第24話
ハルバードの横薙ぎと同時に蹴りを発動。挟み込むようにして志那を倒そうとする。ハルバードの方には一瞬進行方向と逆向きに力を加える事でパリィ対策に遅延を挟む。
そして追加のもう一手。
かつてのエルオンに無かった仕様、武器の持ち方。
数世代前のシリーズのエルオンは現代のようにフルダイブ仕様では無くモニターに映像を出力するタイプの、いわゆるビデオゲームだった。
当然のごとく武器の攻撃範囲は固定であり、短くも長くもなりはしなかったのだが……。
技術の進歩。
フルダイブになった影響で、武器の持ち方に工夫を凝らす事が可能となった。
指の腹で押さえるようにして持てば通常よりも数センチ遠くまで攻撃は届くようになり、逆に短く槍を持てばクリティカル率が上昇する刃先部分を体に近い位置で動かす事も出来る。
全ては指先にまで現実と遜色ない感触とレスポンスを可能とした技術のお陰である。
お陰でギミック追加後のエルオンは飛躍的に考えなければならない事が増加し、一時期はランカー達の阿鼻叫喚が凄まじかったという。
そんな小話はさておき、細田はハルバードを短く、刃先付近を片手で握る。
リーチは短くなるが、短く持っている分、切先を素早く動かす事が出来る。
「ほっ!!」
遅延と蹴り、その上に短持ちが加われば最適解を瞬時に導き出す事は困難になるが……。
志那は星闘杖で細田の足を止める。遅延を挟まれた事によりパリィ相殺は困難だと判断したのか、ジャンプでリーチの短くなったハルバードを回避。
そこから細田の顎へと星闘杖を打ち込み、ほぼ同時に膝裏を白犬に噛ませる。
「痛え!?」
細田は短く持っていたハルバードを捻り、突き攻撃を発動しながら再び長く持つが、回避される。
即座に志那の攻撃をパリィしようと盾を突き出すが、危機を察知した志那は直前で攻撃をキャンセル。再び距離を取られる。
構成の関係で身軽となった志那の戦い方は空中戦の如き浮遊感を有している。
星闘杖は攻撃を連続で当てる程に威力が上昇する武器だが、欲張る事無く丁寧にヒットアンドアウェイを繰り返す。
「凄いなぁ。」
一ヶ月で全国大会に出た、と聞いていたがなるほど。近代の細かいテクニックは言語化して自分の物とは出来ていないにしろうっすらとした経験、感覚のような物で既にある程度の基礎が出来ているようだ。
しかし残念ながら粗はある。まぁ始めて2ヶ月で完璧へと至られたら我々の立つ瀬が無い。
とはいえ上手く刺さりそうな粗らしい粗が奇襲的な戦法以外に見当たらない。
このまま正面から殴り合う事は得策ではないだろう。定石外の戦法を取らざるを得ない。
細田は一瞬、渋い顔をする。
これはつまり、奇襲戦法を〝選ばされた〟と言っても過言では無いのだ。
最上位帯のバケモノランカーはえんえんと相手に選択を迫る。
試合を一方的にリードしながら間違えれば即死の二択を常に突きつけてくるのだ。
志那はまだ経験の浅さ故に、二択の先へ即死トラップを仕掛ける余裕は無いようだが、既に相手の戦術を縛る事が出来ているのは十分脅威である。
一体短期間の間にどれだけ基本を詰め込んだのかと細田は背筋が冷える。
細田はハルバードを真上へと投擲。
「えぇ!?」
唐突な行動に志那は困惑の声を上げる。
「間違えたら死ぬよー!」
そんな事を言いながら細田は志那へと突進する。
武器持ちと武器無しの差はあれど、《重騎士ハルバード》の格闘はそれなりにダメージを食らうので相対したくない。
思考の末、志那は突進してくる細田の首元目掛けて弓を発動。
命中。
かと思いきや、鎧を纏った腕に弾かれている。
「何で!?ちゃんと鎧の隙間に撃ったのに!!」
事実、志那は柴崎の鬼特訓によって弓の精度も大幅に上昇している。
「あからさまな隙ってのは罠だよ。」
細田は走りながら首元を指で指し示す。
頭を大きく上げながらタックル。弓が撃たれる寸前、即座に腕を首元へやり、防御する。
隙を見せて撃たせる、というのは昔のエルオンにも良くあったのだが、まぁこればっかりは経験不足か。
という事でタックル。
志那は格闘を懸念して防御を発動。身を守るが、残念。読み間違えたね。
俺の狙いは志那の固定。
しっかりと志那の体を掴んだと同時に真上から先程投げたハルバードが垂直に落下してくる。
避けようにも細田がしっかりと志那の体をホールドしているので回避不能。
落下してきたハルバードは勢いそのままに志那の上半身を大きくえぐり取る。
エルオンにおいて、真上に投げた武器というのは実は真上には落下しない。
いや、何を言っているのかと思われるかもしれないが、実は真上を向いて武器を投げた場合、実際の所その角度は7度程度前方に傾いているのだ。
仕様を理解しているとアッサリ回避できる技術なのだが、初見だと結構刺さりが良い。とはいえ武器を投げた時点で警戒されるのでさっきのように力技での固定が必要となるが。
志那は落下したハルバードによって体力を一撃で削り切られる。
細田の勝ち。
✴ ✴ ✴
