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恋愛経験ゼロの私、愛の女神様に同情されて異世界転生! ~《不落の運命守護》で運命の伯爵様を守ります~  作者: 月城宮 雅仁


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第14話 何度繰り返しても伯爵様が助かりません!

「……さて、どうしましょうか!」


私は宿屋『銀月亭』の机に向かい、腕を組んでいた。


今日も十六日。


昨日の私は、クラウゼル伯爵様に直接会い、北の森で危険なことが起きると伝えた。


そのおかげで騎士隊の準備は見直され、負傷者も無事に帰還できた。


……でも。


肝心のレオンハルト様は、また消息不明になってしまった。


「つまり、ちょっと注意してもらうだけじゃ駄目ってことだよね….」


私は紙に大きく丸を描いた。


その中央に書いた名前は、レオンハルト・フォン・クラウゼル。


そして、その周囲に考えられる対策を書き込んでいく。


調査経路を変える。


騎士を増やす。


危険な場所を避ける。


負傷者の搬送方法を見直す。


「……よし!」


まずはできることから試してみよう。


何しろ、何度も挑戦できるみたいだし!


……まあ、好きで繰り返してるわけじゃないんだけどね。


◇


最初に試したのは調査経路の変更だった。


私は朝一番で北門へ向かい、レオンハルト様に会った。


「伯爵様! 北の森の奥へは入らないほうがいいと思います!」


「……君は?」


……あっ。


そうだった。


この人にとっては、今日が初対面なんだ。


「ユイと申します!」


「私はレオンハルト・フォン・クラウゼルだ。何か事情があるのだろうか?」


私は前回の経験をもとに、森の奥で魔獣との交戦が起きる可能性を説明した。


さらに、負傷者が出た場合、隊長が孤立する危険もあると伝える。


レオンハルト様は、真剣に耳を傾けてくれた。


「……なるほど。調査経路を見直す価値はありそうだな」


そう言って、セドリックさんに指示を出した。


その結果、騎士隊は森の奥へ入らず、街道に近い場所を重点的に調べることになった。


「……これなら!」


私は北門で騎士隊を見送り、夕方の帰還を待つことにした。


ところがその日の午後。


「……えっ?」


私は思わず目を瞬かせた。


目の前には、宿屋の天井。


窓から差し込む朝日。


机の上には、見慣れた予定表。


「……十六日?」


私は急いで窓の外を確認した。


間違いない。


また、同じ朝に戻っている。


「……あれ?」


さっきまで、私は北門の近くで騎士隊の帰還を待っていたはずだ。


それなのに、次の瞬間には宿のベッドにいた。


眠った記憶もない。


「……もしかして」


私は腕を組んだ。


「時間が戻るのって夜じゃないの?」


これまでは、伯爵様が消息不明になったあと、宿で眠って翌朝を迎えていた。


だから、眠ることが条件なのかもしれないと思っていたけれど……。


どうやら違うらしい。


「……じゃあ、何がきっかけなんだろう?」


私は少し考えた。


そして、ある可能性に思い至った。


「……伯爵様が、亡くなった瞬間?」


そう考えると説明がつく。


もし私のスキルがレオンハルト様の命を守るものなら、彼が亡くなった瞬間に時間を戻しているのかもしれない。


「……なるほど!」


私はぽん、と手を打った。


「ということは、今の作戦も失敗だったってことだよね!」


……うん。


残念だけど、かなり重要な発見だ。


時間逆行には、はっきりとした発動条件があるのかもしれない。


私は気を取り直して、再び北門へ向かった。


◇


次に試したのは、騎士隊の増援だった。


