3.これってドッキリ番組だよね?
サブタイトルの命名が難しいですな~。
皆様のイメージと違っているかもしれませんが……どうか許してつかぁさい<(_ _)>
「ねぇ、ねぇってば!」
オレを起こそうとする妹の声が聞こえ、身体がゆすられる。
あっれ?もう朝なのか?
意識が朦朧としているし、何となく体のあちこちが痛い……。
起き上がろうか、と一瞬迷うも、結局オレは睡魔に勝つことが出来ず、差し込んだ強い日差しから逃げる様に寝返りをうった。
あれ、今日は何曜日なんだっけ? どうも、寝惚けた頭ではまともに考えられない。
そうだ、もし平日ならこのままバックレてしまおうか……? 学校も退屈だし、塾だって夜からなんだ……うん、それがいい。今日はゆっくり寝ている事にしよう……。
そして、再びオレの意識は暖かい日差しに溶けてゆく……
「ねぇ! 寝ないでよ! アンタどういう神経してんの!? 起きなさいってば! バカっ!!」
ゴッ、と寝返りをうった背中を思いっ切り殴られた。堪らずに跳ね起きる。
「朝っぱらから何て事すんだよ……。 つーか、兄ちゃんがバカでアホなのは周知の事実だろ?」
オレは振り返る事無くボヤく。殴られた背中がとっても痛い。
「………。」
あれ? 返事が無いな……。
オレは十八歳、妹は十三歳。
昔だったら、オレが自虐的になる度にそんなことないよ!って必死になって否定してくれたものだったけど……中学生になったらなんだか急に冷たくなった。
しかも、背中を殴られるなんてな……。
段々、暴力アネキに似てきてるような気もする。
「オレ今受験中だから運動不足なんだよ……。もし叩き過ぎて骨とか折れたらどうすんだよ……オレは受験生なんだぜ?」
背中を擦りながら振り返り、そして。オレは絶句した。
「!!?」
目に入ったのはオレのいつもの部屋ではなかった。
勉強机も、蛍光灯も、床に山積みになっていたハズの参考書の山も無い。
オレが寝ていたのは木組みと板だけで出来た簡素過ぎるベットだ。
梁がむき出しの低い天井に、漆喰がこびりついた石壁、明るい陽射しが降り注ぐ大きな窓。
……そして、こちら呆れたように見つめている一人の女性だった。
「ここはドコだ!? てか、キミだれ!!?」
はぁ、という深い溜め息が聞こえた。
「他人のベットを占領しといてよく言うよね……? アタシ、アンタのせいで昼寝ができなかったんだけど?」
うん。あれ?
目をこすっても消えないし、頬をつねったら痛い。やっぱり、夢でも、気のせいでも無いらしい……。狭い部屋には見覚えの無い家具が並べられ、壁も、見慣れた白い壁紙ではなく、埃っぽい石造りの簡素な壁だ。
ここはオレの部屋ではないし……オレが今座っているベットは彼女の、目の前に仁王立ちしている少女の物らしい。
「えーと……なんかゴメン……?」
状況は理解不能。こうなった原因も全く不明。
だが、オレは取り敢えず目の前の少女に謝った。
何故こんな場所にいるのか……まだ頭が朦朧としていて思い出せない。もしかしたら何かのドッキリなのかもしれない。
だが、機嫌の悪そうな女子には歯向かわない方が身の為だと、オレはよ~く知っている!こういう時は先に謝っておけば、それ以上は関わり合いにならずにすむ……ことが多いのだが……。
だが、意外にも……少女はオレに謝られて少し戸惑ったような声を上げた。
「……そ、そこまで謝られてもな~? だってアンタ、この状況分かって無いんでしょ? だから、そんな簡単に頭下げちゃダメだよ?」
オレが顔を上げると、少女は若干引きつった笑みを浮かべていた。
……口の端がちょっとぎこちなく引きつってはいるものの、とても優しい笑顔だった。
美人だぁ……。
うん。正直に言うとタイプだった。
大人びてるけど、恐らく歳はオレと変わらないだろう。
同学年っぽい女子を『美少女』と言うには少し抵抗を感じる。敢えて言うならボーイッシュな、凛とした女性……ボーイッシュなアスリート系の女性…………うーん、違うな。
ボーイッシュってのは合ってるけど……凛としてはいないし、女性っていう言葉の響きも変だし、アスリートって言うには少し無法者っぽいっていうか……なんて言ったらいいのか………。
