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恋愛経験ゼロの私、愛の女神様に同情されて異世界転生! ~《不落の運命守護》で運命の伯爵様を守ります~  作者: 月城宮 雅仁


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第9話 初めての王都アルヴェリア

「ユイさん、忘れ物はないかい?」


「はい! たぶん大丈夫です!」


「たぶん?」


オスカーさんが笑った。


「だ、大丈夫です! 昨日の夜に三回確認しましたから!」


「それなら安心だね」


王都出張の当日。


私はベルマン商会の前で、荷物を積み込んだ馬車を見上げていた。


今回はオスカーさんと私、それから荷物の管理を担当する商会の従業員さんが一緒に王都へ向かう。


商談用の資料や商品の見本も、すでに積み込まれていた。


「ユイさーん!」


声のするほうを見ると、ミアさんが店から駆け出してきた。


「これ、持っていってください!」


差し出されたのは、小さな布袋だった。


中を覗くと、焼き菓子がいくつか入っている。


「わあ! ありがとう!」


「道中、お腹が空くかもしれませんから!」


「嬉しい! 大切に食べるね!」


「それと、王都で素敵な男性を見つけたら、帰ってきたときに教えてくださいね!」


「ええっ!?」


突然の言葉に、思わず声が裏返った。


「し、仕事で行くんだから!」


「ふふっ。仕事の合間ならいいじゃないですか!」


ミアさんは楽しそうに笑っている。


……もう。


相変わらず、恋愛の話になると遠慮がないんだから。


「そ、それじゃあ、行ってきます!」


「はい! 気を付けて!」


私はミアさんに手を振り、馬車へ乗り込んだ。


やがて馬車がゆっくりと動き出す。


見慣れたベルマン商会の建物が遠ざかっていくのを眺めながら、私は小さく息を吐いた。


異世界に来てから半年。


ついに、初めての王都出張だ。


「……楽しみだなぁ」


そうつぶやくと、オスカーさんが隣で微笑んだ。


「王都は初めてだったね」


「はい! どんなところなんですか?」


「そうだねぇ。人も店も多いし、リーベルクとはまた違った賑やかさがあるよ。王城や大聖堂も見事なものだ」


「王城……!」


思わず身を乗り出してしまった。


異世界の王城。


一度くらい、見てみたい!


「ただし、今回は仕事だからね」


「わ、わかってます!」


「はははっ! 商談が上手くいけば、街を見て回る時間も取れるだろう」


「本当ですか!?」


「もちろん。せっかくの王都だから、楽しんでいくといい」


……やった!


仕事も観光もできるなんて、最高じゃない!


◇


王都までは、馬車でほぼ一日かかるらしい。


途中の宿場町で昼食を取り、馬を休ませながら街道を進んだ。


窓の外には、広い畑や小さな村が次々と流れていく。


ときどき、鎧を着た騎士たちとすれ違うこともあった。


「……あれが王国の騎士さんたちですか?」


私が尋ねると、オスカーさんが頷いた。


「ああ。街道の警備や、魔獣の討伐を担当しているんだよ」


「魔獣……」


そういえば、この世界には魔獣がいるんだった。


リーベルクでは平和に暮らしていたから、今まであまり意識したことがなかった。


「……危険な魔獣って、たくさんいるんですか?」


「地域によるね。街道の周辺は定期的に討伐が行われているから比較的安全だが、森の奥や山間部には危険なものもいる」


「なるほど……」


私は窓の外を見た。


遠くには深い森が広がっている。


あの中には魔獣がいるのかもしれない。


……やっぱり私は、街の中で平和に商売していたいな。


「騎士の仕事も大変なんですね」


「ああ。王国の平和は、ああした人たちに支えられているんだよ」


オスカーさんは、すれ違った騎士たちを見送りながら言った。


その横顔は、いつもより少し真剣だった。


……そうだよね。


私たちが安心して商売できるのも、危険な場所で働いている人たちのおかげなんだ。


私は改めて、遠ざかる騎士たちの背中を見つめた。


◇


夕方が近付いた頃。


「ユイさん、見えてきたよ」


オスカーさんの声に、私は窓の外へ顔を向けた。


「……わあぁっ!」


そこには、想像をはるかに超える光景が広がっていた。


遠くまで続く巨大な城壁。


その向こうには、いくつもの高い塔がそびえ立っている。


そして、街の中央には、ひときわ大きな白い建物が見えた。


「あれが、王城ですか!?」


「そうだよ。エルフォード王国の王城だ」


「すごい……!」


まるで、絵本の中に入り込んだみたいだった。


城壁に近付くにつれ、街道を行き交う馬車や旅人の数も増えていく。


大きな荷馬車。


豪華な装飾のある馬車。


旅装姿の商人たち。


それに、立派な鎧を身に着けた騎士の一団まで。


「……本当に大きな街なんですね」


「ああ。アルヴェリアは王国の中心だからね。商売の規模も、リーベルクとは比べものにならないよ」


やがて馬車は巨大な正門へと到着した。


門の前では兵士たちが出入りする人々を確認している。


オスカーさんが商会の書類を提出すると、私たちの馬車も無事に通行を許可された。


そして、城門をくぐった瞬間。


「……す、すごぉい!」


私は思わず声を上げた。


広々とした石畳の大通り。


その両側には、三階建てや四階建ての建物が立ち並んでいる。


色鮮やかな看板。


豪華な衣服を着た人々。


通りを走る馬車の数も多く、あちらこちらから商人たちの呼び声が聞こえてきた。


「わあ……! あのお店、すごくおしゃれ!」


「はははっ。王都には珍しい品を扱う店も多いからね」


「あっ! あっちには魔道具のお店もあります!」


窓越しに見えるものすべてが新鮮で、私は右を見たり左を見たり大忙しだった。


オスカーさんはそんな私を見て、楽しそうに笑っている。


だって、仕方ないじゃない!


