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第18話


 「《ハンター星闘杖》構成……?」



 「そうそう。この構成は昔僕が使っていた構成と全く同じものだ。まぁシリーズの成長によって仕様変更はちょこちょこされてるみたいだけど。」




 そう言うと柴崎は杖をくるくると片手で回しながら攻撃モーションを発動する。



 動きが早い。



 「ハンターって職業の性質は知ってる?」



 「ええと、確か召喚獣[猟犬]を最大2体まで同時召喚可能、固定サブ武器で弓、罠設置等のスキル持ち……って感じでしたっけ。」



 「そうそうそうそう。良いね。やっぱり知識量は最近始めたばかりの初心者とは思えない域に達してるよ。」



 柴崎は満足気に頷く。



 小柄で高速、その身軽さを活かしながら多彩な絡め手で少しずつ体力を削り、敵を追い詰める。ハンターはそういったコンセプトの元に設計されている職業であった。



 しかし。



 「勝てるんですか?」



 志那の懸念。それは《ハンター星闘杖》という構成そのものの出力の低さ、そして使いこなす難易度の高さにあった。



 別々に動く2匹の猟犬。この2匹はある程度コンピュータ制御によって決まった動きを取るが、逐一手動で的確に指示を出さなければ真価は発揮されない。


 固定サブ武器の弓も〝サブ〟と言うだけあってメイン武器の火力には及ばない性能。低い攻撃力に軽めのノックバックが付いているだけである。


 罠の設置もハマれば強いがそもそも相手が踏まない限り何の役にも立ちはしない。



 更に言ってしまえば《重騎士ハルバード》構成等のスタン技特化の構成が蔓延る現環境においてスタン耐性を持っていないというのはそれだけで不利なように見える。


 

 そしてこれらの条件を一度無視したとしても。



 《ハンター星闘杖》。コンボ技を決めた所で勝ちに直結しないのである。



 致命的なくらいの火力の低さ。他の環境構成は大体どれも大技であるコンボを繋げれば勝ち、もしくはほぼ勝ち程度の体力差まで持っていく事が可能なのだが、《ハンター星闘杖》はそれが出来ない。《重騎士ハルバード》相手であれば削ってせいぜい3割であろう。


 これは正直言って致命的であった。高速化した現代の試合において大技を決めた所で仕留めきれない、というのはお遊びに近い戦い方である。



 「もちろん勝てる!……と言いたいところだが、まぁ使い手の君と相手の実力次第かなぁ……。流石に古すぎる戦法だし、何とも言えないな。」



 勇ましい表情から一転、柴崎はそう言うと苦笑いしながら頭をポリポリと掻く。


 だけどね。と柴崎は言葉を継ぐ。



 「《ハンター星闘杖》は僕がエルオン人生を賭けて研究し、極めた構成だ。騙されたと思って使ってみてほしい。」



 かつて時間も忘れる程にエルオンへと熱中したかつての自分と志那の姿が重なる。



 あらゆる情報を頭に詰め込み、練習、修正、また練習……。



 エルオンの強豪プレイヤーには大きく二種類存在する。



 感覚、センス、反射神経等体の赴くままに動き結果を出す本能型の選手。もう一つは知識を詰め込み極限まで思考を巡らせ、勝ちへの道筋を導き出す理性型。


 前者の多くは並外れたセンスを持ち合わせる天才であり、後者は規格外の努力によって天才プレイヤーと渡り合うまでに至った秀才である。


 大きく二種……と言ったが、本当はもう一種存在する。


 圧倒的才能を持ち合わせながらも驕る事無く人並外れた努力をする怪物。



 柴崎は理性型のプレイヤーであった。



 その時流行っている環境を分析し、対策を練る。試行、修正。膨大な回数をひたすら繰り返し、己の戦術を一種テンプレとも言える程に美しく纏め上げられた極地に落とし込む。柴崎の手筋は非常に理論的かつ明快であり、他プレイヤー達によってシバサキ式と名付けられ、研究されもした。



 柴崎は思う。志那も同じであると。


 おおよそ初めて約一ヶ月の人間とは思えない程に彼の手筋は完成されている。基本に忠実。初心者がよくやる「一旦はここまでで良いだろう。」という妥協も今の所彼には見えない。


