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第25話

はたから見たらエタったのかと思われるくらいの期間が空いてしまいました。皆様お元気でしょうか。私は夏を謳歌していました。これからまた投稿していきますので宜しくお願いします。


 「右足が出過ぎかな。それだと後ろの白犬との交代が間に合わないから踏み込みは浅くした方が良い。基本ヒットアンドアウェイだけど星闘杖のコンボボーナスも大事にしたいからいい塩梅の距離感を維持するのは大事かも。」


 志那と模擬戦をしながら細田は語る。


 現在柴崎は用事があり離席している。


 柴崎から頼まれた通り、細田は志那へ〝現代の〟エルオンの基礎戦術を叩き込む。


 「止まって。多分それだと……ほら、伸ばすとギリギリハルバードが当たっちゃう。そうだなぁ。感覚的には想定した距離にプラスして拳1個分くらい猶予を持って避けてみて良いかも。薙ぎ方のクセによっては当たっちゃう事もあるしね。」


 本人は気付いていないが、細田は言語化能力に長けている。ゲームの仕様。薙ぎ方のクセ。上位プレイヤー達の体に経験則として染み付いているあらゆる要素を一つ一つ分解し、咀嚼する事が出来る。


 それは細田という、リオンやシバサキが持つような圧倒的才能に恵まれなかった彼が最前線の人間達へ食いつかんと長年の試行錯誤を続けた末に身に着けた技能である。


 この言語化能力はコーチ業に非常に役立った。シバサキとの熱血修行で志那に身に付いてしまった古臭いクセを的確に見つけ出し、溶かす。



 現代型《ハンター星闘杖》の完成は間近である。



  ✴ ✴ ✴


 「……志那君さ、今後どうするつもりなの?」


 2人しか居ないフィールドで休憩中、細田は志那へと問う。


 「今後って?」


 「秋大会以降だよ。恐らく志那君には今後色々な勧誘が来る事になる。……ゲームのランカーってさ、ゲームが上手いのは勿論なんだけど、当然ゲームに費やす時間が凄まじく長いんだ。エルオンなんて特にその傾向があるし。」


 細田は理解していた。


 今の志那には上位プロ未満程度の相手なら誰を相手にしても勝つ可能性を有する事が出来る実力がある。


 突如全国大会に現れる大昔の最強構成《ハンター星闘杖》。裏に引退したかつての伝説的プレイヤー、シバサキが付いている事も恐らくすぐに露呈する事だろう。


 十分に話題性があるのだ。直ぐに話題に飛びついた複数のプロチームから勧誘が来るだろう。


 細田は懸念していた。


 確かに志那には凄まじい吸収力と熱意がある。この短期間でここまで実力を付ける事が出来る人間は殆ど居ないからだ。


 しかし、仮に志那がプロになったとてこの先10年勝ち続ける事が出来るなんて保証は何処にもない。保証どころか、その可能性はとても低いだろう。一つのゲームで10年勝ち続け、食っていくのはとても難しい。


 プロチームもそうだ。資本力のある強豪でも無い限り、長期的な視点で選手を丁寧に育てようとするチームは現状少ない。


 細田は鳴り物入りでプロデビューした新人がプロ入りした途端に勝てなくなり、潰れていった様を沢山見てきている。


 志那は大学生だ。身分故に多少の時間の猶予があるとはいえ、今の志那のスケジュールが無理の末に成り立っている事を細田は分かっている。


 大学を続けたままプロ入りすれば、過密過ぎるスケジュールに押し潰され、間違いなく志那は体を壊す。


 この世界に足を踏み入れさせてはならない。


 細田の良心が咎める。


 凄まじい長さの拘束時間。


 気を抜けば直ぐに勝てなくなる苛烈な舞台。勝てなくなる事は即ち、収入が途絶える事に直結する。


 そもそもエルオンのサービスが未来永劫続く訳が無い。何処かのタイミングで必ず、必ず稼げなくなる日が来る。



 今なら引き返せる。止めたほうが志那の為だ。


 細田は若い頃からひたすらこの世界に身を投じ続けている。


 勿論、誰よりも長く戦線に立っている事への誇りはある。達成感を感じた瞬間だっていくつもあった。


 しかし、今からもう一度若い頃からやり直せると言われたなら、もう一度この道を選ぶ事はしないだろう。


 生半可な才能の者はここに来るべきでは無いのだ。


 なまじっか中途半端に生き永らえる事が出来てしまったが故に、エルオン以外がてんで駄目な大人になってしまった。このゲームが無くなれば直ぐ様生活が立ち行かなくなるだろう。


 志那とかつての己が被る。


 「俺は、プロになりたくてこのゲームを始めた訳じゃありません。元々は偶々動画で見たリオン選手に憧れてここまで来たんです。あの人に勝つのが目標って言うか……。そもそも俺、大学生ですしね。」


 今まで無かった選択肢が志那の頭に浮かぶ。


 「あぁ、でもプロの選択肢もあり得るんですね。今まで全然そんな事考えてませんでした。」


 「プロって言っても、中堅未満の所はどこも契約する事自体が地雷ですらある所ばかりだけども。プロモーション費だとかって言ってむしろ選手が金を取られる所だってある。」


 「あー、なんか聞いた事ありますそれ。」


 一昔前のアイドル志望者への詐欺に近しい物だ。乱立したプロチームの中にはこういう事をする所もある。


 「プロとかは本当辞めておいた方が良い。こんなに水物な仕事も中々無いよ。まぁ俺はチームと契約したりしてないからアマチュア枠なんだけど……。体だって酷使する。僕の知り合いにエルオンのやり過ぎで死んだ奴も居るしね。」


