↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛経験ゼロの私、愛の女神様に同情されて異世界転生! ~《不落の運命守護》で運命の伯爵様を守ります~  作者: 月城宮 雅仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/18

第17話 お土産を買っていたら、伯爵様と再会しました!

「……十七日!」


私は宿屋『銀月亭』の前でもう一度つぶやいた。


何度確かめても今日は十七日だ。


……ふふっ。


当たり前のことなのに、こんなに嬉しいなんて!


何十回も繰り返した十六日がようやく終わった。


しかも、レオンハルト様も無事に助かった。


「……よかったぁ」


思わず頬が緩んでしまう。


あっ、そういえば。


「……今日って、仕事あるんだっけ?」


私は足を止めた。


最初に王都へ来たとき、十六日は自由に観光していいと言われていた。


でも、今日は十七日。


取引先との商談の続きがあるかもしれない。


……うん。


勝手に休むわけにはいかないよね!


私はひとまず、オスカーさんのところへ向かうことにした。


◇


「おはようございます、オスカーさん!」


宿の食堂に入ると、オスカーさんは朝食を取りながら書類を確認していた。


「おや、ユイさん。おはよう」


「今日のお仕事について確認したいんですけど、何か予定はありますか?」


「今日かい?」


オスカーさんは手元の書類を見た。


「ああ、取引先から連絡が来ていてね。昨日のうちに、商品の追加注文について社内で承認が下りたそうだ」


「本当ですか!?」


「ああ。あとは細かな納品時期と数量の調整だけだから、私と従業員で対応できるよ」


「そうなんですね!」


よかった!


商談も順調みたいね!


「ところで、ユイさん」


「はい?」


「昨日はずいぶん大変だったそうじゃないか」


「……えっ?」


オスカーさんが心配そうに私を見つめた。


「第三騎士隊の救護を手伝っていたんだろう? 宿に戻ったのも遅かったと聞いたよ」


「あっ、はい!」


そうだった。


オスカーさんにとって、昨日は一度きりの十六日なんだ。


私は少しだけ不思議な気持ちになった。


「騎士の皆さんが大怪我をされたので、治療のお手伝いをしていたんです」


「そうだったのか。怪我はしていないかい?」


「はい! 私は大丈夫です!」


「それならよかった。君は困っている人を見ると、放っておけないところがあるからね」


……うっ。


それは否定できない。


「ですから、今日はしっかり仕事を……!」


「はははっ! 今日は休んでいいよ」


「……えっ?」


「王都へ来てから、ずっと働き詰めだっただろう? 昨日も大変だったようだし、今日はゆっくりしておいで」


「……本当ですか!?」


「ああ。商談のほうも問題ない。せっかくだから、王都を楽しんでいくといい」


「ありがとうございます!」


私は勢いよく頭を下げた。


やったぁ!


今日はお休み!


それなら、やることは決まっている。


「……お土産!」


「ん?」


「あっ、いえ! ミアさんにお土産を買って帰ろうと思って!」


オスカーさんは楽しそうに笑った。


「そうか。きっと喜ぶだろうね」


「はい!」


私は満面の笑みで頷いた。


◇


「……あった!」


商業区の大通りを歩いていると、見覚えのある菓子店が見えてきた。


最初の十六日に訪れたお店だ。


焼き菓子がたくさん並んだ、可愛らしいお店。


「……懐かしいなぁ」


……いや。


普通に考えたらつい昨日のことなんだけど。


私にとってはもうずいぶん前の出来事なんだよね。


何十回も同じ日を繰り返していたんだから。


私は少し笑いながら、店の扉を開けた。


「いらっしゃいませ!」


店員さんが明るく声をかけてくれる。


「あの、こちらの焼き菓子を一箱お願いします!」


私は迷わず、棚に並んでいた箱を指差した。


「ありがとうございます! 贈り物ですか?」


「はい! 友達へのお土産なんです!」


「それでしたら、リボンをお付けしましょうか?」


「ぜひ! 赤いリボンでお願いします!」


店員さんは少し驚いたように笑った。


「あら、ちょうど赤いリボンをご用意していたところなんですよ」


「……ふふっ!」


思わず笑ってしまった。


あの日と同じだ。


でも、今度は違う。


明日になっても、このお土産は消えない。


ちゃんとリーベルクへ持ち帰って、ミアさんに渡せるんだ。


「……ありがとうございます!」


私は包んでもらった箱を、大切にバッグへしまった。


よし!


これで、一つやり残したことが片付いた!


◇


お店を出た私は、そのまま商業区を散策することにした。


今日はお休みだし、急ぐ必要もない。


気になっていた雑貨店を覗いたり、露店で小さな飾りを眺めたり。


……ふふっ。


やっぱり、王都は楽しいなぁ!


そんなふうに歩いていたときだった。


「……ユイ殿?」


「……えっ?」


聞き覚えのある声がした。


私は振り返った。


通りの端に、一台の立派な馬車が止まっている。


その横には、見覚えのある男性が立っていた。


黒い髪。


澄んだ青い瞳。


そして、背の高い身体。


「……レオンハルト様!?」


思わず声が大きくなった。


……えっ!?


