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仕上げ


 まだまだ練習は続く。

カリンは蹴りは教えない方針のようだ。


「無影脚って技は教えないのか?」

「ご主人様、無影脚とは、地面に影もうつさないほど速い蹴りのことを言います!技ではありませんよ!」


 そうだったのか。

てっきり特別な蹴り技だと思っていた。


「それに、蹴りは難しいです!慣れない人が蹴るとバランスを崩しますし、そのまま掴まれて地面に倒されてしまいます!」


 道理だな。

そういう訳で、ウィリキウスさんはカリンからパンチ技術を、俺とルキウスさんからグラウンドを教えられていく。


元々センスがいいのだろう。

ウィリキウスさんはどんどん強くなっていった。


「アキトさん!ちょっと技を見てもらえませんか」


 とうとうこの時が来たか。

俺が受けに回ってウィリキウスさんが技を掛けていく。


「これがガードポジションですね。さあ、もっと強く圧し掛かってください。もっと強く!技が掛かりません」


 ウィリキウスさんの足を割って、股間に圧し掛かっていく。


「これが三角締めです!」


 ふにょんとした感覚が……。

即、タップである。


「さあ、まだまだ行きますよ。しかし、どうも下帯を付けたままだと感覚が掴めませんね」


 何を言っているのか分かりません。


「うむ、実戦に限りなく近い状況で試すのも大事だな」


 ちょっとルキウスさん?


「なあに、安心しろ。アキトは下帯をつけたままでいいぞ。さ、ウィリキウス、全て脱げ」


 なにが安心なのか。

そっちの心配じゃねえよ。


ちょ、待て、まじでやめ……


「さあ、これが本当の三角締めです。アキトさん!しっかり見てください!」



 


 草原に一陣の風が吹いた。


 遠くでクチナシの花が揺れている。


 柔らかい雨の跡がキラキラと輝いた。


 涙も風が吹き飛ばしてくれればいいのに。



「アキト様~」


 おお……、天使達が呼んでいる。


「アキト様、どうしたんですか?悲しいことがあったんですか?」

「メリア、なんでもありませんよ。大丈夫です」


 シルヴァーナの言葉にも誤魔化されず、メリアが“う~ん”と唸った。


「う~ん、そうだ! アキト様、特別にサクランボを食べましょう!」


 メリアのおかっぱ頭が揺れた。


「……そうか、そうだな!」


 メリアは剣闘士団の仕事が忙しいらしく、なかなか俺達と一緒に遠乗りに行けない。

自然と、サクランボを食べるのはメリアと一緒の時だけという決まりができた。


もっとも、本人はそんな決まり事があるとは知らないから、採り尽さないように毎回真剣になやんでいる。


「メリア、お姉さんと離れていじめられていないか?」


 メリアのお姉さんは剣闘士なのだそうだ。

このヴィッラには男の剣闘士しか連れてこられてないらしく、女剣闘士は帝都の訓練場で別行動だ。


「はい、大丈夫です。剣闘士団のお医者様が面倒を見てくださいますから」

「そのお医者様は……良い人なんだね?」

「はい! 優しくて、紳士で……。それに、とっても物知りなんですよ。勉強も教えてくれるんです」


 これはなかなかの人物らしい。

荒くれ者が多い剣闘士団で勉強を教えてくれるなんて。


「勉強か……」


 俺に何か教えてあげられるものがあるだろうか。


シルヴァーナもカリンも基本的な読み書き計算はできる。

歴史や法学は俺が学ぶ必要がある。

化学物理は教えるほど出来る訳じゃないし、殆ど忘れてしまっている。

数学も怪しいぞ。

政治学や経済学は……どうだろうな。ちょっと難しい気がする。


 なんか悔しいぞ。

そのお医者さんとやらに負けた気分だ。


 貸借対照表と損益計算書の大雑把な書き方だけは教えられるが、どちらもイズマイールではすでに知られていた。


ルキウスさんに貸借対照表を見せると、

「それは主人が自分の奴隷に商売をさせるときに作る書類だな。主人から預かった金と、その使い道を書くんだ」

 と言っていた。


考えてみると、俺が体系的に教えることができるものなんて無いじゃないか。

教科書も無いしお手上げだ。

 ああ!

地球の本さえあればなぁ。

実際にあたって、五月雨的に知識を伝えることしかできないのか。


 くそ!

“体系的に”ってのが曲者だ。

この一言でほとんど全滅だ。


 ……あった!

昔ならっていた算盤だ!

学問なのか技術なのか微妙なところだが、まぁいいだろう。


……あ、だめだ。肝心の算盤がない。


職人を見つけたら絶対試作してもらおう。


「アキト様、どうしたんですか?」


 物思いに沈んでいると、メリアが問いかけてくる。


 今ね、自分の無力を噛み締めていたんだよ。





試合の数日前から、ウィリキウスさんの食事を炭水化物中心に変えていくよう進言した。

現代流のカーボ・ローディングだ。


同時に、ユリアさんにスペシャルドリンクの作り方を教えておく。


「いいですか、ユリアさん。水に蜂蜜と適当な果実を入れて、良く冷やしてウィリキウスさんに渡してあげてください。疲労回復の効果がありますよ」

「本当ですか! 果実はなんでもいいんでしょうか?この季節だとモモかアンズか……ベリー類なんかどうでしょう?」

「大丈夫です。ついでに塩分も取るようにさせてください」


 普通は怪しげなハーブや薄めたワインを飲むらしい。

スペシャルドリンク一つで優位が取れそうだ。


これでユリアさんの好感度も更に上がるだろう。


ウィリキウスさんがレスリングに熱中しすぎて、俺の貞操が危なくなる前に、ユリアさんとくっついてもらわねば。 




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