10.後悔と妄想終了(泣)
記念すべき第10話ですっ!
といっても、『今回はぴったり4000字なんだぜ?』としか自慢し所が無いっす。
これからも頑張ります!
「ここが冒険者ギルドか……」
数時間前、少年は一晩歩き続け、今朝、ようやくギルドの施設に辿り着いた。道には何度も迷った。地図もコンパスも無いし、そもそも施設がドコにあるのかも分からなかったからだ。
実は、この街の夜の顔、華やかな賑わいの中には少し危険な闇が潜んでいる。
小型の魔物は容易に防壁を登ることが出来る。それらモンスターが活発化するのが夜だ。この街の騎士団によれば、毎年数十人の旅人や流れてきた余所者、つまり、この街で気を抜いた人々が消息を絶っている。
炎龍の牙を持った旅人が他の魔物を畏れさせるのは単なる噂では無い。しかし、ゴロツキもうろついている夜の街を通り、少年がここまで何一つ失わずに辿り着けたのは彼の運、もしくは単なる偶然だ。
「長かったな……もう足が限界だ……」
客かと間違われながらも、ちょっと露出の多い女性たちに道を尋ねる事十三回。知らない人に道を尋ねるなんてこれまでやった事が無かった。だが、割と出来る事が判明し、日本でのダメダメだったオレから変わったようで嬉しい。
そして、西区からの長い道程もやっとここまでだ。
大きな石でしっかりと組み上げられた大きな建物だ。他の建物と違い、周囲の建物と繋がる事無く、広場の一角に佇んでいる。いかにも歴史があって古そうな建物だ。
オレは服の下に隠した炎龍の牙を握りなおした。こうして服越しに伝わってくる硬質な感触が勇気をくれる気がする……。
そして、オレはギルドの扉をゆっくりと開けた。中は広いロビーになっていて数百人が入れそうだ。だが、まだ朝も早いせいか誰もいない……。
オレは辺りを見回しながらゆっくりと奥に進んだ。中は茶色と赤の石で統一されている。堂々としていて威圧感があり、神聖さすら感じてしまった。
よく磨かれた茶色い石で出来た床、立ち並ぶ石柱、そして、天井から帯になって差した日光が空中の埃を金色に浮き上がらせている。
「厳つい冒険者がひしめくような酒場みたいなのを想像してたけど……なんか、違うな……」
朝の光に包まれた広大な空間を歩いて行くと奥に、木で出来たカウンターが見えた。まだ新しいのかも知れず、ピカピカと光っている。
その後ろ、蝋燭が灯った薄闇の中で何人もの人が忙しそうに働いている。
「あの、すいません……ここは冒険者ギルドであってますか?」
オレは板で仕切られたカウンターの内の一つに近付いた。目の前では痩せた男性が猛烈な勢いで一冊の分厚い本に何かを書き込んでいる。
だが、オレの視線に気付いたのか手を止めた。神経質そうな目がこちらを向く。
「そうだ。ここはユニオンの受付だ。何か用かね? もし物乞いなら速やかに立ち去りたまえ、仕事の邪魔だ」
男は無表情にそう言うと視線を再び紙面に戻した。
いきなり物乞いに間違われるなんて……こっちに来てからまだ一日だ、そんなに酷いハズは……だが、オレは自分の格好を見て気付いた。
日本で付けたワックスは殆ど無くなっているが、髪はボサボサに乱れている。その上、秋物のズボンは裾と膝の部分が所々擦りきれて破れ、Tシャツも土と汗と埃で薄汚れている。確かにひどい有り様だ。自分では分からないが臭いもしているのかもしれない。
これまで何で気付かなかったんだろう? 物乞いに間違えられたのはとても不本意だったが、オレは気を取り直して説明することにした。
「オレは物乞いじゃないです。オレは向井ケント、昨日、西区についたばかりの召喚勇者なんすけど……職業登録はココで合ってますか?」
「昨日来たばかりの召喚勇者か……今時珍しいな……」
再び男が顔を上げた。
相変わらずの無表情だが、落ち窪んで隈の出来た目に、今度は好奇の光が灯っている。
正面からよく見ると、なんだかオレが嫌いな高校の数学の教師に似ている。今さっきはいきなり物乞い呼ばわりされたし、オレは少しこの人のことを苦手になった。
「確かに、技能登録は……召喚勇者はジョブと呼ぶモノは此処で可能だ。ああ、加えて一つ訂正だ。この場所は討伐者連合。魔物討伐に関する総合的なサービスを斡旋する場所だ。各種、同業者組合の集合体に当たる。我々はユニオンの仕事を行いつつギルドの仕事も処理するので混乱する。紛らわしいので以後間違えないように。尚、私は商人ギルドの係員なので、商業関係に関してはギルドと言うように。そして----」
いちいち細かいなぁ……。
こうしてオレが考えている間もまだまだ話は続く。この人、説明している間も無表情だし、噛まないし、早口だし……本当はロボットなんじゃないか?
