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51.悩みは話せない

予定通りに投稿!

短いけど……


「ケント君! いったいどこに行ってたんですかっ!!」


「ご、ごめん……ナーシャ……」


ナーシャは玄関の前でオレの事を待っていた。


「どうして何も言っていくれなかったんですか!? ケント君が理由もなくいなくなるなんて考えられなかったですし……私、ほんとうに心配だったんですよっ!! もしかして……異世界に戻っちゃったかとも思っちゃいました……」


荷物は扉の前に置かれていて、どうやら無事だったらしい。ナーシャが怒っているのはオレが居なくなったからのようだ。

真摯に全て説明したいが……。


「わわ! なんですか、そのべとべと!? 大丈夫ですか!?」


オレが良い言い訳を探していると、ナーシャはオレの足に気付いて目を丸くした。

日の下で見ると、明らかに毒々しいオレンジの混じった苔緑色の液体が通りを横断して糸を引いている。道理で歩き辛かった筈だ。自分がナメクジになったように感じてしまった。


「あー……、アゾラを間違って踏んじまったんだよ」


「アゾラを? それだけでそんなになりますか? それに……」


実際は踏んだというか、脛まで足を突っ込んだのだが……そこら辺の経緯は長くなりそうだったし、フードの男を追いかけた理由も聞かれそうだったので、そこは色々適当にごまかす事に決めた。


「いや、実はさ、ナーシャが家の中に入った後、凄い勢いでオレが見張ってた荷物から物をスった男がいて、そいつを追いかけて路地裏に……そこでちょっと、死んだアゾラを踏ませられて……ほら、トリモチ的な!? あ、でもちゃんと追いついて、盗られた物は取り返したからさ」


オレは手に持っていた、白く長細い骨のような物をナーシャに手渡した。

しっかし、色々苦しい言い訳だ。

もしこの話が本当だったらオレは大馬鹿である。この骨をスった奴は陽動である可能性が高い。ナーシャがすぐに出て来なければ、今頃荷物は丸ごと消えていただろう…………まぁ、フードの男が物盗りの陽動だったかはともかく、オレが荷物を放り出したのは同じなのだが……。

やはり、ガドルのバカが影響しつつあるのだ。


「それにしても! お買い物を見張ってて、って言ったら居なくなっちゃうし、帰ってきたと思ったらベトベトですし、変ですよ、ケント君? それに……ほんとに顔色があまりよくないです……」


ナーシャは、やはり訝し気に眉をひそめた。


「そ、そりゃあ、アゾラを踏んずければ誰だってこんなもんだよ、ナーシャ! 別になにもないって」


オレはそう言って後悔した。

ナーシャはオレの言葉の違和感に気が付いたようだったからだ。


「別になにもない……ですか……ケント君。ワタシ、ケントさんは自分で悩んでることを外に出すタイプの一じゃないと思ってるんです。だから、やっぱり何か隠し事、あります、よね? ワタシ、わかります」


石段を二段降りるナーシャ。同じ目線で向かい合う形になった彼女は、急に、ふらりと倒れこむように顔を近づけた。


「な、ナーシャ!?」


息が掛かるような間近の距離、女子が苦手なオレとしては認めたくないが、彼女の胸のふくらみがギリギリ当たらない程度の距離。

果たして石段を降りようかどうしようか迷い、しかし、混乱して判断が着かないオレを置いて、ナーシャは続けた。


「ほんとうに、悩みごとでも何でも、相談してください……ちからになれるか分からないですけど……でも……今、ワタシはケント君の事を…………家族だと思っているんですから……」


ナーシャの瞳が一瞬揺れた気がした。

いつもと違う少し寂し気なその表情と、幽かな花のような香りに、オレの心臓はドキリ、と大きく脈打った。


「ほんとですから……悩んでること、いつでも話してください……一生懸命ききますから!」


「あ、ああ。ありがとう……でも、本当に大丈夫なんだ、ほんと」


彼女は不意に顔を離し、石段を駆け上がった。


「よし! 顔色も元に戻りましたし! ばっちり、ワタシはケント君を元気づけられましたね!!」


振り返ったナーシャは何時も元気で明るいナーシャだ。


「今、足を洗う水と桶を持ってきます! …荷物を見ていてくれると嬉しいです。今度は居なくならないで下さいね……?」


そう言ってナーシャは半開きになった扉の中に消えていった。


「な、何だったんだ……?」


『家族』と言われたのは正直にとても嬉しかった。

だが……オレは、これまで年下とはいえ可愛い女の子と一つ屋根の下で生活していたのだ……という、その事実を思い出させる出来事だった。まだ鼓動は弱まらず、ドキドキと脈動している。


「い、いや、そんな事考えちゃ駄目だ。また日本の時みたいに女子恐怖症候群が発現しちまう……よーし、落ち着け~オレ~~……」


深呼吸を五回。六回目で過呼吸気味になり苦しくなって止めた。

でもちょっとした仕草でこんなに胸をかき乱すなんて女子って怖い。

でも、それはオレの事を思ってだったのだ。


「(オレ、よっぽど深刻な顔、してたのかな……ナーシャなりにオレの意識を逸らそうとしたんだ、きっとそうだな! つまり、今のナーシャはノーカンで行こうっ!! よしよし、明るくな!)」


オレは気合を入れ、石段を駆け上ると、荷物の入った植木鉢に手を掛けた。

しかし、どうしても考えてしまう。

……ナーシャ、ごめんな。

でも、ガドルの事だけは話せないんだ。

それに今回のような事がこれからもあるとしたら……ナーシャやアルトを、オレを家族と呼んでくれる彼らを巻き込むわけには行かない。


「(暗くなる必要は無い。でも、覚悟は必要だな)」


オレはもう異世界人・向井ケントではなく、魔剣鍛冶師見習いのケントとしての決断を迫られてる。シェトの『オレが魔剣鍛冶師になる事全てが問題なのだ』という発言も気になる所だ。


「サラマンダー……いつ帰ってくんだよ……」


あ~あ、精霊みたいに人の心を全部読めたらな……苦労したり悩んだりしないのにさ……。




次回更新はまた来週の日曜、午前11時を予定しています! お楽しみに!?

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