メタルキス第十二話 メタルの共鳴(前編)
メタルキス第十二話 メタルの共鳴(前編)
あれから、歯の型取り、レントゲン検査、歯周病や虫歯のチェックなどを経て、いよいよ装置を装着する日が来た。
所要時間、約二時間と言われ、彼女にもそう伝えたにもかかわらず、「一緒に行く」と言って、彼女は、自身の調整日と合わせていた。
ピクニックにでも行くかのよう。
ぼくは、前の日の夜から、緊張と期待でほとんど眠れず、気がつけば、顎や歯に触れて、装置の感触を予測するのだった。
放課後、彼女と矯正歯科に向かう。
キュイイイイーン
待合室で待っていると、診察室から、歯を削っているのか、磨いているのか、独特のあの音が
聞こえた。
(ああ、イヤな音だ…)
虫歯の治療で、痛い思い出しかない歯医者さんで、音に対する嫌悪感とは逆に、期待を膨らませている自分が不思議に感じる。
手に汗がにじむ。
そんな複雑な感情を知らないであろう彼女は、ぼくの手が震えてるのを見て、
「大丈夫」
と微笑んでる。
そんな淡いやり取りが十分くらい続いたあと、ぼくがまず診察室に呼ばれた。
「いってらっしゃ~い」
彼女が小さく手を振る。共闘者ができることへの喜びだろうか。
(あれ、こういう子だったかな…)
イスに座ると、脇のテーブルのトレーに、器具や装置などが置かれていた。
石膏の歯型。こんなに歯並びがガタガタなのか…しかも、というか、やっぱり「受け口」客観的に見てもヒドさが際立つ。
メタルブラケットが、星屑のようにキラキラと光を反射させながら、整然と並べられている。
「口を開けてください。これからクリーニングしますね」
シュゥルルル〜
歯を削る音とは違う。
(気持ちいい…)
「これからしばらく、口を開けたままになります。乾くと思いますけど我慢しててくださいね。」
歯1本ずつに薬品を塗っているのがわかる。
強烈なシンナーのような匂い。
(接着剤かな。)
全部の歯に塗ったあと、ちょっと放置され、
「水かけますね」
(あれ、流すのか… オエッ…)
「ごめんなさい。ノドに流れそうになりましたね」
口は開いたままで固定されてるのでツラい。
「乾燥させるため、空気かけますね」
これがさらにつらい。口の中もノドも乾く。
「これから、装置をつけていきます。まだしばらく我慢してください」
医師がトレーからブラケットを取り、僕の歯に1個ずつ載せていく。何度も何度も、位置を確認しながら置いている。集中力のいる作業だ。
いくつか載せて、青い光を当てて、を繰り返す。そして、すべての歯にブラケットが接着された。
「うがいしてください」
口を固定していた開口器が外された途端、違和感が口内全体を襲う。
小石をたくさん食べている感覚。
唇にブラケットが引っ掛かり、上手くうがいができない。
また、開口器で固定されると、
「ワイヤーを入れます。今日は一番細いワイヤーから始めて、少しずつ力をかけていきすね」
ワイヤーが通され、ブラケット一個一個に針金が結ばれる。地道な作業。派手な見かけとは裏腹の大工さんの仕事のよう。
パチッ、パチッ… 針金の切る音
「うがいしてください」
また、口内にたくさんの小石を含んだような違和感、プラス、じわじわと歯列全体に拘束感が押し寄せる。
風邪で不調の時に、歯全体が、浮いてうずくような不快感。
(この先、本当に大丈夫だろうか…)




