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第19話


 

ああすればこうする、こう来たらこうする。志那の持ち得る全ての手札を余裕綽々でさばく柴崎……かのように見えたが。



 「実はそんな事も無いんだよなぁ。」



 柴崎は内心で呟く。


 《ハンター星闘杖》。



 体力は全職業の中で最低クラスに低いものの、その素早さ、攻撃モーションの発動速度は全職業中トップクラス、というとてもピーキーな性能をしたハンターという職業に加え、連続で攻撃を命中させる程に攻撃力が上昇する、という一見強そうに見える星闘杖。


 星闘杖は確かに連続で攻撃を当て続ければ重量級武器も真っ青な火力を出す事が可能な怪物武器ではあるが、そもそも他の対人ゲームに比べて高速で試合が展開するエルオン自体のゲーム性、〝連続〟という条件が達成される猶予時間の短さ等の兼ね合いによりカタログスペック程強くない。むしろ弱い。とすら一般に評される武器である。



 

 かつてまだエルオンがテレビゲームとして存在していた頃、柴崎少年はあるコンセプトの元《ハンター星闘杖》という構成を生み出した。



 それは〝最多の手札を使える構成〟。



 当時最速かつサブ武器+召喚キャラ2匹、という破格の性能(その代わりちょっと撫でられたら死んでしまうような体力ではあるが。)であった軽量職、ハンター。


 最速クラスの取り回しを可能としながら武器固有の技がハンターとシナジーの高い打撃武器である星闘杖。



 殴られなければ体力など必要ない、と言わんばかりのスピード特化構成。


 

 何度も言う事になるが、どちらも決して強い職、強い武器では無かった。



 にもかかわらず、柴崎が生み出したこの構成は当時の環境であった全ての構成相手に7割近くの勝率を叩き出した。


 この記録はランクマッチではなく、公式大会のものである。



 驚異的な数字。



 特定の環境構成相手に7割なら強めのメタを立てた構成ならよく見る割合だろう。



 だが、〝全ての構成相手に〟7割。異常も異常。普通構成を組めば何かしらの構成相手に不利が付くのである。


 重量職と殴り合えるだけの構成を組めば軽量職相手に翻弄され、軽量職を対策すれば重量職に撫で殺される。ならば中量職ならとやってみれば酷い時にはほぼ全ての構成相手に泣かされる、なんて事がザラに起きる世界での7割。



 そもそものコンセプトが万能過ぎたのだ。


 

 最多の手札を扱える構成。それはほぼ全ての構成を相手取れる事を意味する。



 しかしそれは本来机上の空論。



 軽量職という只でさえ耐久力の低いクラス。その中で比較しても特に体力の低い、言うならば最軽量職の職業は多くの場合、武器の特性に体力最大値増加や体力の継続回復、防御力上昇などの耐久力を上げる武器が用いられていた。それがセオリーだった。



 何故か。無対策の状態で重量職の技が当たろうものならそれだけでワンパンされる体力値だからである。



 当たればワンパンというのは実力者対初心者ならまだしも、ランクマッチという実力の近い者同士の切磋琢磨にはあまりにも脆すぎる。


 

 故に武器で耐久力をカバーしない、というのは論外であった。



 にもかかわらず柴崎は《ハンター星闘杖》を編み出して以降の約半年間、7割の勝率を維持し続けた。



 メタゲームの回る速度が非常に早いエルオンというゲームにおいて半年間の勝率維持、というのも狂気的。



 当時のプロプレイヤー達は何もかもが規格外なその惨状にドン引きしていたという。




 

 そして柴崎少年の《ハンター星闘杖》発明により当時の環境は一瞬にして過去の物に―。



 否。ならなかった。



 確かに《ハンター星闘杖》は当時の強力な構成として環境に出現したが、最強にはなり得なかった。



 おかしいと思うだろう。ここまで《ハンター星闘杖》の異常性を語った上で、最強に至らなかったと言うのは。


 

 言葉が足りなかったようだ。



 〝柴崎以外〟の《ハンター星闘杖》は最強になれなかった。



 《ハンター星闘杖》はその紙耐久故に「一撃も喰らわない」という前提条件が必須となる。


 もちろん他のステータスをかなぐり捨ててまで生み出したその機動力によって他の追随を許さない程度には圧倒的に避け性能は上昇している。



 しかしそれにも限度がある。プレイヤーだってエルオンに存在する全ての職、全ての武器を把握している訳では無い。



 不意の一撃によって全てが崩れ去る。



 そういう危うさを秘めていた《ハンター星闘杖》は連続で何度も戦わなければいけない大会においては比較的他の環境構成よりも決勝進出率が低かった。



 だがそんなピーキーな構成も、ある理由によって使うプレイヤーが多かった。


 その理由は先駆者たる柴崎の手筋がテンプレ化されていた、という物である。


 別に柴崎が手筋を動画配信サイト等で公開した訳では無い。上位帯のプレイヤー達がこぞって柴崎の対戦映像を入手し、研究した。


 

