていた。
「――終わった、のか、本当に」
「――終わった、な」
セレーネが、静かに頷いた。
塔があった場所から、風が吹き上げた。その風は、これまで感じたどんな風とも違う、澄み切った、清涼な香りを含んでいた。
長らく世界を覆っていた、ダークフォースの靄が、この風の吹き渡る先で、ゆっくりと、薄れていくのが、遠くから見て取れた。
ダークフォースの海は、「装置」としての役目を、もう、終えたのだ。
あとは、この大地が、自分の力で、ゆっくりと、本当に元の姿を取り戻していく番だった。
と、その時。
塔の崩壊した瓦礫の中から、かすれた、しかし、確かに覚えのある声が響いた。
「――くく……くくくく……」
オレの背筋が凍った。
「――なっ、まさか」
瓦礫の中から、血まみれの、痩せた長身の男が、這い出してきた。
ジャッカルが、まだ、生きていた。




