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第16話

年末がクソ多忙でした。今年もよろしくお願いします。


 間合いを詰めすぎた。相手の吐く息が感じられる程の距離。重量職同士の戦闘の距離感では無い。この距離でまともに技を食らおう物ならあっさりと決着が付いてしまうだろう。武器も振り回しにくく、戦いにくい事この上ない。



 離れるか?……いや。



 戦いにくいのはプリンスも同じ。むしろこの状況を逆手に取り、超近距離での戦闘を押し付けプリンスのミスを狙う。強気で行こう。



 被ダメージ覚悟。右足に力を込め、勢いを付けてハルバードを振りかぶる。叩き付けるようにして放たれた志那の攻撃はプリンスのセイクリッドソードによって弾かれる。強ガード判定。



 武器でのガード時に武器が静止もしくは飛んできた攻撃と真逆の方向に動いていた場合発生する強ガード。盾ほどではないにしろ受けるダメージを大きく減らす事が出来る手段の一つである。プロなどの上位プレイヤー達の中では必須級の技術ではあるが習得の難易度は高い。



 「さぁ!行きますよ!!」



 プリンスは叫びながら攻撃を放つ。距離を取ろうとする気配は無い。



 乗ってきた!近距離での戦闘にプリンスが合わせてきた。戦いにくい筈なのに距離を取ろうとしないのは己の技術が俺を上回っているという自信があるから。先にミスをするのは俺では無いという自信があるから乗ってきたんだ!



 やっぱりプリンスは強い。


 

 今の攻撃だって刺し違えるように攻撃していてもダメージレース的には問題無かった。それをせずにプリンスが守りに徹したのは、ハルバードという武器の特性、クリティカルによるスタンが発動する可能性を考えたからだ。




 強ガードやパリィで受けた攻撃では状態異常は付与されない。



 「ぬんっ!受けきれますかな!!」



 プリンスはセイクリッドソードを横降りしたのち、身を捻るようにして志那のみぞおちへと柄を打ち込もうとする。



 志那は咄嗟に飛び退き回避する。しかし柄を回し、剣先を伸ばしたプリンスのセイクリッドソードによって腕を切りつけられてしまう。体力が減る。



 試合も佳境。削り削られ、攻防を繰り返した2人の体力は既に残り2割を切っている。



 プリンスの体力が残り2割を切った事により、セイクリッドソードの特性【聖剣】によるステータス上昇が真価を発揮する。



 【聖剣】の効果は残存体力が残り2割を越すとステータス上昇の上限へと達する。



 上限値の効果が発動時、その効果は全ステータス30%up。



 さらに上限値の場合、追加で特殊効果が発動する。それが



 ・全攻撃の発動時間5%短縮

 ・クリティカル率5%上昇

 


 という物。



 先程までステータス上昇値+15%辺りで互角に戦っていた相手が急にステータス30%+状態で攻撃短縮とクリ率上昇をひっさげたスペックお化けになる。



 特に攻撃発動時間短縮。この効果が【聖剣】の特殊効果の中で最も厄介。純粋にプリンスの手数が増える分、志那の旗色は悪くなる。



 互角だった相手が一段階強くなる。間違い無く志那にとって悪夢だった。



 「でもまぁ、やる事は変わらないよね。」



 志那の勝利条件はプリンスの体力を己の体力が0になる前に削りきる事。当然プリンスはその逆。



 頭を使う。全力で考える。次の手を、先を読み最も効率的な手段を取る。



 プリンスの方が手数が多いのであれば、プリンスの二手を一手で処理する。


 

 これは?



 プリンスはそうとでも言いたげな不敵な笑みで志那へと剣を振る。



 こう返す。



 じゃあこれは?



