表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/48

甲斐性

 

 午前中は迷宮でカリンのレベル上げをした。

 カリンを通路付近に待機させ、俺とシルヴァーナでクレイゴーレムを倒していく。

 俺自身のレベルが上がったからだろうか、クレイゴーレムの一撃を何とか受け止められるようになった。

 レベルが上がることによる身体能力向上の凄さに改めて驚かされる。


「クレイゴーレムの一撃を受け止めるとは。ご主人様、流石です」

「すごいです!」

「いや、ギリギリだよ」


 そうは言ってもね。

 シルヴァーナは今まで攻撃を受けてないじゃん。


 でも褒められると悪い気はしないな。

 俺、褒められて伸びるタイプだから……。


 午前中だけでカリンのレベルが一気に6まで上がった。

 レベル差による取得経験値の補正が凄まじいようだ。


 午後はカリン用の防具を買いに出かける。


「格闘家はどういう防具を装備するんだ?」

「えーっと、革か布製で、出来るだけ軽い物がいいです!」

「そうすると、革鎧ではなくて胸当てのほうがいいか」

「そうですね! あと、手首から先が自由になるほうがいいです!」


 ということだったので、革の胸当てと革の手甲を購入する。

 手甲は肘から手首までを保護する物にして、手首から先は自由になるようにした。

 

 武器はいらないのか確認したところ、


「格闘家は鍛え上げた己の肉体が武器なのです!」


 と断言された。


 


 宿に帰ると、昨日と同じように二人を洗ってやり、その後一人で風呂に出かけた。


 帰ってくると、今日もカリンはシルヴァーナの尻尾にじゃれついている。


「ふぁぁぁ、シルヴァーナさんの尻尾には抗いがたい魅力があります~」


 まぁ、それには全面的に同意だ。




 皆で相談して、カリンのレベルが10に達したところで、カリンにも戦ってもらうことにした。

 敵と同じレベルであれば、一撃で死亡することはないだろう。


 カリンのジョブが5になると、基本スキルである崩拳のほかに無影脚というスキルも出てきた。

 これは迷う。厨二心をくすぐられるぜ。


「カリン、ジョブスキルはどうしようか」

「崩拳!崩拳がいいです!」


 カリンは崩拳が好きなようだ。


「しかし蹴りは使わないのか?」

「んー、そう言われると……」


 ということで、崩拳と無影脚をバランスよく取ることにした。

 




 数日たってカリンのレベルが10になった。


「いよいよですね!頑張ります!」


 カリンのやる気は十分のようだ。


「いいか、カリン。まずは俺とシルヴァーナで敵を弱らせる。その後から戦闘に参加しろ。決して無理はするなよ。攻撃を受けたら無理をせず下がれ。機を見て回復するからな」


 そう言って釘を刺しておく。

 あまり頑張りすぎて怪我をされたら心が痛む。


「分かりました! では! ヘシン!」

 

 カリンがパンダに変身する。

 こんなに滑舌悪かったっけ?


「よ、よし、それではいくぞ!」


 いつも通りシルヴァーナと俺でクレイゴーレムの相手をする。

 魔法で先制し、隙を見てシルヴァーナが攻撃。

 シルヴァーナに敵が向かったら、俺が魔法を放つ。

 この繰り返しだ。


「よし、カリン、やってみろ」


 十分敵が弱ったところでカリンに声を掛ける。

 

 すると、カリンは敵の懐へゴロンと転がり込み


「キュイーー!」


 掛け声とともに中段の掌底突きを放った。

 ズン、という音がしてクレイゴーレムがくの字になる。

 そこへすかさず後ろ回し蹴りが決まった。


 なるほど、格闘家は連続攻撃に優れるジョブのようだ。


 後ろへ倒れ込んだクレイゴーレムが光となっていく。


 十分戦えるようなので、それからは3人で狩りをしていった。

 3人で戦うと、戦闘が一層楽になる。

 基本的にシルヴァーナとカリンで交互に敵を引き付けるので、俺にモンスターが向かってくることがない。

 後ろで魔法を撃つだけとなった。


 


 今日の稼ぎは銀貨10枚を少し超えた。

 過去最高額だ。

 シルヴァーナとカリンもピョンピョンと手を取り合って喜んでいる。


 休みも考えて一月のうち二十日間迷宮に潜るとしても、月あたり金貨2枚、200万円の稼ぎだ。

 年収にすると2400万円となる。

 探索者は税を免除されているので、2400万円がそのまま入ってくることになる。

 イズマイールと地球の物価は違うとはいえ、これはかなりの高収入と言えるのではないだろうか。


 いや、まてよ。

 俺達には保険などない。

 怪我や病気で迷宮に行けないこともあるだろう。

 武器や防具だって基本的には消耗品だ。


 それに、俺は今、シルヴァーナとカリンに給料を払っていない。

 あれ、これ、かなりカツカツじゃないか?