「ふんふんふん。いやいや、理解しました。志那君はかなりセンスが良いと思います。後はシバサキ君との特訓によって止むを得ず付いてしまった古臭い癖の矯正と仕様の確認、対面練習を積めば上位帯でもそこそこ勝てるようになると思います。それで志那君の今大会の目標は?」
「優勝です。」
「おーー、うんうん。素晴らしい。モチベーション高いですね。それでマジな所で狙っている順位は?」
細田はメモ機能を使い、サラサラと何かをメモしながら問う。
「一応優勝目指してます。」
「……マジで?」
「マジだから細田君に助けを求めたんだよね。」
微笑みながら横で見ていたシバサキが口を出す。
全国大会優勝。エルオンという、このジャンルのゲーム内では最もプレイヤー人口が多く、覇権に近いゲームにおいて、初めて2ヶ月の選手が最強を目指そうとしている事に細田は驚愕する。
細田自身、どれだけキャリアを積んでも届く気がしなかったのがエルオンの頂点である。いつしか頭の中での〝頂点〟の2文字は実感を伴わない幻のような存在となっていた。
「うーーん。他のプロは一旦置いておいてもリオン選手が居るしなぁ。マジの優勝狙ってんのか。そうかそうか……。」
細田は少々考え込む。
「いや!うん!!行ける所まで行ってみようか!!案外勝てるかもしれないし!!」
細田はヤケクソ気味に言う。
正直な所、後一ヶ月で最強を目指せるレベルに仕上がるか、というと細田の感覚では否であったが、かつて頂点を長い事踏んでいた細田が最も尊敬するプレイヤーが横から口を出すものだからワケが分からなくなってきていた。
とはいえ、シバサキの言葉には昔から理由は分からないにしろ、何故だか説得力があった。シバサキの発言、志那の成長速度を見て一瞬本当にあるのではないか、という考えが頭をよぎる。
「うーーん。とりあえず俺はバイ……仕事に行ってくるからさ!頑張ってな!!」
うっかり口を滑らしかけた細田はログアウトしていく。
ちなみにこの後細田はバイト中、ずっとシバサキと志那の事を考えていたせいで若干仕事が雑になり高校生の先輩バイターに怒鳴られ世界を呪う事になる。
✴ ✴ ✴
「僕も戦えるだろうか。いや、我が祖国の為には、私は血に汚れるべきでは無い。そうなのだ。僕は未だ目覚めぬ友の為に。すまない、友よ……。」
15階建てのアパートの一室(動物可)。やたらとキラキラした安っぽい装飾が部屋を埋め尽くす中でプリンスは愛猫のエリュシオン(命名プリンス)を抱き上げ、妄想に浸る。
最近のプリンスは何処かが狂いかけている。いつも狂っていると言われればそれまでではあるが、彼の精神状態は通常と異なり荒れ果てていた。
その原因は自分だけが知っていた筈の憧れ、柴崎。
プリンスが始めて遭遇した掛け値無しに尊敬できるカッコイイ大人だった。
元々志那と柴崎を引き合わせた原因は己なのだが……。
「ぐぬぅぅぅぅぅ!!!ズルい!!ズルいぞ志那くぅぅーーーんっ!!!!」
頭を抱え、悶え苦しむかのように胴体を振り回し、癇癪を起こす。
「志那君……!!僕から柴崎先輩を奪うだなんて……!!君は僕の友人じゃ無かったのかい!!!?おおーーーん!!(泣)」
プリンスは志那に嫉妬していた。それもかなりガッツリめに。
夏休みに入ってからというものの、志那は柴崎の営む喫茶店、シャトーへと入り浸りマンツーマンの超贅沢特訓。
柴崎の迷惑にならぬようにと話しかけるタイミングを伺い続けているが、ずーーーっとフレンド欄で柴崎と志那がエルオン内でオンラインとなっているのだ。
そろりそろりと自然に見せかけ柴崎の近くへと行ってみても柴崎は忙しいのかあまり構ってくれない。
このままでは兄弟子という立場も危うい。とプリンスはギリギリと歯を食いしばりながらハンカチを噛む。
プリンスは元々正直な事を言ってしまえば結構みっともないが、柴崎の一番弟子として教えを請いつつ強くなり、弟弟子である志那には決して実力面で抜かれる事無く、良い感じに尊敬されたい……という願望というか願いがあったのだ。
互いに強くなれど、プリンスは決して志那に実力を抜かれたい訳では無かったのだ。
「うおぉーーっ!!すげぇっす!!格好いいです!!」と純真無垢なキラキラとした目で志那に尊敬されていたい。
しかし現実はあっという間に実力でブチ抜かれ、柴崎は志那に付きっきり。しかもなんか最近は昔の友人とか言ってべらぼうに強い人まで追加でひっついてきた。
こうなってくると流石にプリンスの脳内は「ズルい」の一言で埋まってくる。
そこそこみっともなくてもこれがプリンスの本音なのだからしょうがない。
「良いだろう!!志那君!!!君が僕にそういう事をするんなら僕だって策がある!!秋大会を楽しみにしているがいい!!ほんと許さない!!!」
和室を魔改造した和洋折衷とは程遠いインテリアの不協和音ルームの中でプリンスは「ハーーッハッハッハッ!!」と高笑いをあげる。
しかし「近所迷惑だから黙りなさい!」と小太りパンチパーマの母に止められ、成す術もなくプリンスの高笑いは収まった。
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