1対4
「シルヴァーナ! カリン! 気をつけろ、モンスターだ!」
「ホッホー、なんと無礼な。汝、アリアの胸に興味津々のエロ小僧よ」
フクロウが体を膨らませ、羽を広げてばっさばっさと威嚇してくる。
「黙れ、人聞きの悪い。お前のような珍妙な生き物がいるか! ……よせ! 首を回すな! なんか怖い!」
1m大のフクロウがグリングリンと首を回してこっちを見てくる。
じっとこっちを見てくる。
じーっとこっちを見てくる。
思わず目を逸らしてしまった。
「ホッホー、吾輩の眼力に恐れをなしたか」「調子に乗るなよ、デブ鳥。こっち見んな」
ジリジリと剣の柄に手を掛ける。
フクロウも更に体が膨らませ、羽を扇状に広げてきた。
ホーホー、カッカッカッカ、ホーホー。
くちばしを鳴らして威嚇音を出してくる。
しばし睨み合っていると、フクロウの後ろからメリアが現れ、フクロウの羽根をむんずと掴んだ。
「ホッホー、汝、金の羊の娘メリアよ、吾輩の羽根を引っ張るでない……痛っ、いたたたた」
「先生、失礼ですよ?」
もぞもぞとメリアがフクロウによじ登っていく。
「おお、メリアよ。汝は吾輩によじ登るのが好きであるな。よしよし」
先生?
このフクロウが勉強を教えてくれているという医者なのか?
「……メリア、その鳥、いや、その人が前に話してくれた医者なのか?」
「はい! オウル先生は剣闘士団のお医者さんです。私達がアキト様のところへ行くと話したら、ついて行くと言ってくれました。とっても物知りですし、回復魔法の達人なんですよ」
ふむ……。
オウル
梟族
レベル:31
職業:ドルイドLv31
戦闘スキル
MP消費減(-10%)
ジョブスキル
小ヒールLv10 ヒールLv10 グループヒールLv2 ハードスキンLv9
なるほど、これは凄腕だ。
今まで見てきた回復職の中で一番レベルが高い。
なにより、将来メリアが育てば、オウルとあわせて回復役を二人確保できる。
俺もアコライトを外して前衛ジョブを付けられるわけだ。
一気に戦略の幅が広がるぞ。
それに、ハードスキンって確か物理防御力上昇の魔法だよな。
アコライトでもアクセルの次に覚えられるはずだ。
同じスキルでも職によって覚える順番が違ったりするのだろうか。
アコライトとドルイドの違いなのかな?
是が非でも欲しい人材だ。
「ホーー! ホッーー!」
「……」
いつの間にか、セルマが無言でオウルの首をワシャワシャと掻いていた。
「……フカフカ」
その言葉に、シルヴァーナとカリンもおずおずと手を伸ばし……、オウルのお腹をワシャワシャと掻き始めた。
「ホッー! これは困った! さすが、吾輩の愛されボディ! これこれ、銀狼の娘に熊猫の娘よ、そなた達の主人が見ておるぞ。ホッ、ホーー!」
鳴き声をあげながらこっちをチラチラとみてくる。
「ホー、これは困った困った」
チラッ。
「ホッホー、これこれ、そんなに夢中になるでない」
チラッ。
ウゼェ。
悪いな、この娘たちは貰ったぜ、とでも言わんばかりのドヤ顔だ。
そうか、そうか。
そんなにフカフカか。
「汝、巨乳に溺れし小僧よ。お主はメリアに手を出さぬ人物と見た。この娘たちを見ればお主の趣味も分かろうというもの。……しかし吾輩の愛されボディの魅力には敵わなかったようじゃの」
無言でオウルに近付いていく。
それなら思う存分フカフカさせて貰おうか。
「な、なんじゃ。嫉妬深き色欲の権化よ。安心せい、吾輩は鳥類にしか興味が無い。……な、なんじゃ、手を伸ばして……。まさか! 小僧まで吾輩の愛されボディに!? あ、やめんか! どこを触って……。だめじゃっ、そんなっ……ホア~、ホッ! ホア~~~~……」
悪いな、鳥類。
実家の猫で鍛えた俺の催眠按摩を喰らえ。
メリア達の荷物は少ない。
一応、身の回りの小物と少々の着替えは持っていたものの、しっかりと買い揃える必要があるだろう。
それぞれ、荷物を纏めてアイテムボックスに放り込み、オウルを起こせば準備万端だ。
訓練所の受付でメリア達の所有権を俺に移す手続きを済ませると、皆で連れ立って中心街へ歩いていく。