どうしてここに!?


しかも、昨日あんな大怪我をしたばかりなのに!


「お身体は大丈夫なんですか!?」


私は慌てて駆け寄った。


すると、レオンハルト様は少し驚いたように目を丸くした。


「……ああ。もう命に関わるような状態ではないよ」


「でも、昨日まで医療院にいたじゃないですか!」


「今日、医療師から伯爵家の屋敷で療養してもよいと許可が出たんだ。今は帰る途中でね」


……なるほど。


退院したところなんだ。


私はほっと胸を撫で下ろした。


「……それならよかったです!」


「心配をかけたな」


レオンハルト様は穏やかに微笑んだ。


……あっ。


また、その笑顔。


昨日、初めてこの人の命を救えたときも同じように笑ってくれた。


……本当に、よかった。


私は自然と笑顔になった。


「元気になられて、本当によかったです!」


「……ありがとう」


レオンハルト様は、少しだけ照れくさそうに視線を和らげた。


……って。


何だろう。


この人、やっぱり格好いいなぁ。


背も高いし、顔も整っているし。


しかも、声まで素敵。


……いやいやいや!


何を観察してるの、私!


相手は伯爵様だよ!?


◇


「ところで、ユイ殿」


「はい?」


「今日は買い物かい?」


「あっ、はい! お友達へのお土産を買いに来たんです!」


私はバッグから、赤いリボンの付いた箱を取り出した。


「これです!」


「焼き菓子か」


「はい! リーベルクにいる友達が、出発するときにお菓子を持たせてくれたので、そのお返しにと思って!」


「そうか。良い友人がいるのだな」


「はい! とってもいい子なんです!」


私は思わず嬉しくなってしまった。


ミアさんのことなら、いくらでも話せそう!


……でも。


「あっ、すみません! こんなお話ばかりしてしまって!」


「いや、構わないよ」


レオンハルト様は小さく笑った。


「君が楽しそうに話すので、こちらまで楽しい気持ちになる」


「……!」


……えっ。


今、何て?


楽しそうに話すから、楽しい気持ちになる?


……そ、そんなこと言われたら!


「そ、そうですか……!」


私は慌てて視線を逸らした。


何だろう。


顔が熱い。


……いけない。


これは、きっとあれだ。


……イケメン耐性がないだけ!


二十五年間、恋愛経験ゼロだったんだから仕方ないよね!


うん!


……絶対そう!


◇


「そういえば、レオンハルト様」


「何だい?」


「昨日のお約束、覚えていらっしゃいますか?」


「……約束?」


「あっ、ほら! お身体がよくなったら、一緒にお茶を飲もうって!」


「……ああ!」


レオンハルト様は思い出したように頷いた。


「もちろん覚えているよ」


「……よかった!」


……いや。


昨日のことなんだから、忘れてるわけないか。


私の時間感覚が、ちょっとおかしくなっているだけだ。


「医療師からは、しばらく安静にするよう言われている。だが、回復したら必ず時間を作ろう」


「はい! 楽しみにしています!」


私は笑顔で頷いた。


すると、レオンハルト様も柔らかく微笑んだ。


「……私も楽しみにしているよ」


……っ!


また!


またその笑顔!


何なんですか、この人!


格好よすぎません!?


私は心の中で盛大にツッコんだ。


◇


「隊長。そろそろお屋敷へ戻りませんと」


そのとき、馬車のそばから声がした。


振り返ると、セドリックさんが立っていた。


「あっ! セドリックさん!」


「ユイ殿。昨日は本当にありがとう」


「いえいえ! 皆さんが無事で何よりです!」


セドリックさんは穏やかに笑った。


そして、レオンハルト様へ視線を向ける。


「隊長。医療師からは、長時間立っていることも控えるよう言われております」


「……わかっている」


「でしたら、馬車へお戻りください」


……あっ。


そうだった。


まだ療養中なんだ!


「レオンハルト様! 早くお戻りください!」


私が慌てて言うと、レオンハルト様は少し困ったように笑った。


「……君までセドリックと同じことを言うのだな」


「当然です! 昨日あんなに大怪我をしたんですから!」


「……そうだな」


レオンハルト様は素直に頷いた。


「では、今日はこれで失礼するよ」


「はい! お大事にしてください!」


私は頭を下げた。


「ユイ殿」


「はい?」


「……改めて、昨日はありがとう」


レオンハルト様は、まっすぐ私を見つめた。


「君に救われた命だ。これからも、大切にすると約束しよう」


「……!」


その言葉に、私は少し驚いた。


……そっか、もうこの人は大丈夫なんだよね。


私が何十回も助けようとして、ようやく救えた命。


その命を、本人も大切にしてくれる。


……なんだか嬉しい。


「……はい!」


私はにっこり笑った。


「絶対ですよ!」


レオンハルト様は穏やかに頷き、馬車へ乗り込んだ。


やがて馬車がゆっくりと走り出す。


私はその姿が見えなくなるまで、手を振っていた。


◇


「……はぁぁぁ」


馬車を見送ったあと、私は大きく息を吐いた。


……びっくりしたぁ。


まさか、こんなところでレオンハルト様に会えるなんて。


しかも、昨日まであんなに大怪我をしていたのに、今日はもう歩けるほど回復している。


……私のスキルってすごいんだなぁ。


私は自分の手を見つめた。


《不落の運命守護》


レオンハルト様を救った不思議な力。


……でも。


「……本当に、あの人が運命の人なのかな?」


私は小さくつぶやいた。


確かに、スキルはあの人を救うために発動した。


時間も戻らなくなった。


だから、何か特別なつながりがあるのは間違いないと思う。


でも、それだけで運命の相手だと決めてしまっていいのかな?


……うーん。


女神様は、運命の人に必ず出会えるって言っていた。


でも、その人が誰なのか、どうやって見分けるのかまでは教えてくれなかった。


「……まあ、今すぐ決めなくてもいいよね!」


私は笑った。


あの人が運命の人かどうかは、まだわからない。


それに、私自身が好きになるかどうかだってこれからの話だ。


……ただ。


「……格好いいのは間違いないけど!」


思わず口にしてしまった。


……わぁぁー!


周りの人に聞かれてないよね!?


私は慌てて辺りを見回した。


幸い、誰もこちらを気にしていない。


……ふうっ、よかった!


私は小さく笑い、再び歩き出した。


まずは、王都でのお休みを楽しもう!


それから、リーベルクに帰ったらミアさんにお土産を渡さなくちゃ。


……そういえば。


伯爵様に会ったこと、ミアさんに話したらどうなるんだろう?


「…………」


私はしばらく考えた。


そして。


「……絶対、恋愛の話にされる!」


思わず頭を抱えた。


……うん。


これは、話す内容をよく考えたほうがよさそうだ。


◇


その頃。


王都の大通りを進む馬車の中。


レオンハルトは、窓の外を静かに眺めていた。


「隊長。お加減はいかがですか?」


向かいに座るセドリックが尋ねる。


「ああ。問題ない」


「それならよろしいのですが、医療師からの指示はお守りください」


「……わかっている」


セドリックは小さく息を吐いた。


「しかし、偶然でしたな」


「……何がだ?」


「ユイ殿とお会いできたことですよ」


「ああ。そうだな」


レオンハルトは短く答えた。


確かに、偶然だった。


馬車の窓から、見覚えのある女性が店を出てくるのが見えた。


それで、思わず声をかけたのだ。


……だが。


なぜ、自分はあんなに自然に彼女へ声をかけたのだろう。


改めて考えると少し不思議だった。


命を救ってくれた恩人。


もちろん、それだけでも十分に声をかける理由にはなる。


だが、彼女の顔を見た瞬間、声をかけたいと思った。


……ただ、それだけのことだ。


レオンハルトは、窓の外へ視線を戻した。


すると、ふと昨日の光景が脳裏に浮かんだ。


金色の光。


自分の手を握る、小さな手。


そして。


「……よかったぁ……」


そうつぶやきながら、一粒の涙をこぼしたユイの顔。


……あの表情。


なぜだろう。


思い出すと不思議な気持ちになる。


胸の奥が少しだけ温かくなるような。


それでいて、何か大切なことを忘れているような。


……いや。


忘れていることなど、あるはずがない。


昨日初めて出会った女性なのだから。


それに、自分はこれまで誰かに特別な感情を抱いたことなどなかった。


女性から好意を寄せられることはあっても、どう応えればいいのかわからず、いつも仕事を優先してきた。


恋人がいた経験も、実は一度もない。


……もっとも。


そんなことを、わざわざ誰かに話すつもりはないが。


「……隊長?」


「ん?」


「何か考え事ですか?」


「いや、何でもない」


レオンハルトは静かに答えた。


セドリックは一瞬だけ目を細めたが、それ以上は尋ねなかった。


レオンハルトは再び窓の外を見た。


……まずは、しっかり礼をしなければ。


昨日は命を救われたばかりで、十分な感謝を伝えられたとは思えない。


それに、彼女とはお茶を飲む約束もしている。


身体が回復したら、きちんと時間を作ろう。


そう考えたとき。


ふと、先ほどのユイの笑顔が浮かんだ。


「……楽しみにしています!」


明るく笑う、あの顔。


レオンハルトは無意識にわずかに口元を緩めた。


それを見たセドリックが静かに眉を上げる。


「……隊長?」


「何だ?」


「いえ。何でもありません」


「……?」


レオンハルトは首を傾げた。


セドリックが何を考えているのか、さっぱりわからなかった。


ただ一つ、確かなことがある。


ユイという女性にもう一度会う約束ができた。


それが、なぜか少し楽しみだった。


……その理由については。


今のレオンハルトには、まだわからないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。