笹
カリンの値段は金貨10枚だった。
シルヴァーナの2倍か。
いや、人が1000万円程度で買えると考えると安すぎるのか。
帰りはカリンの服を買って帰るので、ルキウスさんとは別れた。
さすがに再び一緒に輿に乗るのは避けたい。
「そういえば、出身はローラン国でした、って言ってたけどどうして過去形なの?」
「はい! ローラン国は滅びちゃいました!」
重いよ。
元気よく答えてくれたけど、重いものは重いよ。
「でも、私が子供のころなのでよく覚えてません!」
「そ、そうか」
ここは楽しい話題に変えよう。
「そうだ、そろそろ昼飯だな。どこか食堂に入ろう。カリンの好きな物でいいぞ。そういえば、笹もこの前見かけたから……」
「ご主人様」
カリンが真剣な顔をして遮ってきた。
「ご主人様はご存知ないかもしれませんが、熊猫族にとって、その言葉は最大の侮辱です」
話題変え失敗だ。
「そ、そうか。それはすまなかった。謝罪させてくれ」
「いえ、とんでもありません! こちらこそ失礼しました!」
ちなみにシルヴァーナは先ほどからカリンの耳をモフモフしている。
ずるいぞ。
「ところで昼飯だが、なんと言えばいいか、その、特別に好きだったり嫌いだったりするものはあるか?」
「いえ、好き嫌いはありません!」
「そうか、シルヴァーナは何か食べたい物はあるか?」
「ご主人様にお任せします。ご主人様は美味しいお店を見つけるのがお上手です」
そう言われても困っちゃうな。
何が食べたいと女性に聞いて、なんでもいい、と答えられたときは注意しなくてはならない。
この“なんでもいい”は、美味しい物なら何でもいい、の意味である。
早速、脳内グルメマップを検索して、店へと案内する。
「昼だからな、軽めにしよう」
そう言って早速席に着いた。
「ご主人様、ここは何のお店なんでしょう?」
シルヴァーナが鼻をひくひくさせて聞いてきた。
「ここはな、メニューは一つしかないんだ。小麦粉の生地を薄く延ばして、中に豚肉の挽肉と野菜類の餡を包んで蒸し上げた料理だが、食べ方にちょっとコツがある」
そう言うと、早速小龍包のせいろが3枚きた。
「ほあー、変わった料理です! 初めて見ました」
「私もです、ご主人様」
早速食べ方をレクチャーする。
「いいか、まずはこの大きなスプーンの上に小龍包をのせるんだ。そして、箸でそっと生地を破ると……ほら、スープが出てくるだろう? このスープをこぼさないように、スプーンで一気に食べるんだ。熱いからよーく冷ますんだぞ」
そう言って二人のスプーンに小龍包を乗せてやると、二人とも早速口に運んだ。
シルヴァーナの尻尾がピンっと立つと、二人とも口を開けて、ハフハフと口の中から熱気を出す。
「ほら、二人とも。焦ると口の中を火傷するぞ」
二人ともハフハフといいながら、ごくんと飲み込む。
「熱いけど美味しいです。スープがコクがあって……」
「美味しいです! すっごくジューシーです!」
どうやら好評のようだ。
「こっちの酢をつけて食べたり、刻み生姜を一緒に食べても旨いぞ」
そう言うと、3人でハフハフといいながら、10枚も小龍包を平らげてしまった。
気に入ってもらえたようだ。
毎晩寝る前に帝都ウォーカーを読んで予習していた甲斐があった。
勤勉は成功の母だな。
午後からはカリンの服を選んでいく。
あれ?
「そういえばカリン、変身した時、服や防具はどうなるんだ?」
通常時と変身時の2種類のサイズを買わなきゃいけないんだろうか。
「えっと、おっきくなります!」
「は?」
「自然にサイズがおっきくなります!」
何を言ってるんだこの子は。
でもシルヴァーナはうんうんと頷いている。
普通のことなのか……?
「えっと、変身できる種族は、服も破れないようになっています!」
「そ、そうか」
俺は考えるのをやめた。
買い物を終えて宿に戻ると、お湯を二人分頼んで、早速二人を洗ってやった。
カリンは体を洗われることにあまり抵抗がないようだ。
なんだろう、小龍包が効いたのかな。
通常時のカリンにはシルヴァーナと違って尻尾はないようだ。
普段のパンダ成分は頭の上の丸耳と毛先の色だけらしい。
まあ、変身するとパンダそのものになるんだけどね。
二人を洗った後、公衆浴場へ行った。
帰ってくると、パンダ状態になったカリンが仰向けに寝転がって、シルヴァーナの尻尾にじゃれついている。
なぜか俺も一緒にじゃれついた。




