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恋愛経験ゼロの私、愛の女神様に同情されて異世界転生! ~《不落の運命守護》で運命の伯爵様を守ります~  作者: 月城宮 雅仁


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第16話 ようやく迎えた十七日の朝

金色の光が、部屋いっぱいに広がった。


「……こ、これは!?」


治療師さんたちが驚きの声を上げる。


私にも何が起きているのかわからなかった。


ただ、握っているレオンハルト様の手が少しずつ温かくなっていくのを感じていた。


「……伯爵様?」


呼びかけても返事はない。


けれど、光に包まれたレオンハルト様の身体に変化が起き始めていた。


治療師さんたちの回復魔法でも塞ぎきれなかった傷がゆっくりと閉じていく。


青白かった顔にも、少しずつ血色が戻ってきた。


「……し、信じられん」


治療師の一人が、呆然とつぶやいた。


「傷が……治っていく……!」


「生命力も回復しているぞ!」


「そんな……。先ほどまで、あれほど危険な状態だったのに……!」


私は、ただレオンハルト様を見つめていた。


……お願い。


もう少し。


あと少しだけ。


私はその手を、ぎゅっと握りしめた。


すると、金色の光がさらに強く輝いた。


眩しいほどの光が、レオンハルト様の身体を包み込む。


けれど、不思議と目を逸らしたいとは思わなかった。


温かくて、優しくて。


まるで、誰かがそっと背中を押してくれているような感覚だった。


……アモリア様。


これが、女神様のくれた力なんですか?


そう心の中で問いかけた、そのとき。


「……っ」


レオンハルト様の胸が、大きく上下した。


「……!」


私は思わず身を乗り出した。


「伯爵様!?」


もう一度。


今度は、はっきりと。


レオンハルト様が、深く息を吸った。


「……呼吸が安定している!」


治療師さんが声を上げた。


「脈も戻った! もう危険な状態ではないぞ!」


「……えっ?」


私は、治療師さんを見た。


「……ほ、本当ですか?」


「ああ! 信じられないが命は助かった!」


……助かった?


「……本当に?」


「ええ。もう大丈夫です。しばらく安静は必要ですが、命に別状はありません」


その言葉を聞いた瞬間。


胸の奥で、何かがふわっとほどけた。


「……よかった」


小さな声が、自然と漏れた。


私はもう一度、レオンハルト様を見つめた。


穏やかな呼吸。


少しずつ戻ってきた顔色。


そして、握っている手の温もり。


……生きてる。


ちゃんと、生きてる。


「……よかったぁ……」


その瞬間。


ぽろり。


頬を、温かいものが伝った。


「……あれ?」


私は思わず自分の頬に触れた。


涙だった。


一粒だけ。


でも、止めようと思ってもすぐには拭えなかった。


……そっか。


私、泣いてるんだ。


何度も何度も、同じ日を繰り返した。


どうすれば助けられるのかわからなくて、いろんな方法を試した。


何度も失敗して。


そのたびに、この人を失った。


けれど、今は違う。


目の前にいるレオンハルト様はちゃんと息をしている。


ちゃんと、生きている。


「……本当に、よかった……」


私は、握っていた手をそっと両手で包み込んだ。


すると。


「……ユイ、殿……?」


「……!」


顔を上げると、レオンハルト様がゆっくりと目を開けていた。


青い瞳が、まっすぐ私を見つめている。


「……伯爵様!」


私は思わず声を上げた。


「よかった! 本当に、よかったです!」


レオンハルト様は、少し不思議そうに私を見つめた。


そして、私の頬に残った涙に気付いたらしい。


「……泣いて、いるのか?」


「……えっ!?」


慌てて頬を拭う。


「な、泣いてません!」


……いや。


今、思いっきり泣いてたけど!


レオンハルト様の口元が、わずかに緩んだ。


「……そうか」


「そ、そうです!」


「……ありがとう」


その声は、まだ弱々しかった。


でも、確かに聞こえた。


私は小さく首を振った。


「……お礼なんて、いいんです」


だって。


私が、助けたかったんだから。


「……生きていてくれれば、それで十分です」


そう言うと、レオンハルト様は少し驚いたように目を見開いた。


そして静かに頷いた。


「……ああ」


その返事を聞いて、私はようやく笑うことができた。


◇


「……まったく、信じられませんな」


治療師さんたちは、回復したレオンハルト様の状態を何度も確認していた。


「傷はほぼ塞がっている。失われていた生命力まで回復しているとは……」


「通常の回復魔法では、ここまでの回復は不可能です」


「一体、何が起きたのか……」


何人もの視線が、私へ向けられた。


……あっ。


そうだ。


私が光らせちゃったんだった。


……いや、正確には勝手に光ったんだけど!


