第15話
ちょっと更新遅れてごめーんね
ストローを吸う。氷の表面に少しだけ残った水気がズズズ、と音を立ててメロンソーダフロートの入っていた器が空になる。
プリンスは既に手足に電極の付いたギアを取り付け、小脇にヘッドセットを抱えるという〝いつでも出来ますよ〟状態で横に無言で立っている。
きゅるきゅるとした大きなぱっちりお目々でこっちを見てきているが、でかめの人間がそれをすると圧へと早変わりする。ちょっと怖い。
プリンスの着けているヘッドセットをチラリと見てみればどうやら少しカスタマイズされているらしい。白色ベースのボディに流線的な金色のラインが通った見た目。
見た感じ俺の使っている八重樫社製のヘッドセットと同じ機種を改造した物らしい。
元々の白色ベースの色を持つヘッドセットに丁寧に金色のラインが引かれていたりと、高級感があってお洒落な感じだ。
ちなみにフルダイブ型ヘッドセット機器の改造は外装部分を除いて禁止されている。
うかつに素人がソフトウェアやハードウェアを弄った場合ダイブした仮想空間から戻って来れない、や意識が消失してしまった、等の重大な事故が起きる可能性があるからだ。流石に危ないのであまり改造をしようとする人間は居ない。
ついでにエルオンでは改造等のチートが発覚した場合、アカウントの永久停止等のペナルティが科せられる。他のフルダイブ型オンラインゲームも多くの場合、同様に重たい罰則が設置されている。
つまり改造と言っても見た目だけ。
それにしても格好いいな、プリンスのヘッドセット。お洒落。外装部分の改造は禁じられていないしな。俺もやろうかな……。
カラーリング的にはまさしく貴公子、プリンスといった感じだ。現実はさておき。
「志那君!そろそろどうだね!?」
飲み終わった後も氷をストローでくるくると回して考え事をする志那に待ちきれなくなったのか、プリンスは志那へと声を掛ける。
「あぁ、ごめん。お洒落なヘッドセットだなぁってぼーっとしてた。」
「そうか!君はこの良さが分かるんだね!素晴らしい!」
プリンスはそう言いながらヘッドセットを片手にくるくると回ってみせる。サービス精神旺盛な奴だな。
「志那君、志那君。」
薄暗い店の奥で作業している柴崎さんがちょいちょいと志那を呼ぶ。
「?」
「ほんと、少しでも嫌だったらいつでも帰って良いからね。プリンス君にも言って聞かせるからさ。」
柴崎さんは苦々しい顔をして言う。
「ありがとうございます。了解です!」
絶対に途中で嫌になって帰りたくならない、という保障は無いのでありがたく感謝しておく。
「じゃあ、やりますか。」
店の奥に置かれている長椅子に横たわり、電源を入れたヘッドセットを装着する。
意識が途絶える。
* * *
エルオンのロビーへと降り立つ。
直後ピコン、という電子音と共に〝プリンス〟という名前のプレイヤーからの試合申し込みが視界の端に表示される。それをタッチし、承諾。
対戦ルームへの遷移が始まる。
プリンスという名前もハンドルネームに見えて本名だというのだから驚きである。
土埃が足下に舞う。
ついさっきここで敗北し、もう2度とエルオンなんかやるかといった気分で落ち込んだ訳ではあるが、なんだかんだでプレイしてしまっている。これが中毒ってやつ?
「はっはっは!ようこそ志那君!!」
志那よりも少し早くフィールドへと転移していたらしいプリンスは腕を組みながら出迎える。
「どうも。」
プリンスのアバターを見る。……現実と殆ど変わらない。ぽっちゃり体型に埋まった首、暑苦しそうな雰囲気。
確かにフルダイブ型ゲームは現実の体型との乖離が大きい程操作に慣れが必要となる為、アバターを現実の体ベースに作る人は多いが、ぽっちゃり体型の人とかは痩せ型ないし普通体型に変更している傾向が強い。
あと本人は凄く満足げ。なんかいろんなポーズをこっちに向けて取ってる。
多分これ操作難度とか関係無しに自分の見た目に自信を持ってるタイプだな?素晴らしい事だ。こうも自分に純度100%の自信を持てる人間はそうそう居ない。健全な精神してるなぁ。
装着している装備や武器を見るに、構成は《白騎士セイクリッドソード》。
見た目的には黒光りする鎧にハルバードを担ぐ《重騎士ハルバード》構成と対となっているような雰囲気を感じさせる構成だ。
白騎士もセイクリッドソードも特別強い訳では無いが、一部のファンから根強い人気のある職業と武器、という立ち位置。
白色ベースの磨き上げられた美しい鎧、重量級職業の中でも花形的存在の騎士系職の白騎士。
日本語に訳せば〝神聖な剣〟という意味を持つセイクリッドソード。
どちらも男の心くすぐる何かがある。どってかっけぇもん。分かる。
どうやらプリンスはなりきり系プレイヤーらしい。強い構成、強い戦術を追い求めるのでは無く〝こうありたい〟という願望の体現に注力するプレイスタイル。
白騎士にセイクリッドソードを担ぐ姿がプリンスの理想に近い姿なのだろう。実際格好いい構成なのだからプリンスのセンスを疑う事は出来ない。
「では始めましょうぞ!」
志那の準備が完了したのを確認したプリンスは試合開始のボタンを押す。
直後、試合開始までの3カウントの進行がスタート。カウントが0になる。試合開始。
「では行きますぞ!」
プリンスが叫び、セイクリッドソードを腰に据えた鞘から引き抜く。
直後、聖剣の特性を表す青白いエフェクトがプリンスのセイクリッドソードに纏わり付く。
エルオンに存在する一部の剣には基本特性として〝聖剣〟という性質が与えられている。
とはいえ聖剣と言うからには、という程の圧倒的な効果等の派手な効果ではない。
特性【聖剣】の効果は武器装備時、体力が減少すればする程に自身のステータスが上昇するという物。
追い詰められる程に力を発揮する、という昔ながらの勇者像を体現しようとエルオン運営に設定された特性なのだろう。
現環境において、この特性の評価はさほど高くない。弱いわけでは無いが、強くもないといった感じ。
真価を発揮するには体力を削られる必要がある、という所が玄人向け武器って感じである。
加えて使いこなす難易度が高い割に出力はそこまで高くないから活躍はあまり聞かない。
「さぁ!我が聖剣よ!!全てを食らい尽くせ!!」
プリンスは謎の口上と共に技、ホワイトソードを用意している。その口上はどちらかと言うと悪役サイドでは……?