レオンハルト様に危険を伝え、さらに多くの騎士を同行させてもらう。


今度は、魔獣の群れと遭遇しても、人数で対処できるはずだ。


……そう思ったのに。


夕方近く、私はまた宿のベッドで目を覚ました。


「……駄目かぁ!」


私は思わず天井を見上げた。


今度は、さらに早い時間に戻ってしまった。


……うーん。


人数を増やしただけでは、解決できないらしい。


「……じゃあ、次!」


私は勢いよく起き上がった。


◇


それから、私は何度も十六日を繰り返した。


騎士隊の出発時間を変えた日。


魔獣の目撃場所を事前に伝えた日。


負傷者を早めに搬送してもらった日。


別の騎士隊にも協力してもらった日。


もちろん、全部が思いどおりに進んだわけじゃない。


初対面の私が突然現れて、騎士隊の行動を変えてほしいと言うのだから。


でも、レオンハルト様は毎回私の話をきちんと聞いてくれた。


ある日には、こんなこともあった。


「ユイ殿。君は、なぜそこまで我々を心配してくれるのだ?」


「……えっ?」


「危険な情報を知らせてくれるのはありがたい。だが、君自身には何の得もないだろう?」


私は少し考えた。


……確かに。


普通に考えれば、見ず知らずの騎士たちのために、何度もあちこち走り回る理由なんてない。


でも。


「……皆さんに、無事に帰ってきてほしいからです!」


私がそう答えると、レオンハルト様は少し驚いた顔をした。


そして、穏やかに微笑んだ。


「……ありがとう」


たった一言。


でも、その笑顔がとても印象に残った。


……うん。


やっぱり、この人はいい人だ。


だからこそ絶対に助けたい。


私は改めてそう思った。


◇


同じ日を繰り返すうちに、私の行動も少しずつ変わっていった。


最初の頃は、ただ危険を知らせるだけだった。


でも、何度も繰り返していると、どの時間帯に何が起きるのか、ある程度わかるようになる。


騎士隊が出発する時間。


魔獣との交戦が始まる場所。


負傷した騎士たちが帰還する経路。


私は頭の中でそれらを整理していった。


……手帳に書いても、時間が戻れば消えちゃうからね。


今ではすっかり暗記してしまった。


「……なんだか、試験勉強みたい」


私は一人で笑った。


もっとも、試験なら一度合格すれば終わる。


でも、この調査はなかなか終わらなかった。


何度も工夫して、結果を確かめる。


うまくいかなければ、またやり直す。


その繰り返しだった。


そして、いつしか。


十六日を繰り返した回数は、二十回を超えていた。


「……二十回以上も同じ日って、なかなかすごいよね」


私は宿のベッドに腰を下ろし、天井を見上げた。


もう時間が戻ることにも、すっかり慣れてしまった。


ただ、どうしても気になることがあった。


「……何で、伯爵様だけ助からないんだろう?」


ほかの騎士たちが無事に帰還する日もあった。


魔獣による被害を減らせた日もあった。


それなのに、レオンハルト様だけはどうしても助けられない。


……もしかして。


私はふと、あることを思いついた。


「……そもそも、伯爵様がどうなったのか、ちゃんと確認できてない?」


そうだった。


私は今まで、伯爵様が消息不明になったと聞いたり、突然時間が戻ったりするたびに、次の対策を考えていた。


でも、実際にどんな傷を負っているのかまでは確認できていない。


……これじゃ、対策だって立てられないよね。


「よし! 次は、そこを調べよう!」


◇


次の十六日。


私は早朝から北門へ向かった。


「伯爵様!」


「……君は?」


「ユイと申します! 少しお話を聞いていただけませんか?」


相変わらず、レオンハルト様にとっては初対面。


……もう慣れました!


