第20話
しゃがみ、下からハルバードを薙ぐ。
攻撃に次ぐ攻撃―。
とはならないのがこの対面。志那の攻撃が当たらなれけば攻守交代。
一瞬攻勢に出る事に成功するも、またすぐに主導権を奪われてしまう。
そんな事を繰り返しているうちにジワジワと志那は体力を削られ、気付けば体力は残り1割弱。対する柴崎の体力は満タン。
何一つ有効な手が打てていない。
投擲、パリィ狙い、回避、ダメージ覚悟の広範囲技発動。
そのどれもが柴崎の手によってことごとく完封されてしまう。
これは?この手は??
もはや残す手が殆ど失われながら志那は足掻くように手当たり次第に策を投げつけてみるが、柴崎には届かない。
✴ ✴ ✴
おどろいた。
柴崎は感心する。
その理由は志那の手筋。
並のプレイヤーならば、手も足も出ない敵相手となると己の勝ちパターンに固執するあまり同じ攻撃を繰り返し続けたり、打開策を模索するも緊張や思考によるつっかかり、それによって行動が雑になる、など何かしらのボロが出てくる。
しかし志那はこの期に及んで未だ、戦いながら思考を繰り返し続けている。
一見同じ手を何度も打っているように見える技も、柴崎の目には別々の狙いを持って取った手だと理解できる。
意識的なのか無意識なのか。
思考とその実践。それを苦無く繰り返せる人間。
〝練習によって化けるプレイヤー〟の権現のような存在だと柴崎は感じる。
だけどまぁ、まだ青い。当然だ。初めて一ヶ月。むしろこれだけの期間でここまで至ったのは称賛に値するだろう。
柴崎はそう思い、志那の顎に星闘杖を叩き込む。
志那の体力が0になる。
柴崎の勝利。
✴ ✴ ✴
「よし、やっぱり君は《ハンター星闘杖》を使うべきだ。ちょっと触ってみた感じまだ使えそうだし。」
フレンドと共に入る事が出来るプライベートルーム。そこで柴崎は志那へと語る。
志那は柴崎との試合終了後一人で頭を冷やしながらしばし考え、柴崎の狙いを見極めていた。
「戦った後、思い出したんです。しばらく前に動画で見た《ハンター星闘杖》の事を。」
「あぁ、見た事あるんだ。」
志那は今の今まで忘れていた。エルオン戦術年表、という過去から現在に至る戦術、セオリーの変遷を紹介していく動画の中に柴崎の使った《ハンター星闘杖》について触れる場面があった事を。
「《ハンター星闘杖》の部分自体はあっさり終わっちゃったんですけど、解説で、[シバサキ]選手の扱う《ハンター星闘杖》だけ異様に強かったって。」
「うん、まぁ……、僕が使う《ハンター星闘杖》が異様に強かったって言うよりは、他の人達は《ハンター星闘杖》の正しい使い方を知らなかっただけって感じかな。僕が凄いって話じゃない。」
柴崎はそう言うと空に手を動かして操作ウィンドウを開き、ホワイトボードを生成する。
ちなみにホワイトボードを生成するこれはエルオンではなくヘッドセット側の機能である。志那にも出来る。
「でも今回は僕の研究してきた《ハンター星闘杖》のすべてを君に教えようと思って。年月が経っちゃったから仕様変更で所々手筋が変わるところもあるだろうけど、研究のしかたも教えるから問題無くリペア出来ると思うな。」
柴崎はそう言うとホワイトボードに文字を書き始める。
秋大会優勝までの道
《ハンター星闘杖》の全性能、仕様、戦術の理解。
↓
現エルオン環境内の全ての構成の理解。
↓
練習試合
↓
いざ本番
柴崎の穏やかな雰囲気から一転、ホワイトボードに書かれたそれはなんだかスポ根漫画のように気合で乗り切ろうとする空気を感じる文面である。
「すっっごい大雑把に言うとこんな感じね。本当は現エルオン環境内の構成全把握ってところは事故を無くす為に全武器全職業って言いたいんだけど流石に秋大会までの期間が短過ぎてね。対面で予想外の環境外構成に当たらない事を祈るムーブの方が良いと思う。」
志那は若干引く。
エルオンの現環境構成という部分だけでどれだけの数の構成があるのだろうか、という話である。《盗賊マンゴーシュ》に対しての《盗賊ククリナイフ》のような、コンセプトはほぼ一致しているが性能の微調整によって別構成へと分岐したような物を含めれば、覚えなければならない事はより膨大となる。
「これは分岐構成の把握も必須ですか?」
志那は少しの希望に賭けて問うが―。
「もちろん。というか覚えていないと一気に《ハンター星闘杖》は弱くなるよ。この構成は全構成の把握という前提条件によって初めて安定して戦えるようになるんだから。」
柴崎以外の《ハンター星闘杖》が頂点に立てなかった理由。それはシンプルに、誰一人としてそこまでエルオンを極められなかったから、という話である。
ただ全てを把握し、極めた時はどの構成よりも凄まじい性能を誇る。それが《ハンター星闘杖》という構成であった。