ホワイトソードを発動し、斬りかかりながら飛んでくるプリンスを避け、穿鋼撃を用意する。
相手がスタン耐性持ち構成でない限り、《重騎士ハルバード》構成がやる事は変わらない。スタンを捻じ込み、高火力技で押し込む。
プリンスはホワイトソードを発動した直後のコンマ数秒の硬直状態。穿鋼撃の用意が終わる。ハルバードをプリンス目がけて振るが、避けられる。
お互い初動のダメージレースはトントン。しかし間合い的にはこっちサイドが有利な位置取りになる。
プリンスは避けた動作を流用し、横振りの通常攻撃を放ってくる。動作流用を意識的に使っている。基本を意識した〝ちゃんと上手い人〟の戦い方だ。見た目だけにこだわっている訳では無い事が分かる。
左手に構えた盾で防御を行う。弾いてパリィを狙うが、発動しない。通常防御判定となる。これは別に良い。
ハルバードを左の手のひらに回しながら縦振りの通常攻撃を放つ。
重量職同時の戦いの初動は大技を出す為のアドバンテージの取り合いになる為、通常攻撃の交換戦が行われやすい。ちゃんとこのセオリーにもプリンスは乗ってくる。
やはり、基本がかなりしっかりとした戦い方。ランクマッチのS帯昇格ラインで戦ってきた人達と遜色無い隙の無い戦い方をしてくる。
ぱっと見た印象での派手好き、目立ちたがり屋といったプリンスのイメージからは少し離れる。
足薙ぎ、「ホワイトランス!」、横振り、「キングソード!」、突き、「ジャスティスガード!」、後退。
プリンスがうるさい。通常攻撃にもいちいち名前を付けて叫んでくる。
中距離での応酬。互いに致命傷となるような攻撃へはしっかりとした対策札を用意する為、地味な削り合いとなる。
互いの体力が6割を切ったかという頃、志那にチャンスが訪れる。
プリンスの攻撃を盾で弾いた志那。プリンスは少し体勢を崩し、次の動きへの移行にもたつく。
隙を見逃さなかった志那は穿鋼撃を用意。発動用意完了と同時にプリンスの頭部目がけて穿鋼撃を放つ。
しかしプリンスが左手に握った白い盾で穿鋼撃を弾く。運悪くパリィが発動。体勢を崩したプリンスが土壇場で気合いのパリィ発動か、と思うかもしれないが、これにはからくりがある。
セイクリッドソードの特性の聖剣。この特性によるステータス上昇は攻撃力や防御力といった数値的なステータス上昇に留まらない。
パリィ発動には通常、攻撃到達前後合わせて大体0.25秒以内の防御の入力が必要となる。
しかし、聖剣によるステータス上昇の影響を受けた場合はこれに限らない。
明確な数字はまだ研究されてはいないが、聖剣効果発動時には明らかにパリィ判定となる猶予時間が延びていると言われているのだ。
ハルバードを弾かれた事による一瞬の硬直。攻防が逆転した。
再度仕切り直し。
体を捻って素手でプリンスの頭を打つ。プリンスは盾を構えながらしゃがみ、防御する。
近付きすぎた。接触まで数十センチと距離が無い。重量職の間合いとしては互いに戦いにくい。距離を取る。
ここで次は……。
* * *
喫茶店の中。
店主の柴崎は椅子に座り、自分で煎れたコーヒーを飲みながらカウンターに置かれたディスプレイを見る。
薄暗い中光るディスプレイに映し出されているのは志那とプリンスの試合。
試合中の人間がフレンドである等、いくつか条件を満たせばこういう風にエルオン内の試合を現実で観戦する事が可能となっている。
「志那君、やっぱある程度戦えるんだなぁ。」
コーヒーを啜りながら柴崎は言う。
とはいえまだ粗が多いな。今の動きはもっと短縮できる。うーん、なんだろうな、不思議な感覚だ。
《重騎士ハルバード》構成であれば《白騎士セイクリッドソード》構成に有利が取れる筈。全国大会の志那君の戦い方を見た限り、本来ならもっと良い動きが出来るはずなんだけど。
もしかして夏季大会に合わせて急造で実力を仕上げてきたのか?環境構成相手の戦い方に集中して準備していたから対環境構成戦だった夏季大会は良い動きしていたのかなぁ。もしもそうなら凄いなぁ。
カウンターに肘をつき、リラックスした体勢で柴崎はチラリと長椅子に横たわった志那を見る。
「ここは……へぇ、ふーん。」
長らくやっていないとはいえ、かつてはエルドラドシリーズのゲームにハマっていた人間として、やはり試合に興味が湧いてしまう。
「うーん、でもやっぱ、もったいないなぁ……。」
プリンスと戦う志那を見ながら柴崎は呟いた。
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