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2,始まりの光に呑まれて

フミロクです! 以前読んでくださっていた方は二年ぶりで久しぶり?

誠申し訳ないです……。一身上の都合によりながらくご無沙汰でした~


始めましての方は・・・そうですね・・・

今日から……( `・∀・´)ノヨロシク!


 家の近所、閑静な住宅地に囲まれた公園に今日もオレはいた。

 なぜか? それは塾をサボるためだ。

 人はおらず、明かりもまばらで木立や茂みにさえぎられて視界が悪いこの公園で今夜もオレこと、向井ケント、釜谷高校三年生の出席番号20番は自習と塾の講義をサボタージュするつもりだった。


「やっぱり……もう、秋なんだな……」


 塾をサボってする散歩はいつだって格別だ。時折吹く秋らしい風はどこかで咲いている金木犀(きんもくせい)の香りを運んでくる。甘い香りの涼しい風が肌を撫でるたびに、一か月前まで夏特有の湿気と暑さに苦しめられていたのが遠い昔のように感じられる。

 明かりが一つだけポツリと付いている丘の上についたオレは、爺さんみたいな緩慢(かんまん)な動きで、よっこらしょ、と丘の頂上のベンチに座り込んだ。

 そのまま頭上を見上げれば、漆黒の空と、鏡より明るく輝く月。オレはポケットから携帯を取り出してパシャっと一枚夜空の写真を撮った。

 思ったよりきれいに撮れた写真に、オレはフッと笑い、再び画面を消してポッケに戻す。

 ……。

 …………。

 ……はぁ。オレは何をしているのか……。


「……だぁ! 受験、マジえぐいてッ!!!」


 ——受かる気しねぇって!!

 オレは夜空に向かって思いっきり叫んだ。

 しかし、叫んでは見たものの、すっきりするどころか恥ずかしさとやるせなさが襲ってきた。いくら人気の少ない夜の公園とはいえ完全に奇行だ。オレはバカだ。


「まじで、オレ何やってんだろなぁ……」


 オレは深呼吸し、肺を振り絞るように深く息をはきだした。

 今日でオレが塾をサボるのは何回目だろう? もちろん、塾の講義はしっかりと親が高い授業料を払っているのだ。良心がとがめない訳はない。

 初めてサボったのは模試のすぐ終わりだったか? 夏休み中はしっかりと毎日のように駅前の塾へ通い、家に帰っても深夜まで勉強をする優等生な日々だった。だけど、その夏休み明けの模試でオレは惨敗した。

 そう、日頃の疲れから手中力を欠いたオレはふとしたミスからマークシートの回答欄を何か所かズラして書いてしまった。そして追い打ちをかけるように、名前の代わりに記入する受験番号も間違って書いていたのだ。

 もちろん試験結果はまともに出る訳もなかった。


「しっかりするんだ向井ケント。たかがマークミス。あれはオレの実力じゃなかったんだから」


 オレは独り言をつぶやいた。


「(でも、もう疲れた……。塾にも家にも居たくねぇ)」


 独り言に被せるようにして頭の中の声が言った。

 そうだ。オレにはもう今更塾に戻る気なんて、無い。たしかにキッカケは模試だったけど、その小さなキッカケはオレのすり減っていた気力の糸をプッツリと断ち切った。

 だから今日このまま塾が閉まる十時までこうしてベンチに座り、夜空を眺め、月を眺め、そして時間が過ぎるのをただひたすら頭を空っぽにして待つのだ。

 

「説明しよう! 実は、オレがさっき撮った夜景写真も最初の一枚ではないのである! なんとなくこの見晴らしのいい丘に登ると撮ってしまうのだ。オレのカメラロールには暗い夜空か月しか写っていなかったりするぞ! なんでそんなに撮り溜めたんだかオレにも分からん!日課みたいなもんであ~る!」

 

