9.今日も平和だな!?
第9話投稿です!
自然な流れになるように少し編集させて頂きました。
物語の筋は変わって無いです。
王都アンシア・中央区。
……住人たちは今日も穏やかな朝を迎えようとしていた。
夜の冷え込みによって街並みはたなびく朝靄に煙っている……。
夜の闇に咲くかの様な華やかな夜は終わりを告げ、次々と酒場の灯りが消えてゆく。
爽やかな朝の空気、豊かな地下水によって育まれる大草原地帯。盆地に位置する街にも関わらず、その草原に溜め込まれた豊富な水量が夏場の真っ盛りである今でも爽やかな気候を作り出すのだ。
今日も涼風が草原と街壁を超えて吹き込んでいる。
爽やかな一日が始まる……そんな予感に寝床から起き出した住人が身を震わせた。
まさにそんな時。
その叫び声は町全体に響いたのだった。
オオナキドリの断末魔の叫びの如く、あまりに悲痛で、誰にも救いようが無い絶望に満ちていた。それは、聞く者の身を割くような魂の叫びだった。
「っっんな、ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」
そして、叫んでいたのはオレだった。
朝早くに、やっと辿り着いたギルドの受付。昨日は希望に満ち溢れていたハズの場所で……オレの召喚勇者として輝かしい人生が始まるハズだった場所で……オレは残酷な世界の真実を知ってしまった。
「うわあああああああああん!!! オレはなれないって!!? オレがなれないって!! つまりどういうことだよっ(泣)!!!?」
……住人達は風に乗って届いた叫びに一瞬耳を澄ましたが……それ以上は何をするでもなく、すぐに一日の準備を再開した。
ある者は自分の店先を掃除し始め、またある者は対魔物用の装備に身を固め、そして別の者はグイッと最後のグラスを煽って酒場を後にした。
確かに、一人の少年は世の不条理と残酷な真実に悶え、苦しんではいた。
だが、街は今朝も平和な静けさに包まれていたのだった。
*****
そして、この場所にも、他人が知る由も無い平和とは程遠い雰囲気が流れていた。
「な、なぁ、セリシア? オレは別に遊んでたわけじゃ……。……あっ! ほら、お前の後ろに大きな蜘蛛がっ!!」
頑丈そうなイスに縛られた屈強な大男は必死の逃亡を試みている最中だった。
「あっ! お前の頭に乗っかろうとしてるぞ!!」
そのお粗末さは、今時小学生でも言わないだろうというレベルだ。
現に、セリシアと呼ばれた女騎士は視線を決してガドルから外さない。
「ガドル!! 私の意識を逸らそうとしたって無駄です! 今度こそは逃がしませんよ!」
ガドルにとって、イス自体を壊してしまうのは訳無い事だ。
だが、その後どんな目に逢うか、それが分からない程バカでは無かった。
一瞬でも彼女の注意を逸らせれば脱走も可能なのだが……。
そもそもガドルは、要人警護の任務を受けている、と(副団長ではなく部下に)適当な言い訳をして炎龍狩りを行っていたのだ。
しかし、昨日は本当に受けていた要人警護をすっぽかして炎龍退治に行ってしまい。
そして、そのせいでセリシアは多大な迷惑を被った。
バカである事この上無い。
セリシアに今日の事を問い詰められの第一声は「あ、忘れてた」だった。
という訳で。一晩中、『責任感が無い』、『自己管理が疎か』、といったまともな指摘から始まり、『頭まで筋肉で出来ている』だの『肝心な時にいないアホ』だの『クズみたいなバカ』だの単なる罵倒に近い言葉まで浴びせられ続け……憔悴しきっていた。
ハッキリ言って、自業自得も甚だしい
若干二十歳の平民出の一歩兵でありながら、飛び抜けた戦闘技術と統率力で、歴史あるアンシオン騎士団の団長に就任し、三十歳を超えた今では、国中どころか他国にも噂は広がり、歴代騎士長の中で最強の呼び声も高い。
そして、『豪雄ガドル』、『王斧ガドル』、『アンシアの守護騎士』、『戦王』……ついた渾名は数知れない。
……そんな漢の中の漢・ガドルは今。
自分の部下である筈の騎士団副団長セリシアに……たった十五歳になったばかりの少女に、すっかり恒例となってしまった御説教を受けていた。
昨夜門番だったオーギュストから聞いた話を本人に言うべきでは無かったかもしれない、とガドルは今更過ぎる後悔をしていた。
……まさか徹夜して説教になるとは誰が想像する?
