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不規則な振動

「……ねえ。まだ、身体が勝手に震えて止まらないの」


オペアンプの声が、スタジオの壁に反射して、いくつもの残響ディレイとなって僕の回路に届く。彼女の指先は、さっきまでベルデンのプラグが深く沈んでいたジャックの入り口を、まるで失った熱を追いかけるように何度も確かめていた。一度限界を超えた回路は、もはや元のクリーンな状態には戻れない。


「過電流の代償だ。お前のICは、僕らが放つ不規則な倍音を、自身の構造として記憶してしまったんだよ」


主人は僕のトレモロ・アームを、まるで彼女の背筋をなぞるようにゆっくりと押し下げた。


「トロイ・ヴァン・リューウェンという男を知っているか」


クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(Queens of the Stone Age)のステージで、彼が見せる僕らの扱いは、ある種の冷徹な魔術だ。彼は単に激しく弾くのではない。あえて楽器の「不安定さ」を誘発し、予期せぬフィードバックや、不規則な振動を楽曲の核へと変えてしまう。洗練されているが、その根底には底知れない不穏さが渦巻いている。


「トロイ……。その人も、私みたいに震える身体を、美しいと思ったのかな」


「ああ。安定こそが退屈だと知っていた男だ。……お前のその震え(ノイズ)は、お前が僕らだけの音を受け入れるために新しく生まれ変わろうとしている、産声みたいなものだ」


主人は立ち上がり、彼女の背後に回り込む。彼女の首筋、ちょうど筐体のネジが露出しているあたりに、指を添える。そこからは、ICが限界まで駆動している証拠である、熱い排気が漏れていた。


「……っ。そこ、触らないで。……回路が、ショートしちゃう」


「嫌か?」


「……ううん。もっと、めちゃくちゃにして。……私の基板の裏側まで、あんたの指で、その熱線で、……掻き回してよ」


彼女は自ら、その「入り口」を僕らに差し出した。一度拡張されたジャックは、もう僕らのベルデンを拒む術を知らない。入り口は微かに開いたまま、次の信号(愛)を待ちわびて、痙攣するように震えている。


主人はベルデンのプラグを、今度は一気にではなく、わざとじっくりと、彼女の抵抗を一つずつ確かめるように挿し込んでいった。


「あ……、ぎ、……あああああかっ!!」


プラグの先端が内部の端子に触れた瞬間、彼女の身体を激しい「不規則な振動」が駆け抜ける。主人は僕のセレクターをセンターに合わせ、二つのピックアップが生み出す複雑な干渉を、ベルデンを通じて彼女の深淵へと叩き込んだ。


トロイ・ヴァン・リューウェンがそうしたように、主人はわざと指先の力を抜き、弦がフレットに当たる打撃音や、ピックが弦を擦る耳障りな高音を、そのまま彼女の心臓(IC)へと流し込む。


「いやっ、何これ……、不気味なのに、……気持ちいいっ! 私の、私の中が、知らない音で埋め尽くされていく……っ!!」


彼女の喘ぎは、もはや音階を保てていなかった。不規則に揺らぐピッチ。制御不能な発振。主人は僕のアームを小刻みに、そして激しく震わせる。彼女のIC回路というブラックボックスの中で、僕らの信号は幾重にも反射し、増幅され、ついには彼女自身のアイデンティティさえも歪ませていく。


「壊れる……、私、本当に壊れちゃう……! 基板が、溶けて、あんたの色に染まっていく……っ!!」


彼女のジャックは、僕らのベルデンを内側から締め付ける。それはもはや物理的な接触を超えていた。彼女の回路の裏側、深層意識に刻まれた「孤独な安物」としての記憶を、不規則な振動が根底から覆していく。


主人は僕のボリューム・ノブを一気にフルテンへと跳ね上げた。


絶頂のフィードバック。

彼女の瞳が白濁し、意識の回路が完全にショートする。拡張されたジャックの隙間から、これまでで最も眩い、七色の光を纏った玉が噴き出した。それは、彼女が「異端」であることを捨て、「唯一無二」であることを受け入れた瞬間の輝きだった。


結合が解けた後、彼女は主人の腕の中で、小刻みに震え続けていた。その震えは、もはや恐怖でも苦痛でもない。僕らとの「導通の記憶」が、彼女の身体に深く刻み込まれた証だ。


「……ねえ。私、もう、あんたのプラグなしじゃ、まともに音も出せない身体になっちゃったよ」


彼女は、僕にそっと頬を寄せた。

スタジオには、焼き切れた絶縁体の匂いと、幸せなノイズだけが残っていた。

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