まぁ、面倒臭いし『美少女』って事でいいだろ。
動きやすそうな白いシャツと、ジーンズの様な生地で造られた短パン。その上に、まるで民族衣装の様な、色鮮やかな刺繍がなされた、それでいて不思議と少女の雰囲気に合う長いローブ(?)を纏っている。
足にはギリシャ風のサンダル。足首を細い皮のベルトで固定している。
健康的に日焼けした褐色の肌と、よく鍛えられて引き締まった身体はまるでプロの陸上選手、もしくは野生動物のようだ。
彼女は相当な癖毛らしい。黒髪は短く切り揃えられて、寝癖のように、好き勝手な方向に跳ねている。
耳の上に至っては鳥が翼を広げているこのような有り様で、かなり目立つ。
もっとも、この髪型が癖っ毛なのか……それとも単にあまり身なりには気を遣わないのかどうかは判断しかねるが……。
だが、何よりオレが目を奪われたのは彼女の目だった。少し黒目勝ちの茶色の瞳がいかにも活発そうにキラキラと輝いていた。
「ちょっと? 別に、いくらアタシの顔を見つめたってアンタを泊めてやる義理はないんだからね? あ、でも。ん~……アンタもまだ分からない事だらけでしょ? なら、こっちよ。ついてきて。ちょっとだけなら教えてあげるから」
女性をついジロジロと観察してしまった事にオレは赤面したものの、彼女は特に気にしていない……それどころか少し嬉しそうだった。
そして突然、少女はクルリと背を向けると、鼻歌交じりの軽い足取りで部屋を出て行ってしまう……。
その急展開に、何となく、最初から意図していたかのような強引な雰囲気をオレは感じた。まるで、ゲームの操作説明のようだ……。
だが問題無い。この手の強引さは姉貴によって耐性が付いている。
それに、本当に初期説明だったとしたら、これはとてもリアルな参加型のゲームなのかもしれない。よくある大脱出ゲームとか、逃〇中とか……。
どちらにせよ、付いて行った方がいい。
まぁ、従うしかないか、とオレは早々に諦めて、少女を追いかけようとベットから立ち上がって……。
突然走った痛みに顔をしかめた。
昨日何があったのかが思い出せないが、どうしてだか身体のアチコチが痛い。……筋肉痛と頭痛と打撲の痛みが混ざっているみたいだ……。
背中がズキズキと痛むのはあの少女に思いっ切り殴られたからだとしても……ほかの痛みに関しては全く理解できない。
オレは痛みの原因に首を傾げながらも、見失わない様に彼女を追った。
まぁ、相手が姉貴だったらオレが付いて行く訳もないが……。
美少女が……そう、美少女が何かを教えてくれる、と言うのだから付いて行っても損は無いんじゃないか……?
*****
少女はオレを残して部屋を抜けると、狭い台所らしい場所を通りドアを出たようだ。
オレは草花が植わった中庭に出て、その一角、少女の後ろ姿が中に消えた、トンネルのような狭い通路を抜ける。
……今度は狭い路地の様な通りだ。少女の姿を探すと、数メートル先の曲がり角で色鮮やかな刺繍のついた服の裾が翻るのが見えた。
「あっちか!」
オレは『T』字型の通りを右に曲がった。
オレは立体迷路の様な街並みを、出会ったばかりの美少女を追いかけて、抜けて行く。
到底日本だとは信じられ無いような街だ。
人が二人通るか通らないか位に狭い細道。漆喰が表面に塗られた高い壁……如何やら幾つもの家が一つにくっついて、この、迷路のような通りを形作っているらしい……。
もしかしたら町全域の家が全てくっついているんじゃないか、とも考えてしまう。
それに、道路がアスファルトでもレンガでもなくて石を削ったブロックで出来ている。
一つ一つが擦り減ってテカテカに光っている事から、それなりに年月を経ている事が分かる……というか、通り自体に何となく趣がある。昔家族と旅行したイタリアの古い町並みのようだ……と、オレは思った。
「これが……ドッキリ、なのか?」
この圧倒的なスケールと現実感……。
到底、セットだとは思えない……。
そもそもオレみたいな平凡な受験生に向けてドッキリビデオ企画? 芸能人じゃないんだから、そんなに面白い反応なんて出来ないぞ?それに誘拐に会ったんじゃないか?