 年収で金貨24枚。

 このうち半分を緊急時の蓄えとして除外するとして、残金が金貨12枚。

 宿屋暮らしを続けると、年間で大体金貨3枚近くかかるだろう。

 残り金貨9枚。

 ここからシルヴァーナ達の給料、武器防具代、昼飯代、服飾費……。


 ……赤字じゃねえか!


「シルヴァーナ……いや、シルヴァーナさん。それにカリンさんも聞いてくれ」


 二人とも、どうしました?、と振り返る。


「あの、お二人の給金についてなんだけど……」


 そう切り出して、正直に計算結果を説明していく。


「という訳で、収支がかなり厳しいんだ」


 そう言うと、


「なんだ、そんなことでしたか」


 と事もなげにシルヴァーナが答えた。

 カリンも何言ってんだコイツみたいな顔をしてくる。


「ご主人様、まずは何からご説明すればいいか……。そうですね、まず、普通の探索者は緊急時の為の蓄えなど持ちません」


 これはまた、随分と無鉄砲な話だな。


「それに、普通、奴隷は買われてから数年は給金が支払われません。なんの技能も持たない奴隷の場合、その間は教育期間ですから」

「なるほど……。しかし、そうは言ってもな。現にシルヴァーナもカリンも立派な戦力に成長しているしな」

「それはご主人様の経験値増加スキルのお蔭でだと思います! こんなに早くレベルが上がるなんて考えられません!」


 うーん、二人掛かりで反論されてしまった。


「それにご主人様。ありがたいことに、ご主人様は奴隷の扱いがとても丁寧です」

「そうなのか?」

「はい! 普通は奴隷用の防具など買って貰えません!」


 それはかえって、自分の首を絞めることになるんじゃないだろうか。

 パーティの戦力を上げれば、自分の為にもなるだろう。


「いいえ、ご主人様。私達奴隷は、普通は使い捨て扱いされます。そこで生き残れるかは自身の才覚とされています」

「それで死んでしまったらどうするんだ?」

「すぐに奴隷を補充します。普通の探索者用奴隷は安いですから。自分で言うことではありませんが、カリンは言うに及ばず、私も探索者用奴隷としてはかなり高値が付きました」


 そういえば、時折、探索者街の外れにある場末の奴隷商は見た目からしてボロかったな。


「ええ、そういった場末の奴隷商では、奴隷の扱いも酷く、値段も捨て値で売られています」


 俺はまだ奴隷制の暗部を見ていなかったわけだ。


「そういう訳で、通常、奴隷には防具も買い与えられませんし、日々の食事や寝床も必要最低限にされます。それだけではありません。味方が奴隷ごと敵を攻撃することもあります」

「それは……ひどすぎるな」

「ですから、私達は良いご主人様に巡り会えた、とよく話しているんですよ。ご主人様がお眠りになった後に」


 それは知らなかった。

 カリンも頷いている。

 やめてくれ、ちょっと恥ずかしいぞ。


「二人とも、よく聞いてくれ。他のパーティは知らないが、俺は絶対に二人をそんな扱いにはしない」


 ここらへんで一度宣言したほうがいいだろう。


「この国じゃ奴隷は物扱いされているかもしれないが、奴隷だって人だ。人には人にふさわしい扱いがある。人としての尊厳がある」


 俺は二人にゆっくりと言い聞かせた。


「こんな稼業だから危険は付き物だが、決して無茶はしないし、二人にもさせないつもりだ。解放後も、二人の暮らしが立ち行くように努力する。今はちょっと甲斐性のない主人かもしれないがな」


 そう言うと、二人が俺の手を取って片膝をついた。


「ご主人様、奴隷としてではなく、この御恩に報いるために忠誠をお誓いします」

「私もです! 人として扱ってもらえるなんて……。必ずご主人様をお守りします!」

「そうか……。それなら今日は祝杯だな!」


 今日くらいは金勘定を度外視していいだろう。

 固めの杯ってやつだ。

 二人の気持ちには必ず答えなくてはならないだろう。

 

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