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38.テトラトの使節

「なぜ中央区への道が分からない?」


ガドルの言葉に、その場に緊張が走った、ような気がした。

しかし、老魔法使いは表情を崩さない。にこやかな、紳士的な笑みを浮かべたままこちらを振り向いた。


「なぜ……とは? なぜそのような怖い顔をなさるのか、私には何とも分かりかねますが……」


「使節殿、俺はアンタの言ってる事こそ理解出来ん。中央区に使節として来た人間が、なぜ中央区までの道が分からん? 俺達が居なかったらアンタ等、どうなってたんだ? まさか他の人間が通りかかるまで道端で夜を過ごすという事は無いだろう?」


ケビンと名乗った老魔法使いは頷き、杖をゆっくりと空に向けた。

まさか、あれか!? よくある、『ふっ! 誤魔化せ無かったからには仕方ない。魔法で消し去ってくれるわ!』みたいなノリか!?

彼らが実は道を知っていてオレ達に聞いていると理解したオレとガドルの間に、再び緊張が走った。

しかし、杖は空を通り過ぎ、背後にそびえる崖の向こうを指した。


「私等は『あちら』から来たのです。方角は定かではありません」


「え~と? それってつまり……」


オレの言葉に魔法使いは頷いた。


「つまり、道をロストしてしまった、と。そういう事でございます」


なんか、カッコよく言ったけど……結局は迷子と言う事か。理解した。というか、共感できるな。


「実は、私は視力が弱く、夜は殆ど何も見えない上、星を読んで方角を知る術を知りません。また、ここへ来る道中で確か……ブレイズドラゴン、でしたかな? 巨大な燃えるトカゲに襲われまして……応戦した際にあの馬車に置いてあった地図を紛失してしまったのです。倒しはしたものの、その時には道から大きく外れてしまいましてな……。野原の中を、丁度良く、天を照らす炎を西区だと定め、私等はやって来たのです」


『いやはや、本当に難儀な旅でしたな』と老魔法使いは白髪頭をかいた。

ガドルとオレは互いに顔を見合わせた。この爺さんの話は不運で、しかし、割とありそうな話ではあるが……信用してもいいのだろうか? そもそもこの人がテトラトという国の正式な使節かどうかというのも怪しい。


「使節殿、失礼だが、通行証と使節の勅書は持ってるか?」


「ええ。これですな」


ガドルの言葉に爺さんは巻物と、金属製の小さなバッジのような物を懐から取り出した。

ガドルはそれらを慎重に眺め……溜め息を吐いた。


「これらが魔法で作られたものかは、俺には判断できねぇ。だが、王都で検証してしてみればいい事だ。仕方ない。……王城まで案内しよう……と偉そうに言った所で、道なりに真っ直ぐ進むだけどな」


「いえいえ。非常に助かります。なにせ、私達は隠密に王城まで行きたいので、門が開かないのですよ。いやはや、本当に助かりますな」


隠密? 門が開かない? 


「それって、どういう……?」


「ああ、失礼。これから私等は魔法で姿を隠します。後に付いて行きますのでよろしくお願いします」


え。それって超危険じゃね? 姿が見えなくなったらもう、どこにいるのかわからねぇぞ? 実は盗賊でこっそり忍び込んで金品を盗んで行かれても分からないのだ。それどころか、顔を知っているオレ達も背後からグサリとやられるかもしれない。


「いいだろう」


「え!? お前! それでいいのかよ!?」


だが、ガドルは頷いた。その手には小さな革袋。中から金属の擦れる音が聞こえる。

ガドルがいつの間にか買収されていた。


「おう、小僧。異世界から来た奴らってのは大抵、テトラトに転移するんだ。知ってるか? 魔法が使えるお陰で金には困らず自由な暮らしが約束されている。しかも、幻術の類が使えるのなら、朝まで門の前で待 って他の馬車が通る時に一緒に通ってしまえばいい。つまり、この爺さんは十中八九テトラトの正式な使節だ。安心しろ」


いや、手に持ってる革袋が信用性を地に落としてるんだが……。


「さぁ、出発だ。炎霊サラマンダーから戦利品を剥ぎ取って荷車に積むぞ! 小僧! 手伝ってくれ!」


「……」


ガドルはうず高く積みあがった白い甲殻を掘り始めた。

オレは『魔法使いに気を付けろ』というサラマンダーの言葉を忘れられないまま、腑に落ちない気持ちで何か戦利品になりそうな手頃な物を探し始めた。


次回は日曜日(五月十四)の午前十一時代に出します

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