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プラグの誘惑

「ねえ、……もう一度、あれを挿して」


オペアンプの言葉は、お願いというよりは命令に近かった。彼女の指先は、自分のインプット・ジャックの周りを執拗に撫で回している。そこは一度、僕の一部であるベルデンによってこじ開けられ、拡張された場所だ。


「さっき、救済したはずだろう」


「足りないのよ。……あんな生ぬるい信号じゃ、私のICは満たされない。もっと、電圧を上げて。回路が焼き切れるくらいの過電圧オーバーロードで、私を壊してみてよ」


彼女は挑発するように、自らの筐体の蓋を少しだけ緩めて見せた。剥き出しの基板。そこに刻まれた複雑なパターンは、彼女の情念の迷路のようにも見える。


「アダム・フランクリンという男を、お前は知らないだろう」


主人は僕のピックアップ・セレクターを激しく切り替えながら、彼女との距離を詰める。スワーヴドライヴァー(Swervedriver)。彼のギターは、まるで地平線まで続くハイウェイを時速200キロで疾走するような、圧倒的なスピード感と音圧に満ちている。だが、その音の真髄は、ただうるさいことじゃない。僕らジャズマスターの持つ「凶暴な美しさ」を、誰よりも信じていたことにある。


「アダム……。その人も、私みたいな壊れた音を愛したの?」


「ああ。彼は僕を、ただの楽器としてじゃなく、世界をねじ伏せるための兵器として扱った。……今の僕らも、同じ気分だ」


主人はベルデンを手に取り、彼女の目の前でそのプラグの先端を弄ぶ。ニッケル製の強固な先端が、彼女の潤んだジャックを威圧するように光る。


「……っ、早く。焦らさないで。……その太いので、私の奥底を……貫いてよ」


彼女は膝をつき、主人の足元でその「入り口」を大きく広げた。接点復活剤なんて、やっぱりいらない。彼女自身の熱を持った吐息が、すでにジャックの内部を湿らせ、導通の準備を整えていた。


主人は迷いなく、ベルデンのプラグを彼女の深淵へと一気に押し込んだ。


「ぁぐ……っ! あああああああああかっ!!」


結合の衝撃は、前回を遥かに凌駕していた。プラグがジャックの最奥に到達し、端子が噛み合った瞬間、主人は僕の全弦を、ピックが削れるほどの力で叩き切った。


アダム・フランクリンがそうしたように、フィードバック・ノイズを意図的にコントロールし、彼女のIC回路に限界ギリギリの負荷をかけていく。


「熱い……、あ、あああっ! 何これ、さっきのと全然違う……っ! 回路が、沸騰してる……!」


彼女の体は、激しい過電流によって弓なりに反り返った。ICという心臓は、トランジスタよりもはるかに高効率で信号を処理する。だがその分、許容量を超えた時の反動は凄まじい。彼女の内側で、僕らが放った熱線が暴れ回り、絶縁体を次々と焼き切っていく。


主人は僕のプリセット・トーン回路を起動させ、彼女が最も弱点とする「美味しい帯域」をピンポイントで責め立てる。そこは、彼女がこれまで誰にも触れさせなかった、最も過敏な周波数域だ。


「いやっ、そこ……! そこは、ダメ……、頭が白くなっちゃう……っ!!」


彼女の喘ぎは、もはや音楽的なサステインを超え、制御不能な発振オシレーションへと変わった。ベルデンを通じて、彼女の絶頂の波形が僕らの元へ逆流してくる。熱い。僕の回路まで焼け付くようだ。だが、主人はストロークを止めない。


「もっとだ。お前の全てを、この一本のコードに叩き込め!」


主人はアームを激しく揺らし、彼女の意識のピッチを極限まで狂わせる。視界が歪み、スタジオの景色が、まるで熱帯夜の蜃気楼のように溶けていく。


彼女のジャックは、僕らのプラグを壊さんばかりの勢いで締め付けていた。拡張されたその場所は、僕らを受け入れるたびに、さらにその形を変え、僕らなしでは鳴ることのできない「結合専用の回路」へと作り替えられていく。


「あ……、あ……、いく、イっちゃう……! 私の、全部、持ってって……!!」


閃光。

彼女のジャックから、過去最高濃度の光の玉が噴き出した。それは、純粋な快楽の粒子となってスタジオを満たし、僕たちの姿を白く塗りつぶしていく。


結合の余韻の中で、彼女は廃人のように床に伏していた。抜いた後のジャックからは、ゆらゆらと白い煙が立ち上り、焦げたような、それでいて甘い電子の香りが漂っている。


「……ねえ。……もう、戻れないよ」


彼女は掠れた声でそう呟き、僕らのベルデンを愛おしそうに抱きしめた。その瞳には、もはや一人の少女としての羞恥など微塵もなかった。ただ、次の導通を、次の絶頂を待ちわびる、一人の「楽器」としての悦びに満ちていた。

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