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28.達観。だけどやっぱり…無理。

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よろしければ、ぜひ。

m(_ _)m

あまりの事態にオレは半ば達観していたのかもしれない。

あまりにも現実味が無さすぎて冷静に状況を観察していた。

空中にありながら、吹き付ける風を掴んでガドルはバランスを取っている。オレを炎龍(ミミズ)から助けた時といい、セリシアという騎士の投げ槍を弾いた時といい、あらゆる面で化け物じみているオッサンだが……サラマンダーの炎を防げるとは全く思えない。


まぁ、ベストを尽くしてくれたまえ! ぐっ!


って感じだ。

オレを巻き込んだんだ。死ぬときは……しがみついてでも道連れにしてやる……。


「いいか、着地する前から息は止めておけ。眼は……開けていても構わん」


ガドルは前方、間近まで迫ったサラマンダーだけを見つめたままオレに話しかけてきた。

オレの考えを全く読めないガドルは、どうやら本当に炎を防ぐつもりらしい。


若しくは斬るつもり、なのか……。


ガドルの右手には一本の古びた斧が握られている。

確かに、立派な斧だ。

黒く、オイルを塗ったかのように(ぬめ)る輝きを放つ斧頭は大きく、まるで大木を一撃で刈り取りそうな迫力がある。金属製の斧頭とは違い、握っている柄は彫刻された御影石のように黒光りする石で出来ているようだ。


しかし、『真珠の斧』という割にはみすぼらしい。てっきり大きな真珠から削り出された淡白色の斧を想像したのだが……。

まぁ、どちらにせよ。

あの炎を防ぐのは無理ゲーだろ。

オレ達もろとも灰も残さず消滅するな。

そんな事を気にすること無く、ガドルは自信があるようだ。


「これは、神匠ギルムが鍛え、数多の戦を経て力を増した戦斧だ。元々は『樹災』に対抗する為の武器だが……同じ精霊ならば、効かない道理はないだろう」


竜の口から漏れる炎はどんどん量を増している。

やはり、冷静にこちらが着地する瞬間を待っているのだ。ガドルが着地の衝撃で、若しくは足場の崩壊によるバランスを失った瞬間を狙っているのだ。


もはやこれまで。死は不可避。ジ・エンド。


「あ、やっぱ死にたくねぇ」


これまではガドルを道連れに死んでやるくらいに思っていた。それは平和な日本で育ったから『死』の概念が薄かったからである。

だが、直火で焼き魚かステーキのようにジュージュー焼かれる事を具体的にイメージして、オレは切に死にたくないと思った。

魔物にパックリ喰われるよりかはマシだと考えて諦めていたのだが……これまでの経緯を考えて、オレが死ななきゃいけない理由がどこにも無かった事に気付いた。


というか。この跳躍前のあの場所に置いて行ってくれれば良かったんだ!!


「くっそぉ! ガドル、オレを離せ!! このバカ野郎! オレがお前の道連れにされるなんて不条理過ぎる!! しかも、死ぬときはカッコ良く死ぬって決めてたんだ。こんな意味分かんない体勢で死んでたまるか!」


ガドルの腕の中で、オレは(わめ)きながら抵抗し始めた。


「お、おめぇ、小僧! やめろ! 只でさえギリギリなのにこれ以上暴れたらかなりマズイ! 死ぬぞ!?」


「お前がオレを討伐に巻き込んだんじゃねぇか!!」


ギリギリ? 死ぬって? 

はっ!

オレを巻き込んだくせに何を今更言ってやがる!

珍しく焦っているようなガドルに、ざまぁみろ、と心の中で思う。


だが、同時に不安を感じた。

なんだか、オレを支えるガドルの腕の力が落ちている様に感じられたからだ。

汗で滑っているとかではなく、本当に巨木の枝の如き逞しい腕から力が失われている、ようにも感じられる。


さては、こんな状況にあって確実にオレを道連れにする為の脅しだな?


「「あ」」


そう思って一際激しくもがいたのだが。


本当に、オレの体は自由になってしまった。

ガドルの焦った顔が頭上にある。


振り返るとすぐ下には大通りの屋根。墜落まで秒読みだ。


「(あ、忘れてた。どっちにしろ、オレ、落ちても死ぬじゃん。)」


きっと、これまでは本当の意味で死を覚悟してなかったんだと思う。愚かな事だが、ガドルの腕から抜け出せば本当に助かるかもしれないなんて考えていたのだ。


だが、あと二秒もせずに落下死するという現実を見た時……急に、周囲の全てがゆっくりになった。


鬼気迫る必死の形相でこちらに手を伸ばすガドルも、上に向かってはためく自分の服も、赤く照らし出される煙に覆われた夜空も。 全てがゆっくりに見える。


ガドルに向かって手を伸ばした時、目の端で何かが迫ってくる物にオレは気付いた。


灼熱の炎弾だ。

それは空間全体を青白い輝きで満たし、太陽よりも明るいスパークを散らしながら猛スピードで迫ってくる。


「(ああ、オレ、死んだな)」


ここ数日で何度思ったかも分からないが、今回ばかりは絶対的な確信があった。

オレはたぶん墜落死するし、たとえガドルがオレを助けられるとしてもあの炎弾で二人とも死ぬ。どっちにしろチェックメイトだ。


ああ……父さん、母さん……それに愛する妹……と姉貴……オレ、生まれ変われたら地球に帰るよ……今度の人生は絶対に塾をサボらずしっかり行くから……。


今度こそ完全に達観した少年は、手を上に伸ばしたまま目を閉じた。


空間を引き裂きながら灼熱は突き進み。

少年と英雄を、容赦なく呑み込んだ。



明日は午前中の8時から9時でUPします。

これからもよろしくどうぞ!

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