どう考えても物事の辻褄が合わない。
『まさか……まさか本当に日本じゃないのか?』……そう考え、『そんな訳ない、在り得ない。』と自分に言い聞かせてながら歩く。
だが、問題の根源はオレが昨日の出来事を思い出せないでいる事だ。
「そうだよ……昨日オレの身に何があったって言うんだ? オレは今どこにいるんだ……」
しばらく立ち止まって、頭を捻ってみるものの、体中の痛みと眠気の影響なのか、朦朧とした頭では何も考えられない……。
「ほら! 何止まってんの? 早くきてよ! アタシはもう眠いんだからね?」
ぼー、として立ち止まっているオレに、急かす様な少女の声が掛けられた。
「え? あれ?」
オレは周囲を見回してみる。
……だが、前にも後ろにもあの少女の姿はない。
「もう! 上だってば!!」
その声に頭上を見上げると、少女は通りの壁の上、三十メートル程はある建物の屋根の縁に座ってこちらを見下ろしていた。
宙に投げ出された足が見てて危なっかしい。
「待ってくれよ! 早いんだって!! てか! 何でそんな場所登ったんだ!? 危ないだろ! 足滑らせて落ちたらどうすんだよ!!」
オレは叫び返してから思う。
なんでオレもあの場所に上らなきゃいけないんだろうか……?
別に、高所恐怖症ではないけど……あんな場所に上りたくはない。どう考えても三十メートルは高さがある。その上、屋根は見た所滑らかなタイルだ。
……まったくもって、よく滑りそうな屋根…………あ、受験生に“滑って”“落ちる”は禁句だな……。
まぁ、冗談はさておき。
足を滑らしたら落ちてからの死亡ルートは免れないだろう。マジで。
「そこのドアを開けて! 四階まで上がったらバルコニーに階段が作ってあるわ! 早く上がってきてよ! ほら駆け足っ!」
オレは何故か物凄く急かされている。
……仕方が無い。悪い人じゃ無いんだろうし……な?
って、あれ?
今、何か思い出せそうだったが……何だ? 『悪い人』に何か引っ掛かるんだが……思い出せない。
ま、そんなに大事でも無いだろう。
昨夜の事はまた後で考えればいい、とオレは考え、
「重いな……本物の木で出来てるのか?」
重い手応えと共に彼女が指差した扉を開けた。暗い階段を上ると…………なんと、普通に人が生活していた。
「ああ、いらっしゃい。シェトちゃんのお友達かい?」
まだまだ上に伸びている階段の途中、開け放されたドアの向こうで、老夫婦が普通に食事をしている。
オレは間違えた、のかっ!? 他人の家に勝手に入ってしまったのか!? オレって不法侵入者じゃないか!?
他人と、特に年上の大人とはあまり話した事の無いオレは、いきなりの状況に、一瞬の恐慌をきたした。
「まぁ、落ち着きなさい……。ここであっておる……。今さっきあの娘も通って行ったが……違うのかい?」
だが、おじいさんもおばあさんも全く動揺していなかった。まるでこんな事態が日常茶飯事であるかの様だ。
オレは冷静を取り戻そうと深呼吸をして……咳き込んだ。
オレが落ち着くのを待ってお爺さんが話を再開した
「あの子もせっかちだからねぇ……。急いだほうがええね。 バルコニーはそのまま梯子を登っていきなさい。高いから、足を滑らせないないようにね……」
……そうだね。
あんな場所から足滑らせたら十中八九死ぬぜ? できるだけ行きたくないんだけどなぁ……。
だが、屋根の上で退屈そうにオレを待っている彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
「…………ま、いいか……ちょっとくらい……」
久しぶりにまともに喋った女子だもんな……。
オレは老夫婦に会釈して狭い階段を上ってゆく。
この建物はどうやらアパートのような構造らしく、幾つもの家がくっついているようだ。
しかも、何故か殆ど全てのドアが開け放しになっている。
そのため、オレは住人の日常が垣間見ることが出来た。
竈から出た煙が立ち込めた部屋。重厚な作りの木のテーブルだけが置かれている部屋。木で出来たフローリングではなく、石造りの床……。
住人の姿は見なかったが、一応軽く頭を下げて部屋の前を通る。
この場所……なんか日本っぽくない。
やはり……ココは日本じゃないのか……?
いやいやいや! そんな訳が無い! 在り得ないないだろ!
……再び、何度も自分に言い聞かせながら階段を登ってゆく。
「遅いよ!! 待ってたら日が暮れちゃうじゃない!」
そして、息を切らしながらも、やっとの事でバルコニーから屋根に移ると……あの少女が退屈そうに待っていた。しかもどうやら、わりと怒り心頭な様子で。
「(この太陽の感じからして……きっとまだ正午にもなってないぞ?)」
まだこの建物を登り始めてからそんなに経っていないのに……まったく、なんてせっかちなんだ!