前を歩くメリア達を見ていると、やはり身に着ける物はある程度買い揃える必要がありそうだ。
俺達に比べて服装の質が少し劣る。
メリアは勿論、アリアやセルマのような美人にはそれなりの服を着せたい。
オウルはいかにも魔導師っぽいローブをすっぽりと被っている。
もう日が傾いてきた。
夕日に照らされて、乾ききった土の道がオレンジ色に染まっている。
東の空はもう暗くなり始めた。
やはり地球に比べて一日が短く感じるなぁ。
魔石技術で家電モドキがあるとはいえ、家事に移動にと、それなりに時間が掛かる。
「家に帰ったら、夕飯にしようか。メリアは何か食べたい物はあるか?」
んー……と、メリアが周りに確認を求める。
「いいんですよ。何でも食べたい物を言って」
シルヴァーナが頷くと、
「そ、それならパンが食べたいです!」
と悲しい事を言った。
「ぱ、パンか。勿論パンは出るぞ。他に食べたい物はあるか? あ、食べられない物があったら皆も言ってくれ」
パンが食べたいって……。
「なあ、普段何を食べていたんだ?」
そっとアリアに聞いてみる。
「そうですね、大抵は大麦の粥にニンニクですね」
「……旨いのか?」
「二度と食べたくありません」
「そうか……」
ニンニクはともかく、粥だったら丁寧に作れば美味しくなりそうな気がするけどな。
なんにせよ、今日は気合を入れて夕飯を作ろう。
帰り道の途中で、まずはパン屋に寄って、柔らかいパンを人数分買ってくる。
次に、隣の菓子屋で焼きあがったタルト生地を買った。
オウガスタの人はこのタルト生地に果物やクリーム、ジャムなんかを入れて食べるようだ。
今日はサクランボの蜂蜜漬けを中心に、果物をを入れまくったフルーツタルトを作ってしまおう。
その他にも、野菜、果物、肉類。
……しまった。買いすぎた。
どう考えても食べきれない量だ。
食事の後に出す予定のタルトも結構重いからな。
「みんな、お腹は空いているか?」
全員、重々しく頷いてくる。
心配なかったようだ。
家に着くと、メリア達の部屋割りをする。
個人用の部屋は6部屋しかないからな……。
困っていると、オウルが声を掛けてくれる。
「吾輩とメリアは一緒の部屋でよいぞ。1階の玄関脇の部屋を貰おう」
そう言うと、オウルがニヤリと笑った。
オウル達の部屋は俺の部屋から一番遠い。
つまり、夜の営みの声を考慮して……。
オウルさん、あざっす!
メリア達には部屋の準備と風呂の用意をして貰う。
その間に俺達は食事作りだ。
「シルヴァーナとカリンはスープとサラダの準備をしてくれ」
そう声を掛けて、俺は牛肉をガンガンと薄く伸ばしていく。
今日はカツレツ、由緒正しき洋食にしよう。
パン粉は、保存用に乾燥させたパンを削って作る。
叩いて薄く伸ばした牛肉に、小麦粉、卵、チーズ、パン粉をつけて、たっぷりのバターで揚げ焼きにしていく。
ソースは作り置きしてあるトマトソースだ。
「ふあああ、パンがありますう」
「……肉」
どうやら好評のようだ。
肉とかパンとか、感動する点が料理以前の問題なような気がするが。
「ほら、パンにつけるバターとジャムもあるぞ。肉は足りるか?」
「ホッホー、お主、なかなかの料理上手じゃな。叩いた肉も柔らかいし、ソースの酸味もよいぞ。アリア、ワインをもう一杯頼む」
「はい、お一つどうぞ、先生」
フクロウのくせに言うね。
羽を巻きつけてナイフとフォークも器用に使っている。
つくづく不思議生物だな。
デザートには作った後、冷やしておいたフルーツタルトを切ることにする。
砂糖の代わりに蜂蜜漬けの蜂蜜を使ったカスタードクリームの上に、メロン、ネクタリン、サクランボ、ブルーベリーをこれでもかと載せてある。
「モグモグ……蜂蜜の……香りと……モグモグ……生の果物の酸味が……ジューシーな……」
シルヴァーナ、何言ってるか分からないよ。
口一杯に頬張りながらも冷静な顔ってできるんですね。
ばっさばっさと尻尾が揺れている。
「美味しいタルトですわ。ワインに合いますね」
「……別腹」
アリアとセルマはタルトをつまみにワインを飲んでいる。
そういうのってアリなのか?
