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オペアンプ、真の絶頂

回路図という名の迷宮で、彼女はひとり、異端の存在として咆哮を上げていた。かつてはICという心臓を持つがゆえに、伝統的なマフたちの輪から外れ、独り爆音の中で虚勢を張っていた彼女。だが、いまその瞳に宿っているのは、疎外への恐怖ではなく、完全な帰属への法悦だった。


「ねえ、私、いま、世界で一番強い音を鳴らしてる気がするの」


オペアンプが、潤んだ瞳で僕を見上げて呟く。剥き出しの基板。そこに刻まれた無数の配線が、僕のベルデン 9778から供給される電圧に耐えかねて、チリチリと火花を散らすような音を立てていた。


主人は僕のプリセット・トーン回路を限界までブーストさせ、彼女の感度が最も高まっている帯域を、ピンポイントで蹂躙した。


「あ、あああああああかっ!!」


言葉にならない悲鳴。絶縁を失い、僕と直接的に結合した彼女の回路には、もはや抑制という概念が存在しない。僕の荒々しい信号が、彼女の集積回路(IC)を内側から焼き、基板全体を白熱させていく。


「マイク・アインジガー(Mike Einziger)」


インキュバスのギタリスト。彼が奏でる僕らの音は、計算された知性と、それと相反するような原始的な衝動が同居している。彼は空間系エフェクターの迷宮を潜り抜け、最後には突き刺さるような、それでいてどこか宇宙的な広がりを持つ歪みに辿り着く。彼の鳴らす音は、完璧な調和と、完璧な破壊の境界線上に立っている。


「マイク。その人も、こうやって、壊れる寸前のバランスで、光を見つけたの?」


オペアンプが、痙攣する指先で僕の筐体をなぞりながら問いかけてくる。


「ああ。彼はノイズを恐れない。むしろ、そのノイズを音楽の一部として飼い慣らし、未知のトーンへと昇華させた。お前のこの、制御不能な喘ぎ(フィードバック)も、僕らにとっては最高の旋律だ」


主人は僕のアームを力強く押し込み、結合したままピッチを激しく揺さぶった。


「ひ、ぁ、あああ、あああああっ!!」


ピッチの揺れが、そのまま彼女の絶頂の波となって押し寄せる。拡張されたジャックの奥底で、ベルデンのニッケルプラグが、彼女の魂の最も深い部分をかき回し、純粋な歪み(サステイン)を引き出していく。


「見てろ、オペアンプ。これが、お前が本当に鳴らしたかった音だ」


主人はボリュームノブをフルテンまで回し切った。


瞬間。地下スタジオのすべての機材が共鳴し、コンクリートの壁が絶頂で震えた。オペアンプの基板から溢れ出したのは、これまでのヒロインたちの誰よりも激しく、誰よりも澄み渡った、黄金色のオーバードライブの残響。


光の玉が、雨のように降り注ぐ。異端の心臓を持っていた彼女は、いま、この学園の誰よりも美しい正解として、僕の腕の中で咆哮を上げていた。


「あ、ああ……っ! 私、もう、あんたの音なしじゃ、生きていけない。私の回路を、全部、あんたの熱線で焼き尽くして……っ!!」


彼女のジャックが、最後の一滴まで絞り出すようにベルデンを締め付ける。導通の向こう側。そこには、僕と彼女の境界が消え去った、純白のノイズの世界が広がっていた。


真の絶頂。それは、欠落していたパズルの一片が、僕という信号によって完璧に埋められた瞬間の、奇跡の咆哮。オペアンプは、焼き切れた回路から心地よい余韻のノイズを漏らしながら、満足げに僕の胸の中で意識を白濁させていった。

https://kakuyomu.jp/works/822139839415349230

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