37.魔法使い達
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「……この程度の人数で俺を止められると思うか……?」
重心を落とし、獣の様にいつでも動ける体勢にあるガドルが唸った。
その背中から膨大な闘気が涌き出る。傍に立っていて肌で感じられる程の熱がガドルから発せられているのだ。
人にとってはサラマンダーが発するものに勝るとも劣らない凄まじい威圧感であるはず、それでいて相対している老人は顔色一つ変えない……少なくとも、星の光に照らされている部分はピクリとも動かなかった。
「そう睨みなさるな……精霊を弑した蛮勇の者となれば、歴史に先例無き事例故に我々も最低限の警戒はさせて頂く必要があったのです。……しかし、それは無用で御座いましたな。どうやら人間であるようだ、貴方は。失礼致した」
老人は再び、オレ達に向かって深々と頭を下げた。自身が無防備、無抵抗であることを示すポーズ。しかし、其れだけに留まらず、それと同時に崖の上の人影達が影も形もなく消滅した。
「あれは只の幻、蜃気楼にございます。私と上にて待機するもう一人……それで全員。我らがテトラトの盟友国であるギルム王国にあまりに大人数で押し掛ける訳にはいきませんからな」
「同盟国、か。ここ数年連絡はおろか通商すら途絶えていたはずだが……どうして急に使者を?」
どのタイミングで抜いたのか、抜刀していた短剣をガドルが腰の鞘に戻した。
ガドルの動きに老人の目が僅かに動いたが、その感情の伺えない社交的な笑みを崩さなかった。
「なぁに、言葉の通りでございます。我々はただの使節。この度、精霊の復活による王国の危機を聞き付けた我らが王が、その現状を処理する事を命じたのでございます。本来なら大通り沿いに中央区まで抜けるつもりでございましたが……道中、連れがサラマンダーを一目見たいと言いましてな……」
『地中に潜っていて見ることは出来ない、と何度も言ったのですが、彼女は強情でして』と老人は冗談めかして剽軽に顔をしかめながら付け加える。
「……そうして西区に来たところ、貴方がこの竜を倒す場面に偶然にも遭遇したのです。まさか、炎の化身をたった二太刀で切り伏せるとは、いやはや見事なモノでしたな。なにせ、精霊殺しは遥か魔王戦争の折を最後に記録がありませぬ。伝説をこの目で見る事叶うとは……実に良い物を見させて頂きました」
そう言って、背後に堆く積み上がった白い残骸をステッキで指し示した。
「これは使節としては言ってはならぬ事なのですが……我らも任務が無くなって内心ホッとしております。おおっとこれは心の声ですぞ? どうかご内密に――」
老人は人好きの良い笑みを浮かべている。ガドルも最初の警戒がウソのように打ち解けているように見える。
だが、オレは騙されない。
「そんなの嘘に決まってる! サラマンダーを操っていたのは――!」
数年間も国交が絶えて久しい国の使節が今、このタイミングで偶然ここに立ち寄ったというあり得ない一致。それに、明らかに狸爺らしさが漂う笑み……嘘をついている事を確信したオレは声をあげた。
「なんで止めるんだ! このジイサンは魔法使いだ。つまり、コイツがサラマンダーを……」
しかし、ガドルに止められてしまった。
「それ以上は止めておけ、小僧。この魔法使い共は……間違えた、この使節の爺さんはテトラトの『魔王』から全権を預かってギルム王国の内情を探りに来ている。下手に詮索してはマズい」
な、なるほど……目を付けられて暗殺されるとかは確かに勘弁したい。てか、今、魔王っていう重要単語が聞こえた気がする。
でも、それより気になるんだが。
ガドルがオレよりも敵対心を抑えられていない気がする……。
「お二人共、どうやら魔法使いがお嫌いなようですな……。我々としては別に構わないのですが……あくまで我々の対話の相手はギルム王国の国家元首であるレウル=セルトス殿。申し訳ないのですが、貴方の問いに答える事は出来ませんな」
老人……いや、老紳士はオレに向かって軽く頭を下げた。
しかし、顔を上げたその目には無視することの出来ない強い光が宿っていた。
「さぁて、世間話はこれくらいに致しましょう。上で私の連れが待っておりますし……あまり長く待たせるわけにはゆきませんからな。そろそろ中央区に案内して頂けると嬉しいのですが……いかがでしょうか?」
老人はステッキで崖の上を指した。
その先に、豪奢な飾りが月明りに煌めく馬車……らしき物が停まっているのが見えた。シルエットからして、曳いている動物は馬ではなさそうだから、『馬』車とは言えなさそうだ。
なんて事を考えている内に、老人はオレ達の返事を待たずにさっさと歩き始めてしまった。
そしてオレも、釣られるようにして、何の疑問も持たないいままに歩き出そうとした
「なぜ、中央区への道が分からない?」
ガドルの声に、緊張が走った、ような気がした。
次回投稿は5月11日(木曜)の午前11時です( ̄ー ̄)