でも、たしかにこのタルトは良くできてる。半分残っているし、明日も楽しめるだろう。
「食べながらでいいからちょっと聞いてくれ。実はな、メリア達の購入費に使うはずだった金が丸々浮いた」
「ホー、そういえば、主は貴族に格闘技を教える報酬として我らを貰い受けたのだったな。どうするのじゃ?」
「ああ、考えたんだがな……。装備に思いっきり金を掛けるというのはどうだ?」
「……悪くない」
「旦那様、ご予算はどの程度でしょうか?」
「そうだな……交易の元手も残さなきゃいけないからな……幾らくらいだと思う?」
シルヴァーナとカリンに問いかける。
「そうですね、金貨二、三十枚ってところでしょうか!」
カリンの発言で、メリア達が一斉に噴き出した。
「ゴホッ、ゴホッ、金貨ですって?」
「ホッホー、お主も豪気よな」
「……フィーバー」
メリアに至っては、金額に頭が追い付かず、呆けている。
「しかしのう、そこまでの金額となると、帝都では物が無いぞい」
「そうなんだよなぁ。双角王の迷宮を考えると、装備には妥協したくないんだが……」
なんせ命が掛かっているからな。
それに良い装備を付ければそれだけ探索も進む。悪くない投資だ。
「……当てがないこともないぞい」
「なにか知っているのか、オウル」
「いや、なに。金属製品なら、やはり西のルシタニアじゃろうな。なんせドワーフ共がおるからのう」
「ドワーフ……やっぱりいるのか」
「しかし、ルシタニアに行くには双角王の迷宮を通る必要があるのう」
服を買いに行く服が無いみたいな話になってきたな。
「そうなると、帝都で買えるだけのものを揃えて、後はしばらくレベル上げかなぁ」
まだまだ地道な作業が続きそうだ。
「そのことですが旦那様、メリアも一緒に迷宮で鍛えていただけませんか?」
「それは構わないが……迷宮は危険じゃないか?」
「……弱いままは危険」
それは道理だけど……。
「大丈夫ですよ! 私の時のように一気に上げちゃいましょう!」
なるほど、カリンの時みたいにパワーレベリングすれば危険は少ないか。
「メリア、いいのか?」
「はい! 迷宮でもお役に立ちたいです!」
考えてみれば、俺達が迷宮に行っている間に一人で留守番だもんな。
レベルを上げないと不安でしょうがないな。
「よし、分かった。とりあえず装備を整えて皆でレベルを上げていこう」
風呂からあがれば後はお楽しみタイムだ。
いいんだろうか?
いいんです。
寝室に入ると、そこには4人の天女がいた。
寄ってたかって愛撫されながら、服を脱がされていく。
勿論俺もやられっぱなしではない。
じっくりと順番にキスを交わしていく。
シルヴァーナとカリンは愛情たっぷりに、アリアとセルマは挑発的に。
「さあ、旦那様、私の膝をお使いになって下さいませ」
アリアが俺を招きよせ、頭をそっと膝に乗せてくれる。
桃源郷だ……。
アリアの褐色の艶のある肌からは、何もつけていないのに、香水のような良い匂いが立ち上ってくる。
目の前にはシルヴァーナを超えるほどの膨らみが。
張りのある双丘で、アリアの顔が見え隠れしている。
指先で耳や首筋を愛撫されながら、アリアの柔らかい声が響いてくる。
「旦那様ったら……。今日もずっと私たちのことを食い入るように見てくるんですもの。ね? セルマ」
「……すごくエッチな目だった」
ば、ばれてましたか。
「そうですよ! アキトさんはすっごいエッチなんです」
「それに、アキト様は私達のことをずっと見てるくせに、他の人が私達を見ると嫉妬しちゃうんですよ」
シルヴァーナとカリンが左右から告げ口をする。
二人とも、裏切ったな!
「こーんなに胸の大きい娘ばかり4人も揃えて……皆さん、旦那様にお仕置きして差し上げましょう」
アリアが上から、シルヴァーナとカリンが左右から、セルマが下からじっくりと全身を愛撫してくる。
白いおっぱい、褐色のおっぱい……より取り見取りや!
「んっ……、この変態」
完全に反応マックスである。
「あらぁ? 旦那様ったら、セルマに罵られてこんなに反応してますわよ?」
「うわ、本当です!」
「アキト様がここまで重症だったとは」
「……ドスケベ」
「あらあらあら、また反応しましたわ。皆に見られてるのに恥ずかしいですね~」
4人が目くばせすると、俺を徹底的に翻弄しはじめた。
4人の人間関係はひとまず問題ないようだな。
その証拠に、そんな……こんなのはじめて!
俺の耳元でアリアがそっと囁いてくる。
「旦那様は嫉妬深い変態さんなんですから、私達4人を満足させるまで頑張って頂きますよ……」