 柴崎は同類の匂いを嗅ぎ取った。寝る間も惜しんで飽きずに一つの研究へと時間を費やす事の出来るある種の〝異常性〟を。



 一つの事をえんえんと飽きずに、しかし決して単純作業へしてしまう事無くひたすらやり続ける事が出来る。そういう事も才能と呼ぶのなら、まさに志那は才能の権化であった。



 上手く伸ばせば、確実に大化けする―。



 ✴ ✴ ✴



 「それじゃあ志那君。デモンストレーションがてら一回戦ってみようか。君はいつも通り《重騎士ハルバード》を使うと良い。僕が《ハンター星闘杖》を使おう。」



 「わかりました。」



 志那はそう言い、ルームマッチの部屋へと足を進める。今はただ、柴崎さんの意図を理解する事に務める―。






 荒廃した地面。土埃が舞うエルオンのデフォルトのフィールド。ちなみに土埃に当たり判定は無い為目に砂が入る心配は無い。



 志那の正面に現実とは打って変わって非常に小柄となった柴崎が立つ。



 試合が始まる。



 即座に柴崎は首にかかった笛を吹く。ピィィーーッと高温が鳴り響き、柴崎の足元にエフェクトが現れ―



 「猟犬ですか。」



 白と黒の2匹の猟犬。


 

 柴崎は無言で背中から固定サブ武器である弓を取り出し、打つ。



 志那はハルバードの柄で飛んできた弓矢を弾く。



 固定サブ武器、というのは職業ごとに用意された固定の武器の事である。メイン武器として選ぶ武器とは異なり、多くのサブ武器は火力に乏しい。しかし、攻撃手段の追加というのは攻撃バリエーションが単純計算で倍となるので侮れはしない。



 「シロ!」



 柴崎が叫ぶ。シロ、というのは2匹居る猟犬の白い方の名前なのだろう。



 叫びに反応した白犬は即座、志那の手首に噛み付こうと飛び掛かってくる。先程弓矢を弾いていたモーションが残っている。弾けない。回避しか手は無い。



 上体を逸らすが直後、悪手だと気付く。



 星闘杖を持った柴崎が懐へと飛び込んで来ている。確か、星闘杖は連続で攻撃を当てる程にダメージにボーナス値が加算されていく武器。



 白犬に噛まれてでも柴崎の対策を取るべきだった。



 防御を発動する。



 志那の周囲に防御エフェクトが表示される。



 そんなのはお構い無しと防御している志那へと柴崎は星闘杖を叩き込む。ただでさえ防御力の高い《重騎士ハルバード》の防御中。柴崎の攻撃は1、という最小ダメージを出すのみであるが。



 「あ。」



 志那はまたもや自分の悪手に頭を抱えたくなる。星闘杖の性質。



 これはゲーム。1ダメージでも与えていれば攻撃と判定される。



 刹那の防御の中に叩き込み続けられる星闘杖。



 初期はおおよそ無視できるようなダメージ量であったものが、次第に笑えないダメージ量へと伸びてくる。



 何発食らった??体力ゲージは既に3割ほど削られている。



 後手に回り過ぎている。攻めに出なければ。



 発動していた防御をキャンセル。再度直後の防御を発動する事によってパリィを狙うが、狙いはバレていたようだ。柴崎はわざと足を深く踏み込んで攻撃モーションを遅延し、パリィを不発させる。



 志那は攻勢に出ようとハルバードを薙ぐが、柴崎はしゃがみ込み、アッサリと回避。更に追加で志那の顎に星闘杖を叩き込む。



 「痛っ!」



 志那は声を漏らす。



 無論痛覚はオフに設定している為痛い筈が無いのだが、それでも反射的に言ってしまうのだろう。


 

 冷静になろうと志那は一旦距離を取ろうと足を動かす。



 柴崎は追いかけて来ない。一呼吸おける。次の手を―。




 考えたのも束の間、パンッという衝撃と共にダメージエフェクトが眼前に散る。



 弓だ!!



 柴崎は能面のような無表情のまま志那へと弓を打つ。


 次ぐ2発目、3発目。



 志那はハルバードを回し弓を弾き落とすが、同時に背後から飛び掛かった2匹の白黒の猟犬が膝裏に噛み付いてくる。


 噛み付きのダメージ自体は微々たるものだが、体勢を崩された。


 体勢を崩した志那へと柴咲が接近し、星闘杖の高速攻撃を打ち込む。



 


 冗談じゃない!!何もかもがおかしい!!



 ハルバードを薙げば柴崎は丁寧に回避、そのまま距離を取られて弓攻撃。防御すれば星闘杖による実質的な防御貫通攻撃。


 技を発動するにしてもハンターという職の回避性能と柴崎自身の動きがおかしいせいで当たる気がしない。


 加えて2匹の猟犬が邪魔過ぎる!的確に一番面倒なタイミングで邪魔をしてくる!!


 猟犬を先に処理しようと狙ってみても柴崎本体と猟犬とのスムーズなスイッチにより手出しが出来ない。



 志那は必死に思考を巡らせる、が。現状を打開する策が何も思い付かない。




 志那の現状持ち得る全ての手札、それを後出しでほぼ完璧に制圧出来るだけの実力が柴崎にはあった。


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