メタルキス第十三話 メタルの共鳴(後編)
メタルキス第十三話 メタルの共鳴(後編)
異物感が尋常ではない。
常にたくさんの小石を口に含んでいる感覚と、
唇が歯の上に接着されたブラケットによって、しゃべるたびに、いちいち引っかかるのだった。
もうすでに、違和感のクライマックスに達している。
そしてさらに…チンキャップ。
倒されていたイスが戻され、頭の大きさが測られる。
黒のバンドが、ハチマキや、頭頂部から十字に頭に巻かれ、帽子が作られる。
帽子状のヘッドバンドが完成すると、耳の上と首の後ろから、ゴムを左右1本ずつ設置する。
下顎に銀色のアルミであろう金属のカップを密着させ、装着感を確認する。
左右のゴムを引き、カップのフックに、小さく「バチッ」と引っ掛けることで、下顎が後ろに引かれる。
最後に、医師が、左右のゴムの強さを計測器で、確認する。
下顎が猛烈に後ろに押される、引かれる感覚。頭部のホールド感、拘束感、輪郭を決められるというか、輪郭を変えられる感覚。
口の中と、頭の上の両方から、力をかけられて、かき乱される感覚だ。
あらためて、彼女のことがアタマをよぎる。
(慣れっこだよ)と聞こえてきそう。
「頑張ってね」という医師の最後の一言しか、はっきりと覚えていない。
「チンキャップは、基本、夜寝るときなど、頑張って装着すること。昼間に装着して、目立って恥ずかしかったり、いじめられるようなら無理して装着しないこと。顎の関節に痛みが生じたら来ること。」など言われた記憶が、うっすらとしか残っていないほど、すでにこの圧倒され、拘束される感覚に支配されるのみだった。
ぼくが終わり、彼女がすれ違いに診察室に入る。彼女を見てる余裕もない。
彼女はニコッと微笑み、メタルブラケットを輝かせる。あとで思えば、これは、ぼくのブラケットを確認したかった合図だ。
ぼくは、もう違和感と拘束感で余裕がなかった。
彼女の三十分ほどの調整もあっという間だった。
「ノド乾いたでしょ?ファミレスでも寄っていく?」
「行く」
ぼくは、すぐさまうなづく。
(さすがは経験者、ぼくの気持ちがわかるのか)
ファミレスの前に立つと、チンキャップ姿の二人が並んだ。
(これは目立つだろうなぁ…)
少し怖気づく。
温かな空調の風を受け、店内に入り、席についた。まだ、早春だ。
混んでいた店内を、落ち着いて見ると、こちらへの好奇の視線がいくつかある。
(これが彼女がいつも受けている好奇の目ってやつか。これに耐えるのは、きついな)
ぼくのヘッドバンドは黒、彼女のはツヤのある白。顎には金属のカップが密着した二人。
ぼくは、落ち着かなかった。
違和感と拘束感が、視界を狭める。
そして、周囲の目が気になる。
少し呼吸が早くなる。
彼女もそれを察して「気になるなら、外では付けなくても大丈夫って、先生も言ってたから。」
ぼくは、しゃべりづらさを隠すため、
「うん」とだけ答え、流した。
手は口元を押さえている。
彼女は、視線をぼくの口元に向け、しゃべりづらさを理解したのか、意地悪そうに、真ん丸な目で、ニヤリと微笑んだ。
「ね、ね、見せて〜」
彼女が嬉しそうに言う。
今日の彼女はいつもと違って、心から楽しそう。
店内にあったざわめき声の雑音は、もう聞こえない。
好奇の目だけが少し気になった。
彼女がニッと笑う。
ぼくもニッと真似る。
壁の鏡に跳ね返って、メタブラケットが輝き、共鳴する。
「メタルの星々、わたしと一緒だよ」