 言葉は介在しないにせよ、二人は剣を、槍を振りながらコミュニケーションを行っていた。



 間違えれば敗北に直結する問答を互いに繰り返し出し合う。



 エルオンの体力は有限。プリンスのステータス上昇を受け、じわじわと志那とプリンスの体力は差が開いていった。



 このまま決定打が打ち込まれる事が無いまま試合が進めば押し切るような形でプリンスが勝利する。



 「これで決まりか。」



 志那はぼそり、と呟く。最後の博打を志那は打つ。



 志那が取った選択は〝完全に守りを捨てた状態での穿鋼撃〟



 プリンスに削られ瀕死も良いところとなった体力では防御しても貫通ダメージでゲームオーバーとなりかねない。



 ならばいっその事守りを捨て、攻撃に全てをかけた動きをして勝ちを狙う。



 プリンスは通常攻撃1発では倒しきれない残存体力を持っている。通常攻撃でちまちま削っても勝ちの目は薄い。


 

 対して既に詰めに来たプリンスは丁寧に通常攻撃で締めを行おうとしている。



 通常攻撃と穿鋼撃。志那の穿鋼撃の方が発動時間を要する為、まともに考えればどう考えてもプリンスの攻撃が志那へと到達する方が早い。



 しかし、エルオンでは特性以外に技の発動時間を短縮する技術が存在する。

 


 それが攻撃動作流用。特定の動きを行い、そこから動作を滑らかに繋げる感覚で動くと攻撃動作流用判定となり、次の動きまでの時間が短縮される。



 今までの戦闘でもちょこちょこ使っていたプチギミックではあるが、条件を揃えればかなりのアドバンテージが得られる。



 納盾動作→振りかぶり判定

 ジャンプ回避→攻撃準備判定

 ハルバード薙ぎ→振りかぶり判定

 踏み込み→不可


 

 視界の左端に高速で現れたログを咄嗟に読む。


 残念ながら踏み込みの動作は攻撃動作流用での判定に出なかった。エルオンにおいての攻撃動作流用への判定基準はまだ明確な基準を見つけるまでに研究がすすんでおらず、この方法は少々ギャンブル性が高い。


 しかし、技発動までにかかる時間はギリギリプリンスの使用する《白騎士セイクリッドソード》構成の通常攻撃時間を下回った。



 1発の穿鋼撃にかける。



 志那のハルバードが光り、エフェクトが発せられる。志那の構え、エフェクトの形状と色からプリンスは即座に志那が穿鋼撃を用意し始めた事を看破する。



 この攻防戦の中、明らかに発動が間に合わない穿鋼撃を用意するのはどう考えても悪手。



 「僕の勝ちだ!志那君!!」



 剣を両手でギチギチと握り、プリンスは勝ち誇りながら通常攻撃を放つ。



 直後、プリンスは違和感に気付く。



 志那の動作が明らかに早い。どう考えても通常の穿鋼撃よりも早い。



 攻撃動作流用か。気付き、プリンスはギリリ、と歯を食いしばる。



 咄嗟に防御へと切り替えようとするが、もう遅い。



 穿鋼撃がプリンスの体へと突き刺さる。衝撃にプリンスは跳ね飛ばされ、体力ゲージが0となる。



 志那の勝利。




 * * * 



 危なかった。



 プリンスが攻防を最後まで丁寧に防御してから切る、という姿勢を崩していなかったら負けていたのは自分だった。



 数分しか着けていない筈であるにもかかわらず、外したヘッドセットはじっとりと汗で湿っている。



 「志那君凄いね~。流石全国大会に出ただけあるよ。」



 横から声がする。



 店長の柴崎さんがカウンターの店員側の位置で足の長い椅子に座りながら志那へと話しかける。



 ズズズ、とコーヒーを啜る柴崎さんの前にはモニター。



 「試合、観戦させてもらってたよ。」 



 暗転したモニターを指差し柴崎さんは言う。



 「あ、はい。」



 直後、横で「ぬあーーっ!!」と大きな声がする。見るとプリンスが汗ぐっしょりで起き上がり、目をかっぴらいていた。悪夢によって目覚めた人の動きと90%くらい一致してる気がする。ちょっと怖いな。