 「マジっすか。エルオンのやり過ぎで……?」


 「エルオンのやり過ぎって言うか、エルオンを夢中でやり過ぎて病院の再検査をシカトし続けていたら気付いた時には末期ガン。明らかになった時には手遅れだった、みたいなさ。実質エルオンのやり過ぎで死んだようなものだよね。」


 「怖いっすね、それ。」


 「他にもエルオンのやり過ぎで奥さんと娘に逃げられた人とか、凄い金額の借金を背負っちゃった人とか。あんまりのめり込むのも考え物だよね。まぁ俺もあんまり人の事言えないんだけどさ……。」


 ははは……と細田は乾いた笑いをこぼす。


 特訓は続く。


 ✴ ✴ ✴


 

 深夜。細田が「まだやれます!!」と気負う志那を寝るのも体調管理の一環だ、と抑え込んだ後の会話である。


 「どれくらい伸びた?」


 「とりあえず仕様変更があった星闘杖の判定ラグ防止のミリ止め癖の修正と持ち方対策、後は諸々シバサキさんの時代に無かった手筋の追加ですかね。」


 「凄い量教えてくれてるじゃん。ありがたい。」


 柴崎は細田へ手を合わせる。


 「シバサキさん。志那君を何処まで連れて行くつもりですか?」


 「何処まで……って?」


 「大会以降の話ですよ。多分〝お誘い〟来るじゃないですか。」


 「あぁ、そういう。」


 柴崎は腕を組み、少し考えて言う。


 「僕は別に彼の保護者では無いからね。彼がこの先の道をどう選ぼうと僕がそれを止めるつもりは無い。」


 「そう……ですか。」


 細田は短期間とはいえ、特訓に付き合った志那へと情が湧いてしまった。志那の背後にかつての己を見ている。

 

 「そもそも止められる物でも無いしね。ああいう情熱みたいな物は。僕らだって最初は何もかもが楽しくて仕方が無かったじゃん。彼はきっと今がその段階なんだ。貪欲に強くなる事を楽しんでいる。僕らの声なんて耳に届かないさ。」


 確かにそうだ。今でこそ体も重くなり、金銭的な問題でそうは行かなくなってしまったが、かつては勝つだけで良かった。


 それでも、と細田は思ってしまう。


 「今シバサキさんが後悔しないで居られるのは、あなたが強かったからです。あなたが誰にも負けないくらい強かったから、良い思い出のまま生きていけてる。……彼にも才能はありますが、シバサキさんの様に生きていけるとは思えない。」


 細田は思う。シバサキには敗者からの視点が欠落している。気の遠くなるような時間を費やした末に得た物が己の無力、無才の自覚であった者の絶望を彼は知らない。


 「小さい頃、近所に4つくらい年上の兄ちゃんが住んでたんだ。一緒に公園とか行ってサッカーしたりしてさ。ある時、そこの兄ちゃんがゲームを一緒にやらないか、って誘ってきてね。それがエルオンだった。始めは酷い物で、当然ゲームを持っている側の兄ちゃんが本当に強くて、全然勝てなかったんだ。それで、滅茶苦茶悔しかったから親にねだって攻略本を買ってもらったんだ。本当はゲーム自体が欲しかったのだけども。その後はひたすら頭の中で攻略本を読みながら作戦を練った。そしたら勝てたんだよ。あれは楽しかったなぁ。」


 柴崎は思い出すようにぽつぽつと話す。

 

 「僕はエルオンのお陰で勝ち方を学んだ。相手と自分の距離を知って、足りない物を分析して、埋めて。ひたすらそれを繰り返すっていうサイクルを学んだんだ。多分、後悔している人はかけた時間の中にある宝物に気付けていない。誰の手元にも得た物は入っている筈だ。」


 「確かに僕には挫折し消えていった人の後悔はあまり分からないけど、学んだ事を志那君に伝える事は出来る。それに彼は賢い。彼なら自分だけだとしても、このゲームにかけた時間から何かを見出す事が出来る。心配は要らないよ。」



 シバサキはニコニコとしながらそう言う。彼の言葉には昔から説得力がある。根拠は無いが、細田はシバサキのその言葉に納得をしてしまった。


 「それに止めないとは言ったけど、応援しないとは一言も言っていない。大会後に彼が日常に戻るのならそれも良し。もしも彼がプロを目指すのならば、どれだけ力になれるかは分からないが、僕の持ち得る力を全て使ってサポートしてあげるさ。」 


 現在最前線のトップ選手、大手チームの経営陣。かつて黎明期を共に歩んだ選手達。


 とうの昔に引退しているにもかかわらず、柴崎の人脈は留まる事を知らない。


 柴崎の言う〝サポート〟がどれ程の規模になるかを察した細田は呆れの混ざったため息を吐いた。

「面白い。」「続き読みたい。」等思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をお願いします! モチベーションに直結します。優しい方、是非。

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