メタルキス第十五話 メタルの檻
メタルキス第十五話 メタルの檻
噛むたびに歯列全体に響く激痛と、装置に絡まる麺。結局、ポテト三本と焼きそば一口で、僕たちのささやかなディナーは、散々にも幕を閉じた。
ファミレスを出たぼくたちは、夕暮れの赤い空を背に家路についた。
二人の顎には、金属のカップが張り付いていて、特に装着初日のぼくには、ゴムの力で下顎が強く押し込まれる感覚と拘束感、じわじわと押し寄せる歯の痛みに耐えながら、信号待ちで足が止まった。
「お母さん、なにあれ? 顎になんかつけてるよ」
同じく信号待ちをしている五、六歳くらいの男の子が、無邪気にぼくたちを指差した。
その母親は、弾かれたように子どもの手を払い、気まずそうにぼくたちから目を逸らした。
「こら、ダメでしょ、あっち行きましょ。……すみません」
母親は小声で謝りながら、まるで見てはいけないもの、あるいは触れれば壊れてしまう得体の知れない異物でも避けるように、子供の手を引いて足早に立ち去った。
ぼくは、悲しくなった。この装置は、外の世界ではそれほど異様なものなのだ。
自分の顔が、檻に閉じ込められた、呪わしい怪物のように思えてくる。
以前のように、受け口をからかわれた記憶がよみがえってくる。
「これはね、歯を綺麗に並べて、カッコよくなりたい人だけが装着できる、ギアって道具なんだよ」
澄んだ声が響いた。驚いて顔を上げると、彼女がしゃがみ込み、子どもと同じ目線で微笑んでいた。
「少しだけ痛いけど、この特訓を頑張ると、将来かっこよくなれるんだ。この秘密のギアで、わたしも頑張ってるんだよ」
子どもは「カッコいい!」と目を輝かせ、母親は予想外の明るい対応に戸惑いながらも、軽く会釈をして去っていった。
ぼくはただ、立ち尽くしていた。
偏見の視線にさらされても、彼女は少しも揺るがない。
「……君は、本当に強いね」
信号が青に変わる。歩き出した彼女の横顔を見つめながら、ぼくは絞り出すように言った。
「自分を守るため。ただそれだけ」
彼女は前を見つめたまま、
それは、遠く未来を見つめる目だったのか、
静かに話し始めた。
「お父さんはね、私が小さい頃に病気で亡くなったの。お母さんとおばあちゃん、女手一つで育ててくれた」
彼女の淡々とした口調に、胸が締め付けられる。
「前にも言ったかもしれないけど、わたしは、生まれつき口全体に病気があってね。
物心つく前から、何度も手術を繰り返してきたの。この装置も、ワイヤーも、全部『綺麗になるため』に必要だった。
逃げ出したくても、檻の中から出るためには、戦うしかなかったんだよ」
彼女の「誇らしげな表情」の理由が、ようやく分かった気がした。
彼女にとってのメタルは、単なる治療器具ではない。当然、単なる金属の「檻」でもない。
困難な運命に立ち向かい、美しさを勝ち取ろうとする彼女自身の、光り輝くメタルであり、「鎧」なのだ。
気がつくと、涙が頬を伝っていた。
(なんで泣いてるんだろう…
彼女のため? 自分のこと?
ぼくは、…