 ——ったく、オレは随分と精神的にやっちゃってるみたいだ。誰に何を説明してるんだか……。

 さ、もう考えるのはやめよう、そう言って、オレは再び携帯をとりだした。


「お! このアングル……これまで無かったアングルかもだな! よしよし……」


 オレが現実逃避に集中すべく、受験や塾の事を頭から追い出して月に向かって携帯を構えたその時、オレは違和感を抱いた。画面の真ん中をなにか赤い線が横切ったように見えたのだ。


 「流れ星……?」


 オレは少し携帯を下ろし夜空に目を細めた。しかし、やっぱり流れ星なんて一瞬で通り過ぎてしまうものだ。見えたのはいつも通りに暗い夜空とぽっかりと浮かぶ満月だけ。しかし、オレがちょっと残念と思う気持ちと共に再びカメラを構えたその時、空を大きな光が照らしだした。


 「……な、なんだあれ……」


 空を虹色に輝く何かがゆっくりと横断してゆく。

 これはなんだ? 木々の枝の間の空を覆うような巨大な光の玉がオレには見えている……。夢でも見ているような奇妙すぎる非現実的な光景にオレは動画を撮ることも忘れ、カメラを掲げたまま茫然とそれ・・を目で見送った。目が慣れてくると鮮やかな極彩色の光の中心では楕円形の物体が見える。それは光りながら形が崩れていき、オレの頭上を昼間のような光で照らしながら通り過ぎながら粉々に砕け散った。


「や、やべぇもの見ちゃった……」


 UFOだったよな?

 オレはしばらく息をすることも忘れて放心状態で棒立ちしていた。手のしびれで未だカメラを掲げ持っていた事を思い出し、オレはようやく息を吐いた。

 

「……UFOとか本当にあるんだ……」


 まえ、何かの本で「本当に驚いた時は声が出せない」と聞いた事がある。ジェットコースターとか絶叫系では歯を食いしばってしまって叫べないオレは勝手に納得していたのだが……今、本当の意味で理解した、と思う。


「って、しまった! なんでオレは動画どころか写真も撮り忘れるんだ! ほんっとオレはバカだ!」

 

 


突然声が降ってきた。

 

「どうもこんばんわ、おバカな人間さん」


「っっ!!?」


 バキリ、という小枝を踏む軽い音をさせて、少し離れた木の上から降って・・・現れたのは一人の女だった。臙脂色というのだろうか暗赤色のロングコートと、その対照的に燃えるような鮮やかな赤い髪色の長身の女性だ。

 明らかにおかしい女にオレはタジタジと後ずさった。そりゃ、女の人が木から降ってきたのは勿論おかしい、それにあんな髪の色も今まで見たことが無い……けれど、オレは目が赤く光る人間なんて見たことが無い!

 彼女の瞳は月明りとは関係なしに、赤い光を宿していた。蝋燭(ろうそく)の炎の様に不規則に(またた)く妖しく、朧気(おぼろげ)な光だった。


「星は墜ちた。そんな今日と言う良き日に! アナタは正にぴったりな座標に立っているの! あぁあ! まさに! まさに! 魔王様・・・おぼしの通り!」


 女は意味不明なことを叫んで空を拝むような動作をしている。これは、うん、絶対にヤバイ。だから、オレはいっそ全力で逃げようと足に力を込めたのだが……。


「(なっ!? 動けない!)」


 オレはそこで、身体が硬直していることに気付いた。手や足だけじゃなく、舌も眼も、何も動かせな……あ、耳なら動く……。


「(すげぇ、オレの特技が今こそ役に立つとき……な訳ないよな!?)」


「無駄よぉ? 魔王様より授かりしによって、アナタは既に逃げられないのぉ」


 そう言って、女はハラリとコートを脱ぎ捨てた。

 木の濃い影の中で、女の滑らかな体の線、炎が渦を巻くように肩を滑り、胸元にかかる赤い髪が浮かび上がる。


「(は、裸っ!!? 露出狂だぁ!!?)」


 オレは咄嗟に目を逸らそうとした。しかし、やはり体が石のように固まって動かない。もしかしたら鼻血も止められているのかもしれない。凝視するしかないオレの前で枝々の間を通った月光に照らされ、猫のように引き締まった女性の輪郭が浮かび上がった。