「あ、あの……!」


私は少し緊張しながら口を開いた。


「私、回復系のスキルを持っているみたいで……!」


「回復系のスキル?」


「はい。今まで使い方がわからなかったんですけど、さっき突然発動したみたいなんです」


これは、今のところ私にも説明できる範囲の話だった。


時間が戻っていることまで話すつもりはない。


それに、正直なところ私自身もスキルの仕組みを全部理解しているわけじゃない。


治療師さんたちは顔を見合わせた。


「なるほど……。特殊な回復能力というわけですか」


「それなら、先ほどの現象にも説明がつきますな」


……いや、説明つくんかい。


私は心の中で小さくツッコんだ。


でも、どうやら納得してもらえたらしい。


……よかった!


◇


しばらくすると、セドリックさんが部屋へ入ってきた。


「隊長の容体は!?」


その表情はいつになく真剣だった。


治療師さんが、穏やかに答える。


「ご安心ください。命は助かりました」


「……!」


セドリックさんは、その場で立ち止まった。


「……本当ですか?」


「ええ。こちらの女性が、非常に珍しい回復能力を発動させましてな」


治療師さんが私を示した。


「……ユイ殿が?」


「え、えへへ……」


何となく照れくさくなって私は小さく笑った。


すると、セドリックさんが深々と頭を下げた。


「……ありがとう!」


「わっ!?」


「隊長は我々を守るために重傷を負った。もし亡くなられていたら、私は……」


セドリックさんは、そこで言葉を止めた。


そして、もう一度頭を下げた。


「本当に、ありがとう!」


「そ、そんな! 頭を上げてください!」


私は慌てて手を振った。


「皆さんが伯爵様を連れて帰ってきてくださったから、助けられたんです!」


「……!」


「だから、皆さんのおかげでもありますよ!」


セドリックさんは少し驚いたあと、ふっと笑った。


「……そうか。君は、そういう人なんだな」


「……えっ?」


「いや。何でもない」


そう言って、セドリックさんは穏やかに微笑んだ。


……何だろう。


ちょっと気になる言い方。


まあ、いっか!


◇


その日の夜。


レオンハルト様は医療院の個室へ移され、しばらく安静にすることになった。


治療師さんたちによると、もう命に危険はないらしい。


私は医療院を出る前に、もう一度だけレオンハルト様の様子を見に行った。


「……伯爵様」


扉を開けると、ベッドに横たわっていたレオンハルト様がこちらへ顔を向けた。


「……ユイ殿」


「お加減はいかがですか?」


「ずいぶん楽になった。医療師たちにも、もう心配はいらないと言われたよ」


「……よかった!」


私はほっと胸を撫で下ろした。


すると、レオンハルト様が真剣な表情になった。


「ユイ殿」


「はい?」


「今日は、本当にありがとう」


「……いえ!」


「君が治療の準備を整えてくれたと聞いた。それだけでも十分ありがたいことだが、まさか命まで救われるとは思わなかった」


「……!」


レオンハルト様は、静かに続けた。


「私は、君に大きな恩を受けた」


「そ、そんな大げさな……!」


「大げさではないよ」


まっすぐな青い瞳が、私を見つめる。


「君がいなければ、私は今ここにいなかっただろう」


……うっ。


そんな真剣な顔で見つめられると困りますっ!


しかも、ものすごく格好いい…


私は思わず目を逸らした。


「……えっと。元気になってくださったなら、それで十分です!」


「……そうか」


レオンハルト様は少しだけ微笑んだ。


「では、せめて。身体が回復したら、改めて礼をさせてほしい」


「……お礼?」


「ああ。君が望むものがあれば、できる限り応えたい」


……ええっ!?


伯爵様から、何でも言っていいみたいなことを言われてしまった!


