第23話
細田二郎。エルオンでの名前は[徳川秀吉]。ふざけたユーザーネームながら、大昔からずっと前線を張り続けている俺と同世代の猛者。
志那の練習相手に細田が就いてくれる事になったのは非常に幸運だったと思う。細田もまた、俺や志那に近い理論、頭脳型のプレイヤー。
何故か昔から彼は自己評価が低いが、どれだけ環境が荒れた時にも何故かしれっと大会ではそこそこの成績を安定して残す事が出来るという稀有なプレイヤーであると柴崎は評価している。
そもそもエルオンという、只でさえ上位層の入れ替わりが激しいゲームにおいて20年近くどの時代においても一定の成績を残す事が出来るというのは十分なバケモノ。大型の大会で上位入賞する機会が殆ど無い為に本人に自覚は無いようだが。
細田はこだわりの少ない臨機応変なプレイスタイルを持つ。
環境で《貴族聖杖》構成が流行ればそれを使い、《ガンマンボウガン》が流行ればそれを使う……といった環境構成が出現したら迷いなくそれを使う、という感じである。
悪い言い方をすれば自分に芯がなく安直、とも言えるが、良い言い方をすれば柔軟性と適応力が非常に高いといった評価が出来る。
しかしこの気質、プレイスタイルが間違いなく細田が長命ランカーとなる事に貢献している。
そもそも環境構成は〝大体の敵に7割勝つ〟を目標に組まれている事が多いので、連戦を要求される大会に非常に向いている。
100点の動きは難しいが、70点の動きを出せれば他の構成の85点の動きに勝てる、という感じであるから環境構成はそもそもが有利である。
若かった頃は節操なく当時の環境構成を次々と使用する細田を若干毛嫌いしていた時期もあったが、今では心の底からの尊敬の念を抱いている。安定して勝ちたいのならば環境構成、という思考は正しいのだという事を後にシバサキは学んだ。
とにかく、20年間ある程度勝ち続ける、というのは常人には出来ない所業。前線から退いて長いシバサキよりも今の細田は経験値が高い。
「お久しぶりだ。シバサキ君。」
振り返ると微笑を浮かべながらこちらを見る細田。
「久しぶり。ありがとうね。引き受けてくれて。」
「うむ。シバサキ君たっての願いとあらば聞かなければなるまいよ。」
細田は緊張しているのか時代劇のような言い回しをする。
「それで、練習相手ってのが……。」
「彼か。」
細田はシバサキの後方で若干気まずそうにこちらを見ているプレイヤーの存在に気付く。
「ほら、志那君。彼が練習を手伝ってくれる細田君だ。彼、結構顔が広いからね。今後エルオンの界隈で色々やっていきたいなら仲良くなっておいて損はないと思うよ。」
シバサキはそんな事をニコニコと言う。
確かに20年間大会に出続けたよって顔〝だけ〟は広くなったが、拙者人徳は特に無い故あんま期待しないで……!!という気持ちで細田は震える。
「お……おほん。よろちく……。」
元々の人見知りな性格に加え、大会等以外では中々喋ることがない。最初が肝心、と緊張が最高潮に達してしまった細田は肝心な所で噛んでしまう。これでは威厳もへったくれも無い……。
「よろしくお願いします。」
志那君はツッコむ事も笑う事も無く挨拶を返してくれる。ガキ特有のヘラヘラとした良くわからない笑い方が嫌いなのだが、志那くんはそういう振る舞いも無く中々好印象である。
気遣いの出来る良い少年なのだろう。感謝。
「それで秘匿構成って?何を使うんだい?」
若干ぎこちなく細田は志那へと問う。
「えぇっと……《ハンター星闘杖》構成です。」
「〜〜〜ッッ!!なるほど!!!そうかそうか!!!」
感無量!!この感覚は長年エルオンのシーンを見続けてきた人間にしか分からないだろう。
かつての伝説的選手であり、戦友が、かつての相棒構成を弟子に叩き込んで全国大会に送り出そうとしている。
伝説的強さを誇ったシバサキの《ハンター星闘杖》。あの時は最後までシバサキ以上の使い手は現れなかったが、今回はどうだろうか……!!非常にワクワクする!!
見たい!!シバサキ直伝の《ハンター星闘杖》!!
「志那君、いっっかい、戦おうか……!?」
✶ ✶ ✶
なるほどなるほど……!!
強い!!!なるほどこれはシバサキの弟子だ。
度重なるアップデートにより、かつての《ハンター星闘杖》とは戦い方が変わっているがこれも悪くない……というか全盛期よりも強そうじゃないか?
当時よりも小技や仕様は増えている。この全てを活かす事が出来たなら、今度こそ《ハンター星闘杖》は誰にも止められなくなるんじゃないか!?