だが、これも自業自得である。
いつもの威勢も何処へやら、すっかり老け込み、ショボくれてしまっている。
だが、王城の地下一階に位置するこの部屋にいながら異世界に降り立ったばかりの少年の悲痛な叫びを聞いたガドルは、確かに、超が付く超人である。
民を守るのは騎士の役目、日頃からその教えが身体に沁みついているガドルは、憔悴しきって朦朧としながらも反射的に動いていた。
目に生気が戻り、全身の筋肉に力が戻る。
「あ、そこら辺に魔物が!!」
そう一声残し、
拘束されていた椅子を粉々に粉砕し、立ち上がり、部屋のドアにタックルした。その一連の動作を行って、掛かった時間は僅か0.05秒。
常人の眼では消えて見える程の速さで一瞬で部屋のドアまで到達したのだが……。
ギュギッ
副団長の方が速かった。
ガドルの見え見えなフェイントを意にも介さず、革製の軍靴を軋ませ、姿が掻き消える。
そして、まさにドアを破って部屋の外に出ようとしていた団長の襟首を掴み、自分の勢いとガドルの勢いの両方を利用した滑らかな動きで反対の壁まで吹き飛ばした。
完璧な動きで為された技は力を受け流すと同時に相手の勢いを倍加させて吹き飛ばすカウンターだった。
ところで。
……騎士団の団長は全騎士の中から選ばれる選抜制だが、副団長は違うという事を覚えておいて欲しい。
アンシオン騎士団副団長とは王の血族、フィースフォルド家の子女の中から世襲される称号。
その権威はの爵位に等しい。
アンシオン騎士団副団長・セリシア・フィースフォルド。十五歳。最年少で入団した若き女騎士。
身体にピッタリと設えられた魔物の骨製から作られた白い鎧、長く伸ばした亜麻色の髪は高位の貴族、つまり『お嬢様』である彼女の身分を象徴する為の物であり重い上に戦闘時には邪魔になりやすい。だが、彼女程の騎士になれば弱点とはなり得ない。
なぜなら、幼い頃から騎士となるべく英才教育を受けた彼女は、ガドルと並ぶ体術の使い手なのだ。
特に『柔』の体技はガドルを軽く上回る。
ガドルは猛スピードで王城を支える頑丈な石壁に激突、重い振動と共に莫大な量の土埃が舞った。
王都地下一階を震源とした地震は王城全体が微かに揺れる程だった……常人は弾け飛んで即死する勢いである。
流石の英雄もここで終わりか、と思いきや、ガドルは半分壁にめり込んだまま、鼾を掻き始めた。
セリシアもガドルの強さを相当に……上位の魔物以上に見積もって扱っている。流石の騎士長も気絶するだろうと想定していたのだが、ガドルもそれら全てを上回って行くのだ。
「今日の所はここまでかしら……私も……ふぁ……眠いですし」
だが、団長の超人振りはいつもの事なので、あまり驚く事も無くセリシアは眠りこけてしまった団長から踵を返した。
鎧に付着した土埃を軽くはたいて地下室を出ると、尋常では無い物音と振動を聞きつけた王城の衛兵達が集まって来ている。
だが、セリシアの姿を目にした瞬間、いそいそと、急いで持ち場に帰っていった。
いつも機嫌が悪いと専ら評判の名物副団長である。どんな難癖をつけられるか分かったもんでは無い……。まことしやかにそんな噂が囁かれているのだ仕方がないことだ。
実はこの噂こそが、普通の少女として見てもらいたいセリシアの機嫌を損ねていたりもするのだが……それはまた別の話だ。
「さて。仮眠を取ったら見回りをしなければいけませんし……うぅ……徹夜なんてするもんじゃありませんね……いったい、どうすれば団長は……凝りてくれるのでしょうか…・・」
苦労者の女騎士は一度大きな伸びをした。
「でも、あの方が魔物退治をする限り…………世界は平和ですわぁ……ふわぁ……」
*****
朝靄は昼の明るい日差しにとけ去り、街並みは夜とは違った輝きに満ちていた……生命の輝き、溢れ出る活気に、石畳も街並みも内側から輝いている様だ。
そんな街並みの一角、石段の上に少年が座っている。
長旅の後の様に服はくたびれ、砂埃で薄汚れ、あちこちが解れている……そして何より、目が座っている。
死んだ魚の様に虚ろな目は、過ぎ去って行く人々を鏡の様に映しているが……実際、彼は何も見ていなかった。実際、生き生きと活気溢れる町の中で、その場所だけ空気が淀んでいる
人間も、人間以外の種族も視線に気付き、ちらりと一瞥したきり、目を背けて去ってゆく。少し前まで希望に溢れていた少年はそれほどまでに魂が抜け切っていた。
なぜなら、少年はこの世界の残酷な真実をついに知ったのだ。
そして、時間は数時間前まで遡る。
「なんで、なんでオレが魔法使いになれないんだよぉ(泣)!?」
……大声自慢大会で優勝できるレベルの叫びでギルドの施設全体を揺るがした少年は、耳を塞いだままのギルドのスタッフ(男性)に泣きながら、しかも必死の表情で詰め寄った。
この話だけ書き方が全然違う、と言われそうですね……。
理由は分からないんですが、三人称だと上手くかける事が判明いたしました。
今後も必要に応じて使ってこうかなぁ……と。
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m(_ _)m