私はこれまでに集めた情報をもとに、森の奥で魔獣との交戦が起きる可能性を説明した。


そして、最後に一つお願いをした。


「もし負傷者が出たら、必ず全員で帰還してください!」


「……全員で?」


「はい! 伯爵様だけが残るのは、絶対に駄目です!」


レオンハルト様は、少し考え込んだ。


「……君は、私が部下を置いていけないと考えているのだな」


「……えっ?」


「それは否定しない。負傷した者がいれば、できる限り守りたいと思う」


……やっぱり。


この人は、そういう人なんだ。


「ですが、伯爵様自身が戻らなければ部下の皆さんだって悲しみます!」


私がそう言うと、レオンハルト様は目を細めた。


「……そうだな」


そして、少しだけ笑った。


「君の言うことはもっともだ。無事に戻れるよう、最善を尽くそう」


「……はい!」


その日は、セドリックさんを中心に、負傷者の搬送方法まで事前に決めてもらった。


私は北門で待ち、騎士隊の帰還を見届けることにした。


◇


夕方。


第三騎士隊が、ようやく戻ってきた。


私は駆け寄り、先頭にいたセドリックさんへ声をかけた。


「セドリックさん! 伯爵様は!?」


「……隊長なら、こちらだ!」


セドリックさんが指差した先。


そこには、二人の騎士に肩を支えられたレオンハルト様がいた。


「……!」


黒い髪。


青い瞳。


見覚えのある鎧。


でも、その姿は朝とはまるで違っていた。


鎧の一部は壊れ、肩から脇腹にかけて血がにじんでいる。


足元もおぼつかず、部下に支えられてようやく立っている状態だった。


「……伯爵様!」


私は急いで駆け寄った。


レオンハルト様が、ゆっくりと顔を上げた。


「……ユイ、殿……」


「大丈夫ですか!?」


「……ああ。部下たちは……無事だ……」


……もう!


自分がこんな状態なのに、まだ部下の心配をしてる!


「今はご自分のことを心配してください!」


思わず声を上げると、レオンハルト様はかすかに笑った。


「……そう、だな……」


その直後、膝から力が抜けた。


「隊長!」


セドリックさんが慌てて支える。


私も思わず手を伸ばした。


「誰か! 治療できる人はいませんか!?」


「すでに呼んである! だが、ここまでの重傷とは……!」


私はレオンハルト様の顔を見た。


青白い。


呼吸も浅い。


……このままじゃ。


でも、まだ間に合うかもしれない!


「早く、治療師さんのところへ!」


私はセドリックさんたちと一緒に、レオンハルト様の搬送を手伝った。


◇


治療師たちは、すぐに治療を始めた。


私も指示された布や水を運び、できることを手伝った。


けれど、レオンハルト様の傷は想像以上に深かった。


「……傷は塞がり始めていますが、失われた体力が……!」


治療師の一人が厳しい表情でつぶやいた。


私はベッドのそばで、レオンハルト様の手を握った。


「……伯爵様」


返事はない。


でも、かすかに温もりがある。


「……お願いです。助かってください」


私はそっと呼びかけた。


すると、レオンハルト様がわずかに目を開けた。


「……ユイ、殿……」


「はい! ここにいます!」


「……君の、おかげで……皆が……」


「もう! そういうことは元気になってから言ってください!」


私は思わず声を上げた。


レオンハルト様はかすかに笑った。


そして。


「……ありがとう……」


その言葉を最後に、握っていた手から力が抜けた。


「……伯爵様?」


私は顔を上げた。


治療師が慌てて彼の胸元を確認する。


「……っ! 心臓が……!」


次の瞬間。


「……あれっ!?」


目の前に、宿屋の天井が広がっていた。


朝日。


鳥の声。


机の上の予定表。


「……十六日」


私はベッドから起き上がり、両手を見つめた。


さっきまで、確かにレオンハルト様の手を握っていた。


あの人の声も、温もりも、ちゃんと覚えている。


「……やっぱり」


私は小さく息を吐いた。


「伯爵様が亡くなった瞬間に、時間が戻ってるんだ……」


これで、ほぼ間違いない。


私のスキルは、レオンハルト様の命を守ろうとしている。


そして、彼が亡くなると十六日の朝へ戻してくれる。


……でも。


「……こんなに傷ついても、誰かを守ろうとするんだね」


私は、レオンハルト様の笑顔を思い出した。


何度も会って、何度も話して、ようやくわかってきた。


あの人は、本当に部下を大切にしている。


そして、どれだけ危険でも自分の役目から逃げようとしない。


……だからこそ。


「……助ける方法を、変えなきゃ」


私は小さくつぶやいた。


森へ行かせないことじゃない。


危険を全部なくすことでもない。


この人がどれほど傷ついて帰ってきても、必ず助けられるようにすること。


それが、今の私にできることなのかもしれない。


「……よし!」


私は勢いよく立ち上がった。


今度は、最初から治療の準備を整えておこう。


腕のいい治療師さんを探して、必要な道具を用意して、騎士隊が戻ってきたらすぐに治療できるようにする。


……それでも駄目だったら?


「そのときは、また考える!」


私は鏡の中の自分に向かって笑った。


「伯爵様! 今度こそ、絶対に助けますからね!」


そう言って、私は宿を飛び出した。


私の救出作戦は、いよいよ大詰めを迎えていた。

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