ダークフォースの海の主たちが、青い瞳のままオレの元へ駆けつけた
「――ボアっ! お前ら、どうやって、ここまで来たんだよ!」
「くるる」
ボアは、オレの前で、その大きな鼻先を下げた。テティスが、その頬に、そっと両手を当てた。
「――みんな、来てくれたのね。ありがとう」
「わたしたちだけじゃ、あの神像を止められないの。……あなたたちの、力を貸してほしい」
「くるる」
ギガースたちが、次々と、天を仰いで、深く咆哮を上げた。それは、暴走の咆哮ではなく、意志の咆哮だった。
「――信じられん、光景だな」
セレーネが、呆然と、その光景を眺めていた。
「あれほど、恐れられていたギガースが、こうして、人の側に味方するとは。……もしかしたら、人類は、ずっと、この生き物たちのことを、根本から誤解していたのかもしれん」
「そうだよ。オレも、ダークフォースの海で、教わったんだ」
オレは、頷いた。
神像が、再び、指先をこちらに向けた。
「みんな、来るぞ!」
「――散開!」
セレーネの号令と共に、オレたちは、広場の各方向に散った。ボアの背に、テティスが飛び乗った。バルーン色のギガースは、彼女を載せたまま、風のように速く、大地を蹴った。
オレは、飛行艇に走った。左翼の一部が、まだ焦げているが、これが、オレの相棒だ。姉さんの設計を、姉さんとオレで組んだ、この、つぎはぎの翼。
クリスタル炉に灯を入れる。青白い光が、機体を包む。
「――行くぞ、相棒!」
オレは、機体を空に飛ばした。
神像の指先から、蒼白い閃光が放たれる。オレは、それを、機体の急旋回で辛うじて避けた。左翼の縁が、更に焦げた。
「そんじょそこらの砲撃じゃ、当たらねえよ、化け物!」
オレは、機体を、神像の頭部の周囲を旋回させた。神像の、無機質な単眼が、オレを追いかける。
その隙を突いて。
地上から、青い瞳のギガースたちが、一斉に、神像の脚部に突撃した。
「くるるるるるっ!!」
彼らの体表を覆うクリスタルが、一斉に、まぶしい光を放ち始めた。ダークフォースの森の浄化力が、そのまま「攻撃」のエネルギーに変換されている。
バルーン色の光の帯が、バルーン色のギガースの口から放たれ、神像の左脚を、根元からえぐった。
「――やった!」
だが、神像は、蒼白い魔導光の粒子で、その左脚を、瞬時に再生した。
「な、なんだ、あれは!?」
「――魔導再生機構だ」
セレーネが、通信で告げた。
「あの魔導光の噴出は、常時、機体を再生している。……核を、直接、破壊しなければ、無限に再生し続ける」
「核?」
「胸部の、コアだ」
「――!」
オレは、機体を、更に急旋回させた。神像の胸部を、目視する。そこには、確かに、真っ赤な光の脈動が見えていた。あれが、核。
「――テティス! ボア! 神像の胸を狙え! 核が、そこにある!」
「わかった!」
「くるるるるるっ!」
ボアと、他のギガースたちが、口から、バルーン色の光を束ねた。何十本もの光の帯が、神像の胸部に、集中砲火のように、注がれた。
神像の胸部の装甲に、亀裂が走った。
「――今だ、ロビン!」
セレーネが、叫んだ。
「貴様の、あの風の太鼓のクリスタルを、あの核に、直接、叩き込めば――!」
「――なっ、オレの、風の太鼓を!?」
「あのクリスタルは、統括システムの内部から造られたものだ! 逆に、システムの中枢に、打ち込めば、干渉を、起こせるはずだ!」
オレは、拳を握りしめた。
姉さんが、オレに残していった、たった一つの形見。それを、あの化け物の胸に、打ち込む。
でも――
姉さんが、オレにこれを託した理由が、まさに、この瞬間のためだったのだとしたら。
姉さんが、あの塔の中で言った「小さな穴」。それを開くための鍵は、多分、これしかない。
「――テティス! お前が、握ってる、風の太鼓、オレに、投げ返してくれ!」
「――!?」
テティスが、迷った。
「ロビン、これは――」
「早くしろ! 姉さんの、遺志だ!」
「――わかった!」
テティスは、両手で、オレの風の太鼓を、天に掲げた。青白い光の粒子が、彼女の手のひらから、オレの飛行艇のコックピットに向かって、まっすぐ、飛んできた。
オレは、片手で、それを掴んだ。
姉さんの温もりが、手のひらに甦った。
オレは、神像の胸部の亀裂を目指して、機体を急降下させた。
クリスタル炉が悲鳴を上げた。左翼の縁が剥がれ落ちた。それでも、オレは機体を緩めなかった。
「――ここだっ!!」
オレは、機体の速度を、限界まで上げたまま、コックピットのハッチを、蹴り開けた。
そして、片手で、姉さんの風の太鼓を――
神像の、真っ赤に脈動する核に向かって、投げつけた。