「呪うなら、アナタの運の無さを呪ってよね☆」


 相変わらず体の自由は奪われ、叫ぼうとしても口すら開けない。恥ずかしさと恐怖が入り混じった思いを抱きながらも、逃げることが出来ず凝視するオレの前で女のシルエットが変わってゆく。


「……あ、でも、違うかしらぁ? アナタの強運をいわえ、なのかなぁ? ん~~、わかんないし……あなたにとっても、どうでもいいわよねぇ?」


「っひ!?」

 

 女が不意に向けたじっとりと殺意を孕んだ視線に息をのむオレ。それを見て、ケタケタと女は夜空に牙を剥いて哄笑した。楽しくて仕方ないといった感じだ。

 原始的な恐怖。それはあの女が現れた事が、ではなく、あの存在その物に対してだったのだと今更ながらに気付いた。

 オレは分かってしまった。『オレは何かとってもヤバいモノに出会ってしまったのだ』と。先に通り過ぎたUFOなんかより遥かに異常で、ヤバイ物に。

 女の骨格は太く、大きくなり、ミシミシと顔の形が鼻を中心に隆起し変質していく。オレが昔、アルコールランプで髪の毛を焼いた時のような不快な臭いが金木犀の香りを駆逐する。


「(なんなんだなんなんだなんなんだッ!?)」


 そして数秒も経たない内に女が立っていた場所に存在していたのは、赤いたてがみを揺らす金色の毛並みの巨大な四足獣だった。例えるなら大きなライオン。

 しかし、ライオンをテレビでしか見たことの無いオレでも、目の前のソレが生物として常識離れしたサイズだと分かる。なんたって、立っているだけで木の梢に背中が届くほどに大きく、大きく裂けた口はオレを丸呑み……は出来なさそうだが簡単にオレを引き裂けそうだった。

 宇宙怪獣だ、UFOから落ちてきたのだ……とオレは頭の隅で思った


「呪うにしても祝うにしても……アナタにはどうでもいい事ねぇ?」


 巨大な獣がズン、という音を立てて一歩を踏み出す。オレはまぶたが恐怖で限界まで引き延ばされるのを感じた。風が獣臭い。生暖かい風が頬を撫で、オレはあの女に触られたような錯覚に冷や汗が全身から噴き出した。


「だって、アナタ? 今から消えるんだもの、ふふふふ……」


 ……気付くと獣の口はオレの頭のすぐ横にあった。女の声音と同じ、しかし獣の声帯を通して野太い響きとなった声はオレの脳をシェイクしている。

 

「(どうしてこんな事に……? オレが塾をサボった、から……? 頑張っていればこんな目には合わずには済んだ?)」


 固められた筋肉が悲鳴を上げているのに、ピクリとも身体は動かない。オレはガクガクと震えているハズなのにぴっちりとした石膏像の中にでも収められているように微動だにしない。いや、できない。


「じゃあ、哀れな羊さん、魔王様によろしく、ね」


「(オレの十八年の人生は……こんなよく分からない状況で突然現れた宇宙怪獣に食われるために……あ)」


 ガバリと広げられた獣の赤黒い口腔の中で、一瞬、金色の物が輝いた。そして、最悪の生臭さが顔じゅうに覆いかぶさる。

 オレは何もやり遂げることなく、最後に何も言い残すことも出来ず……死んだ。




作者はアルコールランプで髪の毛を焼いたことは無いです。マジです。

あ。二十過ぎて未だにライオンを見たことは無いです。マジです。

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