細田、[徳川秀吉]が使うのは現在相変わらず環境トップ構成の《重騎士ハルバード》。
《重騎士ハルバード》の攻撃力と《ハンター星闘杖》の耐久力の関係上、一撃でも細田が攻撃を命中させる事が出来れば細田の勝ちが確定する。
しかし《重騎士ハルバード》の速さでは攻撃は当たらない。それなら回避で距離を離してから油断して詰めてきた志那君を横斬撃の範囲薙ぎで落とすか?しかしシバサキの弟子ならその程度の行動の回避札は用意しているよな。いや、まぁ良いや。とりあえずやってみよう。お手並み拝見。
細田はハルバードを斜め下前方に突き出し、その勢いのままさながらエビやザリガニのような格好で後退。するとすかさず志那は距離を詰める。当然だ。回避に回った《重騎士ハルバード》はノロいので攻めどき、というのが定石。
細田は虚空めがけて後退中に出した動作流用を使いながら発動時間を短縮した横薙ぎを発動する。
並のプレイヤーよりは自然かつ気取られにくい動作流用が上手い自負がある。発動時点までに何かしらの用意ができていなければ攻撃が命中するのは必至である。
「さぁどうよ!!」
志那の首元まで横薙ぎが迫る。
「うぉっほ!!マジか!!」
思わず声が出る。
右から左へと、空気を刈り取りながら接近するハルバードに向け、志那は星闘杖を左から右へと、ハルバードに対して水平に振り回す。
志那は〝当たったら負け〟の攻撃めがけて躊躇う事無く相殺を狙ったのだ。
相殺は斬撃攻撃の場合、相手の方向と反対の方向から攻撃の面に対して水平、かつ衝突時の速度がほぼ同速でなければ発動出来ない高等テクニック。
普通ならもう少し安全な手を取る。
バチッ、と弾かれたような感覚。ハルバードの勢いが跳ね返され、後ろへと一瞬体重を持って行かれそうになる。
相殺が成功した。
構成によるウェイトの差がある為、相殺で威力を出来るだけ減らしたとはいえ、細田以上に志那は弾かれるような感覚を受けた筈だが、即座に慣性を消して再度斬り掛かってくる。
「やるじゃん……。」
✴ ✴ ✴
「成功した!成功した!成功した!!」
咄嗟に狙った相殺が成功し、志那は内心で興奮する。
「100%成功できるようになろうね。」
マンツーマン、地獄の鬼特訓で柴崎さんが語った言葉。
パリィ、相殺、動作流用。
どれも成功すれば大きくアドバンテージを得られる行動だが、難易度が高い。
「実戦で〝なんとかなれ!〟ってヤケクソでパリィや相殺を狙う人が居るけど、そういう人は決まって勝てない。当たり前だよね。勝利に直結する肝心要の要素が運頼みなんだもの。一回二回運良く勝つ事が出来ても、安定して勝つ事は出来ない。極限まで運の要素を削ぎ落とすんだ。パリィに相殺、動作流用のどれにしてもゲームである以上、発動する条件は事前に決まっている。何故発動出来たのか、何故出来なかったのか。一回一回自分の脳みそで考えて練習していこう。ダミー相手なら出したい時に狙って出せるってレベルまで実力を仕上げていくのが必須かな。」
「とはいえ、実戦では猛者相手だとフェイクや遅延みたいなテクニックを挟まれちゃうから成功率は良くて3割、って感じになっちゃうんだけどね。でもまずは狙って出せる土俵に立たなきゃ。ダミー相手の練習は100%まで仕上げて?」
柴崎さんとの特訓!ダミー相手のパリィ1000本ノック。最初は100%なんてのは本当は口だけで大体9割越したくらいで許してくれると思っていた……!許してくれなかった!!
あれは本当にキツかった……!
でも、あの特訓のおかげで今ならダミー相手に100%の成功率を出せる。
無駄じゃなかったんだあの練習は!
現に今、強豪プレイヤーの細田さんの攻撃を受ける事が出来た。
集中しろ、頭を使え!勝つぞ……!
✴ ✴ ✴
凄まじいセンスだ。
「君本当に始めて2ヶ月?」と聞きたくなる。
相殺を一発で成功させる精度があるって事はパリィも同程度の精度まで仕上がっているのだろう。驚異的だ。
なにより、影がチラつく。
かつてシバサキが使っていた頃の《ハンター星闘杖》とは性能が大きく変わっているにもかかわらず、あの〝勝てる気がしない〟《ハンター星闘杖》の気配を感じる。
いや、実際には粗はまだまだある筈。だけど初っ端から相殺を狙い成功させるその自信、精度。そういう気配に呑まれそうになる。
傷が浅い内に降参してしまいたい衝動に駆られる気配。
完全試合などやられる側はたまったものではないのだ。圧倒的屈辱。
若い頃にシバサキと対面して思った「そんなん無理じゃないですか?」という絶望がフラッシュバックする。
当然だが、理論上は最強、という構成で最適解の動きをされれば勝ちようがない。
かつてのシバサキがそれだった。当時戦っていた全てのランカー達のトラウマ。
ふと、違和感を感じる。
ハルバードの切り上げに対する回答札。横跳びで回避してそのまま犬を飛ばしてくる。
誤差に近しい距離だが半歩、余分に逃げている。
詰め方もだ。黒犬、白犬で挟みながらの弓打ちコンボ。柴崎当時は無類の強さを誇ったコンボだが、実は重量職相手の場合硬直時間が短い関係で、ほら。
その攻撃は弓による硬直を受けてもギリギリ黒犬は蹴飛ばして回避できる。
次第にうっすらとした違和感は確信へと変わる。
クセが取れていないのか。
シバサキ全盛の時代と現代のエルオンでは仕様が大きく異なる。かつて必要だった動きは無意味になり、かつては間に合った防御が間に合わなくなっている場合もある。
マンツーマンの特訓を繰り返すうちに、言語化されていない経験の要素まで共有されたが故に、志那の戦い方は古臭い。
昔はこうだったよね、という戦術が見て取れる。
「なるほど。シバサキが練習試合を頼むわけだ。」
かつての伝説的選手と言えど、一度立ち止まってしまえば常に最前線で戦い続けた人間には敵わなくなる。
日々新たな戦術、構成、仕様の更新にドンドンと老兵は取り残されていく。
シバサキとの練習だけでは不十分。確かに志那には 近代プレイヤーとの練習試合が必須だ。
「なら一つ、近代の戦いを見せようかな。」
細田はそう呟き、ハルバードを構えた。
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