「まぁ騙されたと思って使ってみてくれよ。全部教えるからさ。」
柴崎はそう言いながらいつの間にか右手に持っていたコーラをぐいっと飲む。
「柴崎さん、コーヒーじゃなくて良いんですか?」
「現実だと炭酸飲むとお腹痛くなっちゃうからね。ここで炭酸欲を満たすのさ。」
柴崎はお腹をさする。意外な弱点だ。
「さて、そろそろ遅くなってきたし一旦寝ようか。おやすみ〜。」
そう言いながら柴崎はログアウトしていく。
「もう遅くなってきたって、まだ22時……。」
志那は置き去りにされながら柴崎が居た虚空を見つめる。
「お待たせ致しましたーーーっ!!!プリンス!!只今参上です!!!」
直後、信じられないくらいのクソデカボイスでプライベートルームへと入ってくるプリンス。
「もう柴崎さん寝ちゃったぞ。」
若干引きながら志那はプリンスに教えるが―。
「ややっ!志那君!!やはりか!!」
プリンスはそう言うと残念そうに顔をしかめ、柴崎さんはいつも10時には寝てしまうのですよ〜!!等と叫びながらログアウトしていった。
濃すぎる。志那はそう思った。
そんなこんなでエルオンに一人ぽつんと取り残された志那がとりあえず《ハンター星闘杖》の研究でもしようか、と練習部屋に入った直後、柴崎からのダイレクトメッセージが届く。
開いてみると文面は短く、『寝ろ!!!』というもの。
俺には練習が足りていないという事を柴崎さんが一番分かっている筈なのだが、と思ったものの、とりあえず従ってみるかと志那はエルオンをログアウトし、床に就く。
この日はここ一ヶ月で一番の快眠だった。
✴ ✴ ✴
夏季のエルオン全国大会。その決戦。
初日は連戦連勝のアマチュアプレイヤーGOU選手の快進撃、そして史上最強と目されるリオン選手の二人が主に注目された。
今大会は比較的下剋上試合が少なく、ベスト16へと勝ち上がったのはGOU選手を除いた全員が中堅以上のプロ選手達であった。
二日目はリオン選手の異常性がよく目立つ日となった。決勝は《重騎士ハルバード》対《重騎士ハルバード》のミラーマッチ。
プロ同士のミラーマッチでは殆どの場合それなりに拮抗するのだが、結果はリオン選手のストレート勝ち。
大学の講義中、3000万円という優勝賞金にさほど興味を示さずにぼんやりとインタビューを受けるリオンの姿を生中継で見ながら志那は目を閉じる。
「うーん。別次元。」
リオン選手を倒す。それを目標に掲げてはいるものの、正直勝てるようになるビジョンという物が全く見えない。
沢山練習しなきゃなぁ……。
志那はそう思いながら意図せず眠りに就いた。講義中に。
最上位帯。まさしく現エルオンのトップ層同士のぶつかり合いにおいても〝リオン〟という存在は頭一つ抜けた実力を持つ事が改めて知らしめられた大会となった。
大会終了後のインタビューでは「もっと色々な人と戦いたいです。」と気の抜けた声で語るリオン。試合中の圧とはまるで別人の雰囲気を醸し出すオフの姿はそれなりに熱心なエルオンプレイヤーなら既にリオンあるある、として知っている。
ちなみにGOU選手は二日目のベスト16、初回の試合で敗退している。最上位帯はセンスだけで勝ち上がれる程そう甘くない、という話である。実にアッサリとした幕引きではあった。
とはいえ彼も今大会でトップクラスに注目を浴びた期待のルーキー。複数プロチームからのスカウトが大会終了後すぐに届く事となる。
秋の全国大会までの間にはいくつも細かく、小規模な大会が開かれる。プロ達の多くは入賞数が収入に大きな影響を与える為、出来る限りの数、大会への出場を表明する。
プロ同士が上位入賞を巡ってしのぎを削る為、経験を積むという点ではメリットになり得るが、戦術も構成も周囲へと晒し続け、なおかつ研究にかける時間も得にくい。
そういう環境はプロ達にとってはそれなりの足枷となっていた。
大なり小なり大会に出場するプロ達は誰もが、研究され尽くし、真似され、対策され続ける。
エルオンに限らず、全ての対人競技はいつだってチャレンジャーが有利。
上位に立ち続ける事に耐えられなかったプロも大勢居る。そういう人間は淘汰され、表舞台から消えていった。
新陳代謝が高く上位層の入れ替わりが凄まじい速度で行われるエルオンにおいて、上に立ち続ける人間の覚悟は想像を絶する物である。
立ち止まればあっという間に追い付かれ、貪り食われる世界において戦術は生み出され続け、メタは回り続ける。
夏大会が終わり、空気は一新される。
既に秋大会は始まったと言っても過言では無い。此処から先は研究という静かだが何よりも壮絶な争いが始まる。
夏大会から月日は少し進み、本格的な夏が到来する―。
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