52.精霊とか、実際いても役に立たなかった
おおむね予定通り!?
サラマンダーのイメージとしては、掌に収まる程度の小動物(哺乳類)。白くてふわふわです。リスに似てる?
夜遅く、といっても時間的には夜の九時頃。日没と共にナーシャもアルトも寝てしまった後、サラマンダーは帰ってきた。
『ガドル……というのは我を倒した英雄の名、間違いは無いな?』
「ああ、そうさ。そのガドルだ」
そして帰って来るなり、部屋でこの世界の文字を勉強しながらウトウトしていたオレを叩き起こし、今日あった事を話させたのである。
『そうかそうか! なんと面白い! あの誠に実直な英雄がそのような事を企てるとは……実に、興味が尽きないなこの世界の生き物は!』
今、サラマンダーはオレの話を聞き終わり、満足気に毛並みを整えている。
「サラマンダー……悪いんだけどさ。オレにとっちゃ面白くもなんとも無いんだよ。マジでさ、なんでガドルの奴、よりによってオレに話すかなぁ……」
そうぼやくオレに、サラマンダーは金色の目を細めた。
『汝が悩む必要は無かろうに。ケント、汝はガドル・ルスオールが英雄らしくない……自分の理想と異なるとて勝手に悩んでいるようだが……奴の行動には筋が通っておるのだぞ?』
「……それは、そうかもしれないけど……」
――でも、納得は出来ない。
す考えたオレの思考を読んだらしいサラマンダーは尚も続けた。今や、完全に上機嫌で、尻尾を揺らしながら歩き回る様は、まるで……授業で、壇上を歩き回る先生のようだ。
『奴の信条は『民を守る事』だったはず。それ故に……一か月以上前に我が西区に現れ、多くの住民が避難せざるを得なかった状況を打破せんとした。西区はこの国に於いて最も大きな商業路。それが断たれ、物価は高騰。商人を始めとする民は王に強い不満を持っている。今や復興しつつある西区に於いても、主な資金は王城ではなくユニオンから出資されており、民が不満を『何もせぬ王』、『民を想わぬ王』に向ける事は必定。そして彼の者が民の意思を汲み、常に民衆の味方であろうとするのも至極『当然』、と、汝なら理解できるであろう? 違うか、ケントよ?』
サラマンダーはオレを真っすぐに見つめた。答えを待っている。
答える気になれなかった。
オレは前ほどガドルの事を知っている気にはなれなかったのだ。あいつにとって何が『当然』なのか、そうでないのか……。
心を見抜く金色の瞳からオレは目を逸らした。
「……お前、なんか超詳しいんだな? もしかして、今日一日街をみまわっていたのかよ……」
『そうだ。人間の都は久しい故、物見遊山を兼ねて、我が及ぼした影響の確認しようと、な』
ついに答える事の出来なかったオレが変えた話題に、やはり、サラマンダーはさも興味も無さそうに答えた。
「確認、か……お前にとっちゃ、全ては他人行儀で、『面白い事』なんだな……」
意識せず少し険のある声になってしまった。サラマンダーは煩わし気に、片耳を伏せる。
『落ち着け、ケント。汝はこの頃、我の事を小さくてふわふわな毛玉とも思っておるようだが……この姿は人を欺く為の仮の姿。我は世界を統べる精霊なのだ。須らく、偉大なる者は常に自らが与える影響を考慮するものだ。特に小さき者は面白い。常に汝らは我らの想像を超えてきた。予見するなどもっての外だ。なぜなら……人心は揺るぎやすく、しかし、時に我らを砕くほどに強固であり、人間では無い我にとっては人間の起こす行動は結論の飛躍としか思えない事も多々ある。だからこそ、非常に面白いのだ。英雄が起こす革命も……魔剣鍛冶師が加わるのかどうか、も……な?』
この件は非常にこれからが楽しみだ、と言い残し、クルリと尻尾を向け、横になった。これ以上語る言葉は無い、とでも言うつもりなのだろう。
「楽しみ……って、お前になら相談できると思ったオレがバカだった」
『精霊を相談相手とする汝は確かに阿呆である。我らは何もせず、ただ、挑む者に応じるのみ。魔剣鍛冶師と為り得る汝に興味は尽きぬが……答えは汝が自ら考えて出す物でなければならぬ。故に我は…………寝る』
「え? お、おい?」
サラマンダーはオレが広げていた本の上で尻尾を抱えてと丸くなった。
「(マジで寝ちまったのかよ……)」
何かしらの反応があるか、と……『人畜無害な真ん丸毛玉』……なんて事を考えてみても、どうやら噛みつかれる気配は無い。本当に寝てしまったらしい。
この国の夜が更けるのは早く、虫の声すらしない静寂がオレをすっぽりと包み込んだ。
