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疑惑

 

今日は約束の剣闘士を譲ってもらう日だ。


「どんな人がいるか楽しみだな」


 そう呟くと


「メリアちゃんのお姉さん……きっと美しい方なんでしょうね」


 シルヴァーナがボソっと返した。


 ……やだなぁ、そういう意味で楽しみなわけではないですよ、シルヴァーナさん。


まぁ、そういう期待が全く無いというと嘘になるが。


「……。どうだろうな。シルヴァーナやカリン並の美人がそうそういるとは思えないが」


 と、とりあえず機嫌を取っておくか。

 

実際、贔屓する訳ではないが、シルヴァーナ達の美しさは図抜けていると思う。


「でもアキトさん、メリアさんのお姉さんならきっと綺麗な金髪ですよ」


 カリンまでどうしたんだ。


 たしかに帝国では金髪が女性の美しさの象徴とされている。

貴族の女性の中には、金髪の鬘を作ったり、髪に金粉をつけたりしているそうだ。


だがな、俺にはそこまでの金髪属性はない。


シルヴァーナの銀髪は長く柔らかく豊かで、光の当たり方によっては青みがかって見える。

こんな綺麗な髪を持った女性はいない。


カリンは最近、毛先の白い黒髪を伸ばしはじめたようだ。

ショートカットもタレ気味の大きな目と合っていて可愛かったんだけどな。


 といっても、女性が髪型を変えるのは、生まれながらの習性と言えるのかもしれない。

そして俺は、それが結構好きなんだな。

そういう訳で、これでも女性の髪型には一家言あるつもりだ。


いや、一家言あるつもりだった、と言ったほうがいい。


なんせ、二人には獣耳がぴょこんと生えているのだ。

言うまでもないことだが、顔立ちや普段の服装によって、似合う髪型というのは変化する。

獣耳に似合う髪型……考察に値するな。






アキト様がぶつぶつと呟きながら、思索に入られたようです。

 そっとカリンと目配せして、アキト様の歩調に合わせて周囲を警戒します。

この辺りは貴族街ですから治安は良いのですが、油断はできません。

食事時などは、振舞いを求めて民が集まりますから。


アキト様はよくあのようにして思索に入られます。

緊急時や私達の将来の為の貯金のお話を聞いたときにはびっくりしました。

アキト様はその辺の探索者とは見ておられるものが違うようです。

現に、決して無理をなさらないにもかかわらず、あれよあれよという間に大金を手に入れ、その上、帝国有数の大貴族と親しくお付き合いするほどとなりました。

あのように思索されているのも、また何かお考えがあるのかもしれません。


それに、アキト様は私たちをとても大切にして下さいます。

私を買っていただいた初日に、焼きたてのパンと温めた蜂蜜とバターを頂きました。

あれはいいものです。

香ばしいパンの香りと、蜂蜜とバターの組み合わせは素晴らしいものです。

宿を出て家に住むようになって以来、朝食に度々出てくるようになりました。


カリンのときは小龍包でしたね。

あんな珍しい食べ物は初めてでした。

あれは家庭では無理なようです。

もっとも、外食というのもたまにはいいものです。


合宿に行く前のケーキも素晴らしいものでした。

たっぷりの干果物にお酒の香りが僅かに漂って……。

またサッカラムを味わいたいものです。


そういえば合宿中、色々と蜂蜜漬けを作っておられました。

……もしや今日!?

大変です! カリンに伝えなくては……。






「アキトさん、シルヴァーナさん、着きましたよ」


 ふと気が付くと、いつの間にか貴族街を抜けて、郊外の剣闘士訓練場に着いていた。

早速、入り口で要件を告げると、すぐにメリアが飛んでくる。


「アキト様、いや、ご主人様! お待ちしておりました」

「……やあ、メリア。元気だったかい?」


 当たり障りなく返事をしておく。

シルヴァーナ達も挨拶をしているようだ。


それにしても、僅か12歳の少女に“ご主人様”と呼ばれるのは、非常にまずい気がする。

なんというか、倫理的に。


それなら17歳のシルヴァーナ達はどうなんだと言われると困るけれど。

もっとも、私的な場では名前で呼んでもらっているが。

公的な場所でご主人様以外はなにかないだろうか……。


とりあえず、メリアに案内してもらい、訓練場の中に入っていった。

 入り口の建物を抜けると、敷地内は剥き出しの地面だ。

周りは木の柵で囲われている。


なんというか……、歯に衣着せて言えば学校の校庭に見えなくもない。

正直に言うなら刑務所の中庭だ。

殺伐とした空気が漂っている。


明らかに子供の教育には良くなさそうだ。


これでも男性剣闘士の訓練場とは別の敷地らしい。

逞しいお姉さま方が物珍しそうに見てくるのでドキドキしてしまう。


だって、お姉さま方の恰好が……その……。

マイクロビキニと腰布だけなんて。


……いいじゃない。

余裕が出来たらまた譲ってもらおう。

グヘヘヘ。


「ご主人様、事前のお話通り、あちらの宿舎に姉さん達を待たせています」


 ごめんね、メリア。邪な考えを抱いてごめんね。

一番教育に悪いのは俺だったね。




 案内されて宿舎に入ると、背の高い女性二人が挨拶してきた。


「旦那様、お初にお目にかかります。アリアザードと申します。どうぞアリアとお呼びください」


 この女性がメリアのお姉さん?

