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17.錬金術師という名の科学者:アルト・ルガート

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m(_ _)m



「……すまなかった。少し興奮し過ぎてしまったようだ……だが、君にまで手伝わせてしまうとは……」


窓から差す太陽の光が勢いを失くし、部屋がランプの柔らかな光に包まれた頃。

ようやく目を覚ましたナーシャの父親、アルトはオレに謝った。


今いる一階の居間に運び上げて、ボロボロのソファに寝かせてから数時間が経っている。


「いや、べ、別に……大した事じゃ無いっすよ……(実際、ナーシャの方が力持ちだったし)」


なにせ、地下室からナーシャが彼の足を、オレが上半身を抱えて階段を運び上げたのだ。

普通逆だろ、とオレは思ったがナーシャは余裕の表情だった。


人間というのは気を失うととても重いという事を聞いたことがあるが、そもそも目の前の男は大して重くなかったように思う。

最初声を聞いた時に科学者の様だ、と感じたのはズバリ正解だった。

歳は45,6といった感じだろうか……。

白髪混じりの灰色の髪は油で撫で付けられているようだ。

背丈は170後半だが、服の上からでも腕が皮と骨で出来ているかの様にガリガリに痩せていて軽い。

全身には白衣のような麻の服を纏い、異世界で初めて見たメガネを掛けている。


まるで典型的な不健康な科学者のイメージそのままだ。顔色も不健康そうな土気色で、とてもじゃないがナーシャと似ているとは言い難い。


「それで……君が魔眼の勇者だと言うのは本当かい?」


曇ったメガネの奥からアルトの、知的で好奇心を湛えた瞳がこちらを見ている。


……オレは隣に座っているナーシャの方を向いた。


それに伴ってお父さんの瞳もナーシャに向く。


「な、なんで二人揃ってワタシを見るの!?」


「いや、何でって、オレは事前に何の説明も受けて無いんだけどな……?」


今思えば、尋ねる度に適当にはぐらかされていた気がする。

廊下で訊いた時は詳しい説明はお父さんから聞いてくれって無理矢理地下室に連れてかれたしなぁ……。


「ナーシャ、彼に何の説明もしていないのかい? ただ連れてきただけなのかい? それじゃあ、連れて来られたこの方に迷惑だろう?」


そして、ナーシャの父親はオレに向き直った。


「本当に、娘がすまない事をした……無理矢理連れて来られた挙句に私の介抱までさせてしまうとは……」


ナーシャのお父さんはオレに深々と頭を下げた。

ナーシャもきまり悪そうにオレに軽く頭を下げ……ようとして、何かを思い出したかのように勢い良く顔を上げた!


「た、確かに! 今日は緊張感が無かったのは確かだし、彼には何の説明もしなかったけど、彼が召喚勇者で、魔眼持ちの人だけの特徴、文字を読めないっていうのは本当なのよ!! 説明を省いちゃったのは……その、ちょっと嬉しすぎて、できるだけ早くお父さんの所に連れて行かなきゃ、って思ってて……確かに、ケントには悪かったけど……」


なるほど、道理で妙に急かす訳だ。

オレはちょっと納得した。


でも、それは頭を下げる程の事じゃない。


「ナーシャの言う通りです! あの、べ、別にそこまで気にしてないっすから! 道中も色々んな物が見れて良かったと思うし……それにオレ的には早く魔眼が何なのか聞きたいかな……と思うんすけど……」


「……ふむ……確かに……説明する事を謝罪に変える事も可能か……」


オレの言葉にナーシゃの父親は顔を上げてくれた。何を言っていたのかはサッパリだが。


どうやらオレはナーシャを庇うのに成功したらしい。

ナーシャがオレの耳元で、ありがとう、と小さくささやいた。


「っ!!?」


耳にナーシャの息を感じて、高熱が出たかのように頭が熱くなるのが分かったが……オレは空咳で誤魔化した。

ナーシャの顔を見ないようにしながらナーシャに頷き返し、赤くなった顔を隠す。


そ、それに、今の言葉は普通にオレの本心だ。


確かにナーシャの対応は受付嬢として、オレの『受付嬢』という職業に対するイメージからは破格に外れていたと思う。

思うけれど、オレはオレの中に在ると言う『鍛冶師の素質』というのが気になっていただけで、問いただしてまでどうしても説明を聞きたかった訳じゃない。


しかも、街中や市場を何も分からないままに連れまわされる、いや、振り回されるのは結構楽しかった。


まぁ、その上ナーシャの昼ご飯だった弁当も貰っちゃったし、『魔剣』や『聖剣』が作れるって聞いてからオレの心は既に決まってる……多分だけど。


「なあ、ナーシャ? それで、魔眼の勇者っていうのは何なんだ? ユニオンでの地図の一件もそうだったが、オレがこの世界の文字を読めない事と関係があるような口振りだけど……」


ナーシャの父親にいきなり訊くのは緊張する。

オレはナーシャに間接的に尋ねた。


「? えっと……魔眼って言うのは今ケントが言った通り、『文字が読めない人』の事なんだけど?」


へ?