「(久々に勉強して疲れたし……オレも寝るか……)」
ガドルの革命に参加するのか……それはオレにとってはガドルが何故革命なんて思い切った事をしようとしたのか、という疑問だった。
ガドルはスーパーヒーローそのもので、憧れ……。あいつは後先考えないバカで、時々何でそんな事をするのかも意味不明で……でも、頼れる大人だった。
まだ会って一か月も経っていないのにこんな事を言えるのはおかしいが……オレの中の英雄像が保たれるなら、オレはガドルに力を貸す事だって厭わない。それが革命なんて物であっても。
「(この国の民を考えたら……革命を起こすのは正当な理由なのか……? 王様は本当に何もしていないんだろうか……? それに……)」
オレは思い出した。サラマンダーは西区で、『魔法使いに気を付けろ』と言い、そのあと直ぐ、魔法使いの一人と思しき角のある女性からもやはり同じ事を言われたのだ。
あの時は魔法使いが何かを企んでいるからといって異世界人であるオレは結局関係ないと思った。魔法使いの事どころか、サラマンダーの言葉さえも忘れていたのは今が充実していたからだ。
「五年も国交が途絶えていた魔法使い達の国……それでも、この国で革命が起こったら……魔法使い達はガドルを止めようとするのだろうか……?」
未だに二人の魔法使いが城に滞在しているという噂や目撃談は討伐者達の噂に多い、とナーシャが教えてくれた。それでも何の動きが無いのは不気味だ。
なんだか全てが疑わしい。そもそも『革命』という言葉自他、あの脳筋ガドルの口から出るにしては違和感がある気がしてきた。
「『西区開放の象徴』?? ガドルは自分の意志で革命を起こそうとしてるのか? 利用されているだけ?」
じゃあ、いったい誰がこの国のリーダーになろうとしてる? 魔法使い? オレをアゾラに襲わせたフードの男? それとも……ガドル自身が下剋上をしたいのか……。
ああ、くそっ……考える事が多すぎる。
これ以上考えるには眠気で霧のかかった頭には荷が重いようだった。
……また明日考えればいいだろう。
それにしてもなんだか……この頃、考える事をずっと後回しにしている気がする。日本では決して無かった事だが……それが悪いのかどうか……
「まぁ、いいや…………おやすみ、サラマンダー……」
*****
「さぁ、爽やかなる朝だ、ケントくんっ!! 今日こそいよいよ始まるのだ! 君の伝説がっ!!」
「うぅ……朝からハイテンションですね、アルトさん……」
朝だ。
屋根裏に設えられた狭いながらも居心地の良い一室。
風を取り込むための窓からは明るい日差しが差し込み、カーテンは爽やかな水気を帯びた風に揺れている。
爽やかな気分で始まるはずだったオレの一日、それはしかし……朝っぱらから響き渡ったアルトのバリトンに……今、消し飛ばされた。
「今朝、魔剣の材料が完全に揃ったのだ!! これが熱くならないで居られるかね、ケントくんっ!? かつて神匠ギルムが残した六本の偉物! 長く、誰も届き得なかった魔剣を、今日っ! 我々は、いや、君は作り上げるのだよっっ!!」
朝っぱらから『伝説が始まるのだっ!』なんて言われても当然いまいち頭に入ってこない訳で、オレはアルトの声に揺さぶられるように頷くことしか出来なかった。
「ふむ。まだ寝起きでぼんやりとしているようだね。実の所、私はナーシャに頼まれて君を起こしに来ただけに過ぎないのだよ。朝御飯が出来たようだ。私は先に頂いてしまったが、店を出せても良いほどの出来だったと思う……まぁ、流石にそれは親バカかもしれんが。……さぁ、早く起きてくると良い。冷めてしまうからね」
「……いま、おき、ます……」
机の上を見ると、昨日文字の勉強に使っていた本が開いたままに置かれている。
――サラマンダーは既にどこかに行っているらしい。
昨日交わした会話が頭をよぎった。
『魔剣鍛冶師』、それは、オレが想像している以上に意味があり、影響力の高い事のようだった。
「(オレが魔剣鍛冶師になること……それすらも……平和じゃいられないのか……)」
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今回も短めでしたね。次回は今週の水曜(9/4)の午前11時あたりにだします。
➡すいません! 執筆間に合わなかったので活動報告にも出したのですが、次話投稿を「今週土曜日の午前11時」に変更させていただきます。