 プリンスは髪を掻き上げ、「負けたよ……。」と呟いた。ちょっとイケメン感を出すな。



 「プリンス君も惜しかったね。最後のは詰めが甘かったよ。いつもあれだけ勝負を急くなって言ってるのに雑に締めに行っちゃったでしょ。」



 「ぬわーーっ!惜しかったです!!」



 プリンスは頭を抱える。



 汗だくだしシャワーを浴びてきな、と柴崎はプリンスの肩をぽんと叩き誘導する。店の奥にはシャワー室もあるらしい。プリンスはずどどどど、というような効果音と共に店の奥へと消えていった。



 「はい、これおまけ。そこのテーブルの砂糖とシロップ自由に使って良いから。」



 柴崎は志那へと大きめのガラスのグラスにアイスコーヒーを注ぎ、渡す。


 

 「あぁ、ありがとうございます。」



 一口飲んでみるが、苦い。やっぱり甘味が欲しいなと机上の砂糖とシロップをいくつか取る。



 「プリンス君はどうだった?」



 柴崎さんは新聞を読みながら志那へと問う。



 「かなり強かったです。構成も言動もネタ味が強いのに、いざ対面してみたら堅実な技術の塊みたいな印象を感じました。細かいところで丁寧にアドバンテージを稼ぎつつ、相手がアドバンテージを得ることはしっかりと妨害する。上手い人の動きでした。」



 志那はコーヒーを啜りながら答える。



 「ふうん、そうか。」



 「何で彼はあんなに強くなったんですか?《白騎士セイクリッドソード》みたいな構成ではなく、他の強構成を使われていたら俺は間違いなく負けてました。」



 「うーん、そうだな――。」



 「プリンス、ただ今帰還致しました!!」



 大声で叫びながら店の奥からパンイチのプリンスが飛び出てくる。

 

 

 「プリンス君、お客さんの前だって。」



 柴崎さんはプリンスを嗜める。



 「何で僕が強いかって?それはね、僕が柴崎さんの一番弟子だからだよ!!」



 プリンスはそう言いながら戦隊物の青色辺りがしてそうなポーズを取る。そういえばさっきも柴崎さんの一番弟子がどうのこうの、って事言ってたな。



 「柴崎さんって強いんですか?」



 志那は問う。



 「さぁ。昔はそこそこだったつもりだけど、今はやってないから分からないかな。」



 柴崎さんはにこりとし、新聞に目を落とす。



 「何を言うのですか!!そこそこなどと謙遜を!貴方は人は7年前頃のエルオンの絶対王者、柴崎選手ですぞ!!」



 「昔の話だよ。」



 思い出した。過去の戦術を勉強した時に出てきた選手の名前、[シバサキ]。確か当時はまだ据え置き型のテレビゲームだったエルドラドシリーズの過去作で圧倒的な実力を持っていた選手。夏季全国大会で解説をしていたはじまリキと同世代のプレイヤーだ。当時は今のリオン選手並みに勢いがあったって聞いている。



 なるほど、元トッププレイヤーに稽古を付けてもらっているという事ならプリンスが強いのは納得が行く。



 「以前たまたま店に来たプリンス君に僕が[シバサキ]だってバレちゃってね。そこから頼まれて色々稽古を付けたりはしてたんだけども。僕はもう最新の環境を追ってもいないし、ランクマッチだってやっていない。そこら辺に居るような中堅プレイヤーだよ。」



 柴崎さんはそう言うが、それはあり得ない。プリンスに現行のエルオンでも通用するあれだけの技術を叩き込めるのは柴崎さんが今も圧倒的に強いからだ。


 

 もしも、柴崎さんにコーチングしてもらえたなら俺はもっと強くなれる。秋大会でリオン選手を倒せるかもしれない。




 「柴崎さん。月2万円までなら何とか払えます。俺に、エルオンを教えてくれませんか。」

 

 


「面白い。」「続き読みたい。」等思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をお願いします! モチベーションに直結します。優しい方、是非。

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