切れ長の黒目に褐色の肌、アッシュグレイの髪をお団子に結い上げている。

 何より、特徴的な長い耳。

ダークエルフだ。


「……ああ、アキト・ハセベという。よろしく頼む。メリアの姉というのはアリア達のことか?」

「はい。義理ではありますが、姉と呼んでくれています」


 そうだよね。

種族からして違うもの。


しかし、予想とは違う方向だけど美人だ……。

残念ながら外にいたお姉さんたちとは違って普通の恰好だけど、それでも起伏に富んだラインが分かる。

だめだ。

シルヴァーナとカリンで大分慣れたはずなのに、匂い立つような色香に脳がやられそうだ……。


「旦那様、こちらにいるのが、メリアのもう一人の姉セルマディア、セルマです」


 そう言うと、アリアに紹介された女性がペコっとお辞儀をした。


「申し訳ありません。セルマは無口なうえに……言葉使いに少々問題がありますが、きっとお役に立ちますわ」


 アリアが追加で説明してくれる。


「ああ、いや、いいんだ。気にしないでいい」


 正直、言葉使いなんてどうでもいい。

そんなことどうでもいいくらい魅力的だ。


濡れたような黒髪に琥珀色の虹彩。

両側からは天に向かって白い捻じれた角が生えている。


それに、素晴らしい褐色の肌にアリアに勝るとも劣らないであろうプロポーション!

服を着ているから正確には分からないが、なんにせよ、俺の好みど真ん中である。


ちなみに俺の好みは健康的で美人でおっぱいの大きい子! 単純明快だ。


その上、二人とも剣闘士としての腕も確からしい。

これ以上一体何を望む?


「シルヴァーナさんにカリンさんですね。メリアがとても親切にしていただいたと聞いています。今後ともよろしくお願いしますね」


 あ、シルヴァーナ達とも仲良くしてほしいな。

メリアにその辺のことは伝えてあるから大丈夫だと思うが。


昔、俺の友人が、女性同士仲良くというのは、世界平和と同じくらい難しいと言っていたっけ。

その言葉が間違っていることを祈ろう。


「そういえば、アリア姉さん、先生はどちらに?」

「また寝てるわよ。ちょっと起こしてきてくれないかしら」

「あ、ご主人様、すぐに先生も呼んできますね」


 メリアがパタパタと奥へ走っていく。

もう昼前なんだけどな。


この間に、アリア達のステータスを確認してしまおう。




アリアザード


ダークエルフ

25歳


レベル:11

職業:ソードダンサーLv11


ジョブスキル

二刀流Lv5 トランスLv6




セルマディア


黒山羊族

20歳


レベル:10

職業:アーチャーLv10


ジョブスキル

集中Lv5 命中率UPLv5




 これは珍しい。

ソードダンサーというのは初耳だな。

二刀流スキルがあるから近接職なんだろうが、トランスってなんだろう。


セルマのほうも、弓を扱える職を見たのは初めてだ。

黒山羊族ってのも気になるな。

紙とか食べるんだろうか。


……いや、聞くのはよそう。

以前、カリンに笹を食べるか聞いて失敗したしな。


なんにせよ、来てもらうことは確定だ。


 一気に人が増えたなぁ。


 相変わらず盾役が居ないことが気になるが、まぁいずれ見つかるだろう。

 パーティは6人までだとしても、これからも人数を増やすつもりだ。


 ローテーションを組んでもいいし、更に人数が増えたら2PT目を作ってもいいしな。


シルヴァーナ達にも目配せをして、ステータスを確認したことを伝える。


「アリア、それにセルマ。メリアと一緒に是非うちに来てほしい。悪いようにはしないつもりだ」

「勿論、そのつもりで集まりましたわ。メリアにも聞いていましたし……。ね、セルマ」

「……剣闘士、危険」


 剣闘士は危険な職業だから、別の場所へ行けるならありがたい、ってことかな?


「一応、探索者も危険のある稼業だぞ。できるだけ安全面に配慮しているが。……それほど剣闘士というのは危険なのか?」


 聞き返すと、セルマが頷く。


「一試合、二試合ではそれほど危険はありません。しかし、やはり何試合も重ねていくうちに……」


 アリアが補足してくれる。


「それに、剣闘士がいくら勝利を重ねても、所詮は賤業。ましてや女剣闘士など性的な目でしか見られません。解放されても市民階級にはなれず、名ばかりの自由民にしかなれませんわ」

「そうか……。うちの方針としては、最大限、皆の生活と安全に気を配っていく。解放後も生活が立ち行くように準備するつもりだ」


 そう言うと、アリアが更に問いかけてくる。


「厚かましいお願いですが、メリアのことは……」

「もちろん、探索には加えない方針だ。さすがに12歳の女の子を迷宮には連れていけないだろう」


 いくら後衛だからといって、さすがに俺も子供を戦わせるほど鬼畜ではない。


「……」


 あれ? アリアもセルマも微妙な表情をしているな。


「ホッホー、アリア達はな、さっきから性的な目で見てくるお主が、自分たちはともかく、メリアにまで手を出さないか不安なのじゃ」


 なんてことを言うんだ!

誤解だ!

たしかにアリアとセルマは性的な目で見ていたけれど!


「さすがにメリアには手を出さん! 人聞きの悪いことを言う奴はだれ……だ!?」

 

振り返ると、ドアのところから人間大の鳥……、フクロウが入ってきた。



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