本当に異世界の王都なんだもん!


◇


私たちが宿泊することになったのは、商業区にある『銀月亭』という宿だった。


ベルマン商会が王都へ出張するとき、いつも利用している宿らしい。


落ち着いた雰囲気の建物で、一階には食堂と受付、二階には客室が並んでいる。


「こちらがお部屋になります」


宿の従業員さんに案内された部屋は、リーベルクの『陽だまり亭』より少し広かった。


窓際には小さな机があり、ベッドには清潔な白いシーツが敷かれている。


「……わあ。素敵なお部屋!」


私は荷物を置き、窓の外を眺めた。


通りには夕方になっても大勢の人が行き交っている。


遠くには王城の塔も見えた。


「……本当に来ちゃったんだなぁ」


半年前までは、日本で普通のOLをしていた私。


それが今では異世界の王都に商談へ来ている。


人生って、何が起こるかわからないものだ。


……いや、一度死んでから二度目の人生だけどね!


私は小さく笑った。


◇


翌朝。


私たちは王都にある取引先の商会を訪ねた。


応接室には、ベルマン商会から送られた便利グッズの見本が並べられていた。


「いやはや、ベルマンさん。実に興味深い商品を扱い始めましたな」


取引先の商人が、満足そうに笑った。


「特に、この野菜を薄く切る道具は面白い。料理人たちからも、使いやすいと評判ですよ」


「ありがとうございます」


オスカーさんは穏やかに頭を下げた。


「実は、今回こちらへ同行してもらったユイさんが、これらの商品を考案したんです」


「……ほう!」


取引先の商人が、私に視線を向けた。


「あなたが?」


「は、はい! ユイと申します!」


私は慌てて頭を下げた。


……緊張する。


オスカーさんとの商談には慣れてきたけれど、初対面の商人さんとこうして向き合うのは、やっぱり緊張するなぁ。


「いやいや、そんなに固くならなくても結構ですよ。ぜひ、新しい商品の話を聞かせていただきたい」


「はい!」


私は持参した資料を広げ、最近開発した収納用品や保存容器について説明した。


商品の特徴。


使い方。


どんな人に便利なのか。


実際に使ったときの利点。


前世での仕事を思い出しながら、できるだけわかりやすく話すよう心がけた。


すると、商人さんは何度も頷いてくれた。


「なるほど……。これは確かに面白いですね」


「ありがとうございます!」


「特に、折り畳める収納箱は、王都でも需要がありそうです。商店や倉庫でも使えるでしょう」


「そうなんです! 使わないときは小さくできるので、場所を取らないんです!」


私は実物を使って、折り畳む様子を見せた。


すると、商人さんは目を輝かせた。


「これは便利だ!」


よかった!


ちゃんと伝わった!


その後も商談は順調に進み、いくつかの商品について追加の取引が決まった。


さらに、新商品の販売条件についても引き続き話し合うことになった。


「いやぁ、今日は実に有意義な時間でした」


商人さんが満足そうに笑う。


「こちらこそ、ありがとうございました!」


私は深々と頭を下げた。


初めての王都商談。


どうやら、無事に成功したみたい!


◇


商談を終えたあと、オスカーさんが声をかけてきた。


「ユイさん、今日はよく頑張ったね」


「ありがとうございます!」


「おかげで、いい取引ができたよ。明日は先方が社内で条件を確認するそうだから、こちらも少し時間ができそうだ」


「そうなんですか?」


「ああ。明日は自由に街を見て回っても構わないよ。せっかくの王都だからね」


「……本当ですか!?」


「もちろん。ただし、あまり遠くへは行かないようにね」


「はい!」


……やったぁ!


ついに王都観光だ!


どこへ行こうかな。


王城の近くも見てみたいし、大聖堂にも行ってみたい。


それから、魔道具のお店!


あっ、王都の美味しいお菓子も食べたい!


……忙しくなりそう!


私はそんなことを考えながら宿へ戻った。


◇


その日の夜。


私は『銀月亭』の部屋で、明日の予定を書き出していた。


王城を外から見学。


大聖堂。


商業区のお店巡り。


時間があれば、少し離れた市場にも行ってみたい。


「……ふふっ」


なんだか、普通の旅行みたい。


そういえば、ミアさんにもお土産を買って帰らなきゃ。


きっと喜んでくれるだろうなぁ。


私は机の上に置いた予定表を見つめた。


……うん。


明日も楽しい一日になりそう!


そのとき。


「……あれ?」


ほんの一瞬、胸の奥がざわついた。


なんとも言えない、不思議な感覚……


私は思わず手を止めた。


「……何だろう?」


窓の外では、王都の夜景が静かに広がっている。


特に変わった様子はない。


体調が悪いわけでもない。


「……気のせいかな?」


私は小さく首を傾げた。


きっと、慣れない旅で少し疲れたんだろう。


そう思い、予定表を畳んでベッドへ向かった。


明日は初めての王都観光。


楽しみだなぁ。


私はそんなことを考えながら、目を閉じた。


……その夜。


王都のどこかで、遠く鐘の音が響いた。


一度。


そして、もう一度。


私が眠りに落ちる頃には、その音も聞こえなくなっていた。


翌朝。


私は、いつもどおり目を覚ました。


……そのはずだった。

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