いやいやいや。それは無いだろ!


冗談もほどほどに……と、ナーシャを見るがあくまでも彼女は真顔だ。

え?


「いやいやいやいや……特殊な力とかは?」


「無い、ね。そりゃ、魔法使いの虹色の瞳みたいな力は無い、けど……。文字の『形』が見えるっていうのは凄い事なんだよ? この世界で文字の形が分かるっていうのはとっても貴重な才能なの。ワタシ達や他の勇者さん達も文字は読めるけどその形を見て、読んでるわけじゃないの……この説明で分かる?」


『文字の形が分かる』のが才能? 読むけど読まない?

一体、この異世界はどういう世界なんだ?

いや、全くもって意味不明なんだが。


オレは肩を竦めてみせた。


「じゃあ、ここからは父さんにバトンタッチね。ワタシは市場が閉まる前に今日の買い物行って来るから!」


なんと、ナーシャはアッサリと説明を父親に丸投げした!

そしてそのまま真っ暗な廊下を歩いて行ってしまった。

暫くして扉が開き、そして閉まった音がした。


オレが呆然と入り口の廊下を見つめていると、あまり気にしている(ふう)も無いアルトがその口を開いた


「……すまんな。あの()は父親……まぁ、私なのだが……父親に似たのか奔放な(たち)でね。……ああそうだ。君、何か好きな飲み物はあるか? 薬草なら職業柄、相当量の備蓄があるのだが……」


そう言ってアルトはソファの下から乾燥した長い葉の束を取り出した。

オレが随分前から気になっていた、部屋のあちこちに吊るされた植物は薬草だったらしい。


異世界の薬草は試してもみたいが……かなり埃っぽいのが気になる。

……日本の都会で育ったオレが果たして腹を壊さないものだろうか?


「薬草っすか……それは、遠慮しときます。」


そうか、と一言いって、自分の物であるらしいマグカップに粉末の薬草を入れ、大きな水瓶(みずがめ)から汲んだ水をヤカンで沸かし始めた。

例のトイレには水道があったけど……この家には引かれていないらしい……。


「待たせた……さて……何から話すか……やはり、君の……ああ、ケント、といったかね? 君の疑問に答えるには……やはり、この世界の古い伝説から語るのが妥当だろう……」


アルトはカップにお湯を注ぎ入れながら言う。

部屋にはスパイシーな紅茶の様な匂いが漂った……ユニオンの施設のあの煙と同じような匂いだ。

きっと、あの煙の元はこの薬草なんだろう……。

オレがなんとなく、アルトのカップを凝視していると、


「この匂い、良いだろう? この茶は街の周囲一帯を覆っている『大剣蓬オオツルギヨモギ』を乾燥させるだけで簡単に楽しめる。生の葉は何の臭いもしないが乾燥させれば芳しい香辛料のような香りを放つ……南方の高価な香辛料の代用に魔物避けとして活用する旅人は多い。それに、材料はいくらでもあるからな、ユニオンでは施設にこの植物を燃やした煙を焚き込めている。………君も試してみると良い。中々に美味だ?」


アルトが立ち上がり、台所(だと思われる窓辺の一画)から湯気を立たせるカップを持って来た。

コトリ、とオレの目の前にもカップが置かれる。


「ありがとうございます……」


悪い匂いじゃないんだけどな……。ユニオンで飽きる程吸い込んだ匂いだからか、今一飲む気が起きない。


「さて、口下手な私がどこまで出来るかわからんが……昔話を始めよう……」


昔話、とな。

オレは魔眼ってモノが何なのか知りたかっただけなのに……なんだか、思ったより長くなる雰囲気なんだが……。


学校の授業を必ず寝る事には定評がある……という様な事は無いが、昨日から寝てなi……今朝少しだけうとうとしただけのオレが、果たして起きていられるだろうか……。

いつも読んで頂きありがとうございます!


全く関係ない話になるのですが……

そろそろ冬休みが近付いて来ました……僕の住む横浜ではクリスマスの色が濃くなってきて……色鮮やかなイルミネーションが心に刺さります。


今年こそは彼女とクリスマスを……と思っていたんですけどね……。

人生って中々難しいモノですね……。


まぁ、これからも相変わらず、未だ見ぬ異世界を書いて行きます!

よろしくお願いします!!  m(__)m

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