人間かどうかは置いといて、多分この人はオレが苦手なタイプの人だ……。
「----それと、これは多い質問なのだが……先に言っておくと、君は魔法使いにはなれない。これは重要な点であり、この世界の成り立ちに起因している為……」
長々と続く説明の中、何となく嫌な言葉を聞いた気がした。オレは慌てて話を遮る。
「あの、すいません。今の----」
「世界の成り立ちに関わっている。と言ったが?」
ユニオンのスタッフはオレの言いたい事を予知したかの様に答えた。だが、聞きたいのはそこでは無かった。
「えっとその前っすかね?」
「君は魔法使いにはなれない。と言ったが?」
その言葉を改めて聞いて、そして理解してオレの意識は一瞬遠退いた。
つまり……え? どういう事だ? オレは魔法使いになりたい、なんて一言も言ってないぞ!?
それなのに、まるでそれが最低限の前提みたいに言われたぞ!? 魔力の計測とか、才能を確認するとか何もないのかよ! コイツがやった事なんてオレの外見を観察しただけだぜ?
ま、まさか嫌がらせか!? な、なんて悪質なんだ!!
「そんな訳がな----」
「そんな訳が無い、と? ありきたりな質問だな。何故、召喚勇者というのはこぞって魔法を使おうとするのか……理解に苦しまざるを得ない。」
ったく! なんでコイツは言葉を被せてくるんだ!! イライラするなっ!!!
何かオレに恨みでもあんのかよ!
「なあっ、おっさん!」
オレは思わず叫んだが……再び説明モードに入ってしまったこの男の集中を乱すことは無かった。
「まず異世界の方々は魔法という物の本質を理解していない。この場所を訪れる勇者候補達は、魔法のことをまるで誰でも使える便利な技能の様に言う……ですが、違う。魔法で何でも出来る? 万能の解決策? 否、断じて違うのです。魔法はこの世界に干渉し事象を書き換える術。神の御業に等しいのです。無から有を生み出し、万里を塵に変える。そして、勿論何者も、真の意味で魔法を使う事は出来ないのです。まず、貴方はここまでは理解しなければならない。」
なんだか何を説明されているのかサッパリな上、早口で捲し立てられて全く頭に入らない。
だが、この男の異常にギラギラと輝く眼球に、無言の圧力、『黙って聞け』というプレッシャーを感じ……オレは曖昧に頷いた。
「つまり、改変する対象であるこの世界の事を完全に知り尽くしていないと魔法は成立しないのです。我々が如何なる道具を駆使しても知ることの出来ない部分まで完璧に、という事です。これまでこの世界が辿った歴史、産まれた全ての生命などの、この世界に住んでいる我々が知ることが出来る事ができる訳が無い事柄を知ると云う事なのです。」
男はそこで言葉を区切り、息を吐いた。その顔には気怠げな表情が浮かんでいる。
そして続ける。
「ですが……魔法という共通の概念が広く存在している。何故だと思う?」
いきなりそんな事を聞かれた。
え? そりゃ、日本にも魔法は無いけどアニメとか漫画ではお馴染みの設定だったりするし……?
オレが答えを言う前に彼は続けた。
「何故なら、正真正銘の魔法使いが確かに存在するからなのです。確かに、この世界に魔法を使える者はいない。だが、異世界からの勇者候補は違う。稀に、彼らの中にこの世界に来る時に、美しい虹を見たと主張する者がいる。彼等は、虹彩に本物の虹を写す彼等だけが魔法を使い、世界を書き換える事が出来るのです。君が魔法使いになれない理由、これで納得いただけただろうか?」
魔法使いになる資格はこの世界に来る時に美しい虹を見た事……。たったそれだけなのか? 眼さえ
で、オレはこっちに来る時に目を開けていただろうか……?
いや、閉じていた。白い光に呑まれてからは気絶したままだった。
つまり……目を開けてさえいればオレは魔法使いになれたかもしれない?
「うっそだろぉ!!? まじかよ!! オレは千載一遇のチャンスを逃したってのかぁ!!!?」
段々と状況が呑み込めてきた。
この世界の残酷な真実をついにオレは理解したのだ。
「まぁ、可能性の話です。譬え貴方が虹を見た所で魔法使いの素質があるかはわかりませんがね……」
男がボソリと呟いた言葉はオレには届かなかった。
そして。
悲しみ、後悔、絶望、怒り、苛立ち………全て感情を乗せて、つまりはオレの全身全霊をもってオレは叫んだ。
「っっんな、ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!??」
……そして、異世界に降り立った少年・向井ケントが『魔法使いになる』という希望を失うまで、そう長くは掛からなかったのだった。
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m(_ _)m




