メタルキス第十四話 メタルの痛み
メタルキス第十四話 メタルの痛み
注文した飲食物が運ばれてきた。
ぼくは、おなかが減っていたので、焼きそばにポテトフライ、ジンジャーエール。
彼女は、ウーロン茶一杯。
(ダイエットでもしてるのだろうか…)
ぼくは、お昼抜きで備えてきたので、おなかが減っている。
ポテトを一口。
「ぐっっ、痛ったあーー」
ポテトが噛めない。歯ぐきの奥から猛烈に突き刺すような痛み。
彼女が心配そうに見つめる。
「冷たい水を含ませながら食べると、ちょっとは楽になるよ」
言われる通りやってみるが、歯ぐきの根元からしみるような激痛は、変わらない。
つまようじを歯ぐきに一刺し、いや、例えようがないが、風邪などで体調が良くないとき、歯が浮いたような痛みを強くした感じだ。
三本目で食べるのをあきらめた。
「ムリ…」
焼きそばなら噛まずに飲み込めるかな。と思い、飲むように食べたが、結果は同じ。歯に触れた瞬間、痛みが走るのだ。
しかも、焼きそばの麺、細切りキャベツ、紅生姜が、ブラケットとワイヤーのすき間に入り込んで、塊を作り、細長い麺は、ワイヤーで折り返され、口元からぶら下がる始末。
まるで、洗濯物のよう。
「ふふっ」
彼女が思わず笑ってしまう。
“あーぁ、やっちゃった”と言わんばかりの目をしている。
「はい、鏡」
彼女から手鏡を受け取り、自分の顔を見て絶句した。とても他人に見せられるものではない。
ここで、やっと、彼女がウーロン茶だけを注文した理由が理解できた。
「矯正って、こんなに痛くて、わずらわしいものなんだね。」
「まだまだいい方かなあ…わたしが小学生の時に、経験した一番大変だったときのこと聞く?」
「う、うん…」
「まずここ、このメタルブラケットに4本の顎間ゴムってのが入って、上の奥歯と下の犬歯を引っ張るの。そしてこれ。」
指を差しながら、誇らしげに、彼女が見せてくれた上顎の天井には、上顎両方奥歯の輪とつながった大きな装置。
「これがさ、上の両方の奥歯を無理矢理こじ開けるように横に広がって、鼻の奥が重くなる感じになるの。たまにミシッって音も聞こえるんだよ。」
「それから、上の奥歯にゴムをひっかけて、顔の外から前に引っ張るの。」
ありとあらゆる装置に、がんじがらめにされて、それでも凛とできる彼女は一体…
「だから、一言で言うと、下顎は後ろに押されて、上顎は前に引っ張られて、上顎は横に広げられ、歯はブラケットとワイヤーとゴムであらゆる方向に固定されるの。」
「全然一言じゃないよね」
彼女は金属カップを撫でながら言う。
「たくさんの装置が入ると、食べることそのものが、痛くて、わずらわしくなって、イヤになってくるから」
(小学生がこれに耐えるのか、きつかっただろうな)
「もうね、自分の顔じゃなくなるの。まるで機械の顔。サイボーグね。」
ぼくがテーブルにこぼした焼きそばを、ひとつ、ふたつとティッシュで集めながら、ちょっぴり自虐ではあったけど、どこか誇らしげな表情だった。