 研究の末明らかになった柴崎の手筋は非常に無駄が無く、理論的だった。何故この行動を取ったのか。何故こうしたのか。研究すればするほど美しい形に纏まっていたのだ。



 要は非常に模倣しやすかったのである。



 またたく間に「これで分かる!《ハンター星闘杖》の使い方!!」や「【必見!】環境TOP構成《ハンター星闘杖》の全て」等の動画が配信サイトに溢れかえった。



 それを見て学習したプレイヤー達は《ハンター星闘杖》を使い、そこそこの勝率をおさめた。



 そう、そこそこだったのである。



 どう足掻いても、誰がやってみても柴崎のそれにはまるで及ばない。


 それこそ《ハンター星闘杖》は他の構成よりも如実に素の実力が透けやすい為、その差は誰の目にも歴然であった。



 始祖にして最強。



 当時の柴崎はエルオンに存在する〝全ての〟職業、武器の性能を完璧に把握していた。

 


 大会前は出場が予想される選手の研究を誰よりも時間をかけて行っていた。



 覚えやすい公式かのように扱われたシバサキ式は研究によって一般プレイヤー達に明らかになっていた領域を遥かに超え、果てが見えない程の遠くまで完成していた。


 それだけでは無い。


 戦う程にその公式は深みを増し、成長を重ねていた。



 元々手札の数がウリの構成。柔軟性が凄まじく高い故に新たな相手の戦術に対応する事が出来てしまった。


 これが柴崎が長期にわたって異常な勝率を出し得たカラクリ。



 誰よりも研究を重ね、誰よりも練習を続けた柴崎のみに完璧に扱う事が出来た構成。




 ここまでが過去の話である。




 エルドラドシリーズは過去数回の新作の公開、絶えず行われるアップデートにより新たな構成、新たな武器が大量に追加されている。



 最早柴崎がかつて頂点に立っていたあの頃とは戦術もセオリーも、何もかもが異なる世界。



 確かにプリンスに付き合って何度か現代のエルオンは触ってきていたが、それはお遊び。頂点を見据える戦い方ではない。



 志那と別れての数時間、柴崎は《重騎士ハルバード》と志那の研究、そしてかつての相棒《ハンター星闘杖》構成の再研究を行った。



 柴崎のかつての戦場に重騎士という職業は存在しなかった。ハルバードという武器は存在していたが、かつては中量職の武器に分類されていた上、今とは全く性能が異なっている。


 そして度重なるアップデートにより変更が入ったのは何も《重騎士ハルバード》だけでは無い。《ハンター星闘杖》もまた当時とは異なる性能となっている。


 何本か仕様変更によってかつての公式が成立しなくなっていたが、やむを得ない。代わりに新たに作れそうな戦術もいくつかある。



 柴崎は現代と過去の差異を数時間かけて埋め合わせてきた。



 しかし間に合っていない部分もある。



 それは志那の研究。



 《重騎士ハルバード》のインターネット上に存在する9割方の戦術は頭に入れてきたが、志那自身の研究は情報量が少なく、研究は思うように進まなかった。



 柴崎は慎重になる。 



 不意の一手を喰らえばおしまい。知らない戦術があるかもしれない。故に丁寧に、確実に一つずつ処理する。


 負けの目があるとすれば、それは柴崎の知識外の所に存在する。



 目指すは完全試合。柴崎は気合を入れる。



 ✴ ✴ ✴


 防戦一方―。


 志那は頭を悩ませていた。



 中々攻勢に出る事が出来ない。


 ハンターは体力がかなり低く設定されている職業。故に一度攻勢に出る事さえ出来れば状況は一気にこちら側へと傾く筈―。なのだが。



 丁寧なスイッチと共に的確に邪魔をしてくる2匹の猟犬、防御を行えば星闘杖の餌食、距離を取れば正確無比な弓が飛んでくる、とあり正直打開の芽は見つからない。


 ダメージ覚悟で技の発動を行う、という選択肢もあるが、そもそも通常攻撃一発で落とせるような体力の相手に技を狙う、という事に旨味が殆ど無い。



 重騎士の技はどれも発動時間が遅い為、柴崎相手に発動した所で回避されて終わり、という話もある。



 志那の持つ唯一のアドバンテージは耐久力。星闘杖の連続攻撃さえ食らわないよう気を付けて戦えば体力の減少スピードはかなり抑える事ができている。



 この耐久力で生み出した猶予時間。この時間の間に、柴崎の《ハンター星闘杖》の対策を見つけなければならない。



 何が手札にあるのか、柴崎の隙は何処なのか。志那は戦いながら必死に頭を巡らせていた。

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