オレを連れまわしているのはコイツだし、オレは筋肉痛で足が動かないというのに……。
つまり、あのじいさんが急いだ方がいい、って言っていたのはそういうコトだったのか……。
結構急いで上ってきたつもりだったんだけどなぁ……。
まぁ、オレの姉貴の傍若無人ぶりには負けるし……姉貴に小さい頃から連れ回されたせいで相手の男女を問わず、オレはこういう状況には少し耐性がある。
問題は無い……。だがしかし、何故こういうタイプの女子しか周りにいないのだ、とオレが不満に思ったのも束の間。
「てっきり足でも挫いたのかと思って見に行くとこだったのよ。心配したじゃない! ほら、もう少しだからちゃんと付いてきてよ?」
その言葉にオレは彼女に対する認識を改めた。
こいつ、姉貴より全然優しいじゃん!
ってか、普通に良いやつじゃん!!!
オレの、女子の苦手加減にも溜め息が出る。何となく強引で、勝ち気な雰囲気がした、というだけで、この美少女を、自然とあの姉貴と比べてしまっていたのだ。
あの、最低最悪最強生物と……。
オレは心の中で彼女に謝った。
「(ほんっとうに、すいませんでした……どう考えても、あの姉貴と比べるのは失礼が過ぎたと思います。)」
そんなオレの心を知る事無く、少女は再び上機嫌で歩き始めている。屋根の上に設置された木製の通路を行く彼女のステップは軽やかで、太陽の光の中でダンスをしているように見える。
暖かな風が頬を撫で、真夏の様に強い日差しが街の屋根を色鮮やかに照らし、乾燥した空気は汗を一瞬で蒸発させて快適に保ってくれる。
周囲を見渡すと、狭い通路には簡単な橋が架かり、屋根の段差には階段が付けられている。それでも、所々で途切れている為、歩行者は他の人の家の中を登ったり降りたりしなければならない様だ。
「あ、そうだ。アンタ、さっきアルノーさんと話してたんでしょ? あのお爺さんはこの歩道の管理者の一人よ。アタシもよくこの道を使うからいつの間にか仲良くなっちゃってさ……よくお菓子くれるんだよね、しかも沢山!」
そして、彼女は、さっきオレが老夫婦、アルノー夫妻、に出会ったアパートのような建物も道の一部であり、この地区一帯は特に、迷路のような仕組みになっているから地元の衛兵も寄り付かない治外法権地区なのだ、と彼女は歩きながら説明してくれた。
ああ、そして、もう一つ判ったことがある。
間違いなく、この街は日本じゃない。
彼女の話を信じたから、というのも少しは、ある。街の暮らしを楽しそうに語る少女の表情にウソは無いように思えたし、その詳細な話にも矛盾や、オカシイ部分は無かった。
だが、それよりも……さっきアパートで嗅いだ煙の匂いが、古びた石垣やくすんだ赤茶色レンガの色が、狭い路地に漂う独特の雰囲気が、そして何より、照り付ける太陽の容赦のなさが……ここは絶対に日本ではない、と。
そう告げていた。
相変わらず、少女は高い場所でも歩き慣れた動きで、オレの少し前を歩いている。
「もう気付いてると思うけど、ここはアンタのいた元いた場所じゃないの」
少女は立ち止まった。
道の途切れた場所。屋上にも関わらず草木が植えられ、空中庭園になっている。
緑の木々に少女のシルエットが美しい。
そして、彼女は、くるりと、こちらを振り向いた。
翻った上着の刺繍が鮮やかな色彩を放ち、太陽を受けた少女の瞳が、美しく煌めく。
その後ろ、太陽に照らされた赤茶色の屋根と白い漆喰の壁からできた街並みがどこまでも続き、遥か遠くには山並みが見える。
まるで、一枚の絵の様な完璧な構図だった。
もしかしたらこの景色を演出して見せる為だけにオレは連れ回されたのかもしれなかったが……それはそれで構わない程に、彼女は美しかった。なんとなく神聖な雰囲気すら感じてしまう。
少女そして続ける。
「ここでは……この世界では、アンタみたいな人を『召喚勇者』って呼んでるわ」
その瞬間、街の上を渡って来た強い風が、少女の後ろの草木の鮮やかな緑色の葉を揺らし……そして、オレを吹き抜けていった。
「っ!?」
まるで、その風がオレの頭の中の靄を吹き散らしてしまったかのように……彼女の言葉を聞いた瞬間、オレは昨日の出来事を全て思い出していた。
断片的だった記憶が繋がり、全体図を描き出す。
そうだ、昨夜オレを襲撃したあの女も言っていたハズなのだ……『新しい勇者を送らなければ』と。
毎度ありがとうございます。
さて、メインヒロインの登場なのですが……活躍するのはまだまだ先ですな(『西区激戦』にて)。