ど、どうしよう。


高級なお菓子?


珍しい魔道具?


……いやいや!


命を助けたお礼にお菓子をお願いするのも、何だか変だよね!?


私は少し考えたあと笑顔で答えた。


「……それなら、元気になったら一緒にお茶でも飲みませんか?」


「……お茶?」


「はい! せっかくお知り合いになれたので、今度はゆっくりお話ししてみたいです!」


……あっ。


言っちゃった!


伯爵様にお茶のお誘いなんて、ちょっと大胆だったかな!?


レオンハルト様は一瞬目を丸くした。


そして、柔らかく微笑んだ。


「……喜んで」


「……!」


「君と話す時間なら、ぜひ作らせてもらおう」


……わあ。


何だろう。


すごく嬉しい。


私は思わず笑顔になった。


「……楽しみにしてます!」


「ああ。私もだ」


その言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ温かくなった。


……もしかして。


これが、恋愛の始まりだったりして?


……いやいやいや!


まだ早いよね!


私は心の中で自分にツッコミながら、レオンハルト様に頭を下げた。


「それでは、お大事にしてください!」


「ああ。ユイ殿も、気を付けて帰ってくれ」


「はい!」


私は手を振り、部屋をあとにした。


◇


その夜。


私は宿屋『銀月亭』へ戻り、ベッドに腰を下ろした。


「……はぁぁぁ!」


大きな息が漏れた。


……本当に、助かったんだ。


レオンハルト様が。


あの人が、ちゃんと生きている。


何十回も繰り返した十六日。


何度も失敗して、そのたびに朝へ戻された。


でも、今日は違う。


私はレオンハルト様が回復するのをこの目で見た。


それに、ちゃんと話もできた。


……あっ。


そういえば。


「……時間、戻らないよね?」


私は思わず窓の外を見た。


もう夜だ。


……この時間なら、すでに戻っているはず。


でも、今日はまだ戻っていない。


「……ふふっ」


私は小さく笑った。


……大丈夫。


きっと、今度こそ。


私はベッドに横になり、そっと目を閉じた。


「……おやすみなさい」


◇


翌朝。


窓の外から、鳥の鳴き声が聞こえてきた。


柔らかな朝日が、部屋の中を照らしている。


「……んん」


私はゆっくりと目を開けた。


見慣れた天井。


窓。


机の上に置かれた荷物。


……いつもどおり。


でも。


「……あれ?」


私はあることに気付いた。


机の上に置いていた昨日のメモ。


十六日の朝に書いた、治療の準備に関するメモだ。


……残ってる。


私は勢いよくベッドから起き上がった。


「……もしかして!」


急いで一階へ下り、受付へ向かう。


「おはようございます!」


受付の女性が、明るく挨拶してくれる。


「おはようございます! あの、今日は何日ですか!?」


女性は少し驚いた顔をした。


「今日は十七日ですよ?」


「…………」


十七日。


十七日。


……十七日!!


「……やったぁぁぁぁ!!」


私は思わず、その場で飛び跳ねた。


受付の女性が、びっくりしてこちらを見ている。


「ど、どうされました!?」


「あっ! す、すみません!」


私は慌てて頭を下げた。


でも、嬉しくて仕方がなかった。


……やっと。


やっと、明日になった!


何十回も繰り返した十六日。


その先へ、ようやく進めた。


「……ふふっ!」


私は満面の笑みで、宿の外へ出た。


昨日とは違う朝。


昨日とは違う一日。


そして何より。


レオンハルト様が生きている世界。


私は大きく息を吸った。


「……ありがとう、アモリア様!」


青い空に向かって、小さくつぶやいた。


女神様。


私、ようやくわかりました。


《不落の運命守護》


このスキルはただ自分を守るためのものじゃない。


大切な誰かの命を、絶対に諦めないための力なんだ。


そして、その誰かが。


レオンハルト・フォン・クラウゼル伯爵様。


「……ふふっ」


私は、思わず頬を緩めた。


……でも。


この人が、本当に私の運命の相手なのかはまだわからない。


だけど。


「……もう一度、会いたいな」


そんな気持ちが胸の奥に芽生えていた。


私は軽い足取りで、王都の朝の街へ歩き出した。


私の新しい一日は、今、ようやく始